38 / 60
第四章 嘘が誠となる時
7:ヴィクターの捜索②
しおりを挟む村の入口から裏へと回る足跡が、昨日の雨でぬかるんだ地面にしっかりと残っていた。
その足跡は町の裏まで行くと、北東の森の方へ続いている。
(アシュリーは少年に教えられたサンブルレイドの方向へ向かっている! 待ってろアシュリー!!!)
「右足を引き摺っているな……。皆、この足跡を追うぞ!」
苦い顔をしたヴィクターは、すぐに馬で森へ向けて走った。
小さい森へ入った途端、足跡の上に落ち葉が降り積り、足跡が見えなくなった。
「手分けして探しながら進もう! 俺はこっちを行く!」
(足跡も人が通った様子もないな……)
ヴィクターが辺りを見渡しながらゆっくと進んでいると、他の従者からも声が飛ぶ。
「隊長、見当たりません!」
(村を出てから何時間にもなる。いくら怪我と疲労で進みが遅いとしても、もう森は出ているか……。取り敢えずサンブルレイドに向かってみるか……)
ヴィクターは捜索しながら、一旦サンブルレイドを目指すこととした。
アシュリーのヒントを何も得られずに到着したサンブルレイドには、やはりアシュリーの姿はなかった。
(見落としたのか!? 森を出て、サンブルレイドとは違う方向へ行ったのか!?)
「そう遠くない所にいるのは間違いない! 必ず見つけ出せ!」
ヴィクターは捜索人数を増員し、そう指示を出す。
指示を受けた騎士たちが四方八方へ散って行った。
ヴィクターはもどかしい思いで胸を一杯にしながら、アシュリーのリボンを見た。
そしてアシュリーのグリーンの瞳を思い出す。
(アシュリー、無事でいてくれ……)
ヴィクターはリボンを腕に巻き、再び森へ向けて馬を進めた。
ゆっくりと、辺りを見渡しながら……
「くそっ、草の背が高くて見渡しにくい!」
戦闘時には助かる草の背丈が、今日は憎らしくて仕方がなかった。
ヴィクターは顔を顰めながら焦る気持ちを必死に抑え、目を皿のようにして見渡す。
するとふと、突風が吹きヴィクターの左腕に巻かれたアシュリーのリボンがたなびいた。
無意識にリボンへ目がいったヴィクターは、その視線の先に何かが目に止まった。
黄色い枯れた草と青天の青い空の下で、黒い物体が不自然にある。
(何だあれは……?)
ヴィクターは敵や罠である可能性にも備え、ゆっくりと慎重に進む。
「……!?」
それが人だということに気付いたヴィクターは、微動だにしないその人間に、そっと馬から降りて近づく。
うつ伏せに倒れているその人間を剣を使って仰向けにする。
次の瞬間、ヴィクターは全身から血の気が引いた。
それはアシュリーだったのだ。
「アシュリー!!!」
ヴィクターは駆け寄り肩を叩いて声を掛けるが、返事がない。
「アシュリー!!!」
ヴィクターは目に熱いものが込み上げて来るのを感じた。
それほどにアシュリーは、ボロボロの酷い姿だったのだ。
(……生きている。唇は真っ青で手足も冷たいが、身体はとても熱い……。しっかりと首の脈は打っているし呼吸もしている。これほどまでに酷い姿で、さぞ大変だっただろう……)
ヴィクターはアシュリーの今までを想像し、胸が痛くなる。
「見つかりましたか!?」
「ああ、彼女は見つかった。増員部隊は本来の捜索に動員しろ。近くにいる可能性がある。引き続き捜索を続行せよ! あとは、公爵邸へ医者を呼んでくれ」
部下にそう指示を出し、ヴィクターはアシュリーをそっと抱き上げ、抱えたまま馬に乗った。
そして頭を打っている可能性も考え、念のために振動を最低限に、優しく運んだのだった……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
77
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる