4 / 60
第一章 女王と五人の王子たち
4:第一王子アダム①お見舞い
しおりを挟む第一王子アダムは、体調を崩して床に臥していた。
「アシュリー、私の遣いとして見舞いに行って来ておくれ」
エリザベスのその一言でアシュリーは今、第一王子アダムの部屋の前に立っていた。
エリザベスに持たされた腕いっぱいの花束と一通の手紙を持って……
"ゴクリ"
アシュリーが唾を飲み込むと同時に、アダムの付き人が部屋のドアを開けた。
「殿下、女王陛下の侍女が参りました」
「陛下から聞いている。通せ」
部屋に招かれたアシュリーは、頭を下げてすぐに挨拶をする。
「オーグナー伯爵の娘、アシュリーでございます。この度、女王陛下の侍女として入城いたしました」
「ああ、聞いている。顔を上げろ」
(優しい声だわ……)
そのようなことを考えながらアシュリーがそっと顔を上げると、そこにはとても美しい顔があった。
(第一王子は整った顔立ちだという記憶はあったけれど、これほどまでに綺麗な方だったかしら……?)
今までベッドに横になっていたのだろう。
ベッドの上で身体を起こしているアダムは、立ち上がり、ソファに腰掛けた。
やや気怠そうだが動作全てが綺麗で、アシュリーは思わず見惚れてしまう。
アシュリーの周りに居た若い男性といえば、筋肉質な体育会系の男たちばかりで、アダムのようなスラリとした儚げな男性には免疫がない。
(綺麗……)
アシュリーは、初めて異性に対してそう思った。
二十二歳でアシュリーより五歳年上のアダムは、175cm60kgのモデル体型だ。金髪と赤い瞳が、白い肌にとてもよく映えている。
「話は陛下から聞いているよ。母の親友だったマーズ様の娘さんだそうだね。話し相手も兼務してくれるそうで、私もとても嬉しく思っているよ。陛下のことで何か気になることがあれば、いつでも私に言ってくれ。君の訪問はいつでも歓迎しよう」
ボーッと見惚れているアシュリーを見上げて、アダムは声を掛けた。
アシュリーはハッとして、慌てる。
「あ、ありがとうございます!そのように仰っていただき、嬉しい限りです。ご期待に応えることが出来るように頑張ります」
頭を下げたアシュリーは、再びハッとする。
訪問の目的を見失いそうになっていたことに気付いたのだ。
(お見舞いに来たのだったわ!)
「体調が悪いとのことで、女王陛下よりお見舞いの花束と手紙を預かって参りました」
「ああ、ありがとう」
アシュリーは付き人へ花束を渡そうと足を動かしかけたが、すぐに気配を感じて止まった。
アダムが立ち上がったのだ。
そしてアシュリーのそばまで来て、直接花束を腕いっぱいに抱き抱えた。
アシュリーが驚いていると、1mもない距離にいるアダムが口を開く。
「綺麗だ。これほど大きな花束を抱えて来るのは大変だっただろう。ありがとう」
アダムの笑顔に、アシュリーは固まる。
(もし花束が似合う男性選手権があったら、間違いなく一位だわ)
何故かそんな的外れな思考が頭の中をよぎったあと、自分の役割を思い出して急いで冷静さを取り戻した。
「お心遣いをありがとうございます」
アシュリーは美人の母ローズに似て、顔つきは整っていた。
大きなグリーンの瞳がチャームポイントだ。
しかし、168cm48kgと長身な上にガリガリで貧相な身体がコンプレックスだった。
女性らしい身体付きでは全くないのだ。
自分では、美しさとは無縁だと思っている。
女の自分よりも美しい男性へ、精一杯の笑顔をアシュリーは向けた。
「私は昔から身体が弱くて風邪をひきやすいのだ。陛下には心配ばかりかけていてね……。体調が良くなったら、ゆっくりお茶でもしよう。陛下の様子を教えて欲しいからね」
そう言うアダムの笑顔の裏に、複雑な感情があるのをアシュリーは感じた。
(身体が弱くて辛い想いをたくさんされてきたのかもしれないわ……)
そう同情を感じると同時に、一つのことも思い出す。
(そうだったわ、王子殿下たちは陛下の物忘れのことを知っているのよね。今は付き人の方が同席しているから口には出さないのね)
「はい、是非。早く良くなられることを願っております。それでは失礼いたします」
アシュリーも含みを持たせた笑顔でそう返し、退室したのだった。
2
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる