【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第一章 女王と五人の王子たち

4:第一王子アダム①お見舞い

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第一王子アダムは、体調を崩して床に臥していた。

「アシュリー、私の遣いとして見舞いに行って来ておくれ」

エリザベスのその一言でアシュリーは今、第一王子アダムの部屋の前に立っていた。
エリザベスに持たされた腕いっぱいの花束と一通の手紙を持って……

"ゴクリ"

アシュリーが唾を飲み込むと同時に、アダムの付き人が部屋のドアを開けた。

「殿下、女王陛下の侍女が参りました」

「陛下から聞いている。通せ」

部屋に招かれたアシュリーは、頭を下げてすぐに挨拶をする。

「オーグナー伯爵の娘、アシュリーでございます。この度、女王陛下の侍女として入城いたしました」

「ああ、聞いている。顔を上げろ」

(優しい声だわ……)

そのようなことを考えながらアシュリーがそっと顔を上げると、そこにはとても美しい顔があった。

(第一王子は整った顔立ちだという記憶はあったけれど、これほどまでに綺麗な方だったかしら……?)

今までベッドに横になっていたのだろう。
ベッドの上で身体を起こしているアダムは、立ち上がり、ソファに腰掛けた。
やや気怠そうだが動作全てが綺麗で、アシュリーは思わず見惚れてしまう。

アシュリーの周りに居た若い男性といえば、筋肉質な体育会系の男たちばかりで、アダムのようなスラリとした儚げな男性には免疫がない。

(綺麗……)

アシュリーは、初めて異性に対してそう思った。
二十二歳でアシュリーより五歳年上のアダムは、175cm60kgのモデル体型だ。金髪と赤い瞳が、白い肌にとてもよく映えている。

「話は陛下から聞いているよ。母の親友だったマーズ様の娘さんだそうだね。話し相手も兼務してくれるそうで、私もとても嬉しく思っているよ。陛下のことで何か気になることがあれば、いつでも私に言ってくれ。君の訪問はいつでも歓迎しよう」

ボーッと見惚れているアシュリーを見上げて、アダムは声を掛けた。
アシュリーはハッとして、慌てる。

「あ、ありがとうございます!そのように仰っていただき、嬉しい限りです。ご期待に応えることが出来るように頑張ります」

頭を下げたアシュリーは、再びハッとする。
訪問の目的を見失いそうになっていたことに気付いたのだ。

(お見舞いに来たのだったわ!)

「体調が悪いとのことで、女王陛下よりお見舞いの花束と手紙を預かって参りました」

「ああ、ありがとう」

アシュリーは付き人へ花束を渡そうと足を動かしかけたが、すぐに気配を感じて止まった。
アダムが立ち上がったのだ。
そしてアシュリーのそばまで来て、直接花束を腕いっぱいに抱き抱えた。

アシュリーが驚いていると、1mもない距離にいるアダムが口を開く。

「綺麗だ。これほど大きな花束を抱えて来るのは大変だっただろう。ありがとう」

アダムの笑顔に、アシュリーは固まる。

(もし花束が似合う男性選手権があったら、間違いなく一位だわ)

何故かそんな的外れな思考が頭の中をよぎったあと、自分の役割を思い出して急いで冷静さを取り戻した。

「お心遣いをありがとうございます」

アシュリーは美人の母ローズに似て、顔つきは整っていた。
大きなグリーンの瞳がチャームポイントだ。
しかし、168cm48kgと長身な上にガリガリで貧相な身体がコンプレックスだった。
女性らしい身体付きでは全くないのだ。
自分では、美しさとは無縁だと思っている。
女の自分よりも美しい男性へ、精一杯の笑顔をアシュリーは向けた。

「私は昔から身体が弱くて風邪をひきやすいのだ。陛下には心配ばかりかけていてね……。体調が良くなったら、ゆっくりお茶でもしよう。陛下の様子を教えて欲しいからね」

そう言うアダムの笑顔の裏に、複雑な感情があるのをアシュリーは感じた。

(身体が弱くて辛い想いをたくさんされてきたのかもしれないわ……)

そう同情を感じると同時に、一つのことも思い出す。

(そうだったわ、王子殿下たちは陛下の物忘れのことを知っているのよね。今は付き人の方が同席しているから口には出さないのね)

「はい、是非。早く良くなられることを願っております。それでは失礼いたします」

アシュリーも含みを持たせた笑顔でそう返し、退室したのだった。








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