12 / 60
第一章 女王と五人の王子たち
12:第四王子エイダン&第五王子オーウェン②
しおりを挟むエイダンが残骸を持ち去ったことで片付けが終わったアシュリーも、その場を立ち去ろとした。
その時、アシュリーは急に何かに飛び掛かられた。
「キャッ!!!」
「ワンッ!!!」
「えっ、犬!?」
犬に飛び掛かられた反動で思わず尻もちをついてしまったアシュリーは、アシュリーの腕にスッポリ収まるサイズの真っ白なフワフワの犬に、そのまま顔をペロペロと舐められている。
「ちょっ、ちょっと……」
アシュリーがあたふたしていると、犬は急にアシュリーから離れた。
何かを見つけたようで、口に咥えて、再びアシュリーの所に戻って来た。
何かを咥えたまま頭を低くして、お尻を上げて尻尾をフリフリと振っている。
大きなまん丸の目は、『遊んで』と言っているかのように輝いている。
「君、お名前は?」
アシュリーが話しかけると、その犬は伏せて謎のものをカジカジと噛み出した。
とても集中していて、話しかけても犬はアシュリーの方を見てはくれない。
元々自分に自信のないアシュリーは、犬に無視されて少し傷付いてしまう。
「ねー、こっちを向いてよー」
犬はアシュリーにそっぽを向いて、一心不乱に噛み続けている。
「可愛いけど、こっちを向いてくれないと可愛くないわよー」
誰か来たら恥ずかしいので、アシュリーは犬にだけ聞こえる声の大きさで話しかける。
「ねー、こっち向いてよー」
そこでアシュリーは、ふと思いついた言葉を口にしてみた。
「お菓子!」
そう呼ぶと、犬は目を輝かせてアシュリーの膝の上に飛び乗って来た。
「わっ!凄いジャンプ力ね! って、ちょっと落ち着いて!!! ごめん、嘘なの!!! 何もあげられるものはないのー!!!」
あまりの犬の興奮ように、アシュリーは再び地面に尻もちをついてしまう。
犬の興奮は落ち着かず、ハアハアとどんどん息が上がっている。しかし、目の輝きは一向に失われる気配がない。
その時、"ガシャガシャ"と袋の音が大きく響いた。
その音に反応した犬は、そちらの方へ走って行く。
そこにはエイダンが立っていて、犬に何か食べ物を与えたようだ。
犬は嬉しそうに尻尾を振りながら、何かを食べている。
そしてエイダンは、その隙に先ほどまで犬が咥えていた物を回収した。
どうやら、さっきの残骸の残りのようだ。
「あっあの、ありがとうございます。助かりました」
エイダンは何も言わず、犬を眺めている。
「あっあのっ、第四王子殿下、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私は女王陛下の侍女としてやって参りました、オーグナー伯爵の娘アシュリーでございます」
アシュリーは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。
「……この犬、オーウェンの」
それだけを言ってエイダンは立ち去ろうとするが、犬が脚にまとわりついて思うように足を進めずにいる。
(普段から交流があるのかしら? 随分懐いているわね……)
アシュリーがエイダンと犬の戯れ(エイダンは少し迷惑そう)を、ほのぼのと見ていると、声がした。
「パン!」
その声に犬は一瞬反応したが、チラッと見ただけで、エイダンに飛び掛かり続けている。
「もー!!! パンは本当にエイダン兄様のことが好きなんだからー! 僕の犬なのにー!!!」
膨れっ面をしながら近付いてくる人物を見て、アシュリーは驚く。
記憶の中のオーウェン第五王子はまだまだ子どもだったが、今目の前に居るオーウェンは少年の姿だったからだ。
身長もアシュリーより少し低い程度だ。
アシュリーが月日の流れを実感していると、エイダンが犬をホイッと抱えてオーウェンに渡した。
犬はエイダンに向かってキャンキャンと吠えているが、お構いなしにエイダンは去って行ったのだった。
1
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は
小学一年生の娘、碧に
キャンプに連れて行ってほしいと
お願いされる。
キャンプなんて、したことないし……
と思いながらもネットで安心快適な
キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。
だが、当日簡単に立てられると思っていた
テントに四苦八苦していた。
そんな時に現れたのが、
元子育て番組の体操のお兄さんであり
全国のキャンプ場を巡り、
筋トレしている動画を撮るのが趣味の
加賀谷大地さん(32)で――。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる