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110:真実が明らかになる時②
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今まで黙って成り行きを見守っていた王妃が、ここで口を開く。
「……第二王子夫人、王太子の体調不良の原因がわかったの。辺境の極寒の地にのみ生息する植物だったわ」
「……え、それは、良かったですね……?」
急に話が変わり、夫人は混乱している。
ジャックはすかさず付け足す。
「ヴァイオレット・リッチィが、その植物について第二王子夫人へ教えたことも、渡したことも話してくれた」
「私は知りません! それどころか、それならソフィア様が知っていてもおかしくないではありませんか! 元義母なのですから!」
夫人はすぐに声高に反論した。
しかし再び、冷静な王妃の声が響き渡る。
「ええ、ソフィア様はその植物を知っていたわ。騎士であるソフィア様の弟様から聞いてね。リッチィ伯爵も戦争の際に耳にして、冷え性の奥様への土産にと、その植物を手に入れて持ち帰ったそうよ。ジャッカーソン殿下が、リッチィ伯爵家に残っていたその植物を貰って来てくれたわ」
「……それならば、ソフィア様だって手に入れることが出来た、いうことではありませんか!」
あがく夫人に、王妃はいつもと変わらない無表情だが、明らかに冷たい視線を投げかける。
「まだ認めないのね? みっともないわよ」
「……!?」
「私にその植物のことを教えてくれたのは、ソフィア様よ。王太子の病の原因の可能性があると言って。その植物の存在を知りさえしていなかった私たちに、わざわざ」
「……」
衝撃を受けている夫人に、王妃はとどめを刺していく。
「仕掛け指輪に入っていた粉が、王太子の体調不良の原因植物と同じだと発覚した時、私はソフィア様の無実を確信したわ。ただ夫人が犯人だという証拠を見付けるのに、少し手間取ってしまったの。ジャッカーソン殿下が駆け回って下さったのよ」
「……」
もう夫人に、反撃材料は残ってはいなかった。
ただ茫然と立ちつくす夫人は、ぼそっと口を開く。
「……ソフィア様が王妃殿下に会いに行ったのは、その植物のことを伝えるため……? けれど、取り入ろうとしていたことに変わりはないわ……」
「……何故、このようなことをしたのだ?」
ジャックの問いに、第二王子夫人はただ一言だけ言う。
「皆が、私のことを仲間外れにするから……」
ソフィアが王妃に会いに行ったことを侍女に聞いて知ったのが、夫人の被害妄想開始のきっかけだった。
夫人は、承認欲求の塊だ。
他人に認められたくて仕方がない。
そうでないと、自分に価値がないように感じる。
自分が人の視界に入らないことに、我慢ならないのだ。
「お前、何言って……」
夫人に負けないくらい顔面蒼白な第二王子殿下の声が耳に入り、夫人は声を上げる。
「あなたが国王にさえなっていれば、このようなことにはならなかったのよ! 国王になれなかった奔放な第二王子と結婚した私は、城にいても常に疎外感を感じていたわ。けれど、私は男児を生んだのよ。それで思ったの。もし王太子になにかあれば、我が子に矢面が立つと……。そうすれば、もう孤独を感じなくても良いと」
そこで夫人は、微笑みを浮かべて続けた。
「王太子が居なくなった後、我が子を国王陛下夫妻へ養子に出しても良いとも思っていたわ」
一気に周囲の空気が凍り付いていることも厭わず、第二王子夫人は壊れたように話し続ける。
もう逃げ場はないのだ。
もう罪からは逃れられない。
ならば最後に自分の想いを皆に知って欲しいと。
自分に同情して欲しいと……
「知られずに、少しずつ王太子殿下を弱らせる方法を探していたの。そこで、お母様の友人のヴァイオレット様を思い出したわ。物知りで偽善者ではない彼女なら、何かヒントをくれると思ってコンタクトをとったわ。冗談ぽく、『少しずつ体調を悪く出来るものって何かないかしら?』と尋ねたら、すぐに教えてくれたわ。私も冷え性だからと、その植物も貰ったわ」
自分の華やかな人生の終わりを悟り、精神が壊れた夫人は、泣き笑いでペラペラと話す。
「……王太子殿下は様々な物の中毒を疑い、口にするものには気を遣っていたの。ソフィア様がその植物について教えてくれた頃には、もう食べ物は口に出来なくなっていて、なんとかスプーンで煎じ薬の水薬を飲んでいただけだったのよ。その薬を飲むのをやめたら、3日目には自ら水分を欲したわ。そこから少しずつ食べられるようになっていって、今は回復傾向よ」
王妃はソフィアを見ながら、微笑んで言った。
(あの食物が原因だったなんて!!!)
檀上で呆気にとられながら成り行きを見守っていたソフィアは、王太子の軽快情報に安堵する。
(お役に立てて良かったわ。……それに、まさか王妃殿下に無実を信じて貰えていたなんて……)
あの時勇気を出して行動して良かったと、ソフィアは心から思ったのだった……
「……第二王子夫人、王太子の体調不良の原因がわかったの。辺境の極寒の地にのみ生息する植物だったわ」
「……え、それは、良かったですね……?」
急に話が変わり、夫人は混乱している。
ジャックはすかさず付け足す。
「ヴァイオレット・リッチィが、その植物について第二王子夫人へ教えたことも、渡したことも話してくれた」
「私は知りません! それどころか、それならソフィア様が知っていてもおかしくないではありませんか! 元義母なのですから!」
夫人はすぐに声高に反論した。
しかし再び、冷静な王妃の声が響き渡る。
「ええ、ソフィア様はその植物を知っていたわ。騎士であるソフィア様の弟様から聞いてね。リッチィ伯爵も戦争の際に耳にして、冷え性の奥様への土産にと、その植物を手に入れて持ち帰ったそうよ。ジャッカーソン殿下が、リッチィ伯爵家に残っていたその植物を貰って来てくれたわ」
「……それならば、ソフィア様だって手に入れることが出来た、いうことではありませんか!」
あがく夫人に、王妃はいつもと変わらない無表情だが、明らかに冷たい視線を投げかける。
「まだ認めないのね? みっともないわよ」
「……!?」
「私にその植物のことを教えてくれたのは、ソフィア様よ。王太子の病の原因の可能性があると言って。その植物の存在を知りさえしていなかった私たちに、わざわざ」
「……」
衝撃を受けている夫人に、王妃はとどめを刺していく。
「仕掛け指輪に入っていた粉が、王太子の体調不良の原因植物と同じだと発覚した時、私はソフィア様の無実を確信したわ。ただ夫人が犯人だという証拠を見付けるのに、少し手間取ってしまったの。ジャッカーソン殿下が駆け回って下さったのよ」
「……」
もう夫人に、反撃材料は残ってはいなかった。
ただ茫然と立ちつくす夫人は、ぼそっと口を開く。
「……ソフィア様が王妃殿下に会いに行ったのは、その植物のことを伝えるため……? けれど、取り入ろうとしていたことに変わりはないわ……」
「……何故、このようなことをしたのだ?」
ジャックの問いに、第二王子夫人はただ一言だけ言う。
「皆が、私のことを仲間外れにするから……」
ソフィアが王妃に会いに行ったことを侍女に聞いて知ったのが、夫人の被害妄想開始のきっかけだった。
夫人は、承認欲求の塊だ。
他人に認められたくて仕方がない。
そうでないと、自分に価値がないように感じる。
自分が人の視界に入らないことに、我慢ならないのだ。
「お前、何言って……」
夫人に負けないくらい顔面蒼白な第二王子殿下の声が耳に入り、夫人は声を上げる。
「あなたが国王にさえなっていれば、このようなことにはならなかったのよ! 国王になれなかった奔放な第二王子と結婚した私は、城にいても常に疎外感を感じていたわ。けれど、私は男児を生んだのよ。それで思ったの。もし王太子になにかあれば、我が子に矢面が立つと……。そうすれば、もう孤独を感じなくても良いと」
そこで夫人は、微笑みを浮かべて続けた。
「王太子が居なくなった後、我が子を国王陛下夫妻へ養子に出しても良いとも思っていたわ」
一気に周囲の空気が凍り付いていることも厭わず、第二王子夫人は壊れたように話し続ける。
もう逃げ場はないのだ。
もう罪からは逃れられない。
ならば最後に自分の想いを皆に知って欲しいと。
自分に同情して欲しいと……
「知られずに、少しずつ王太子殿下を弱らせる方法を探していたの。そこで、お母様の友人のヴァイオレット様を思い出したわ。物知りで偽善者ではない彼女なら、何かヒントをくれると思ってコンタクトをとったわ。冗談ぽく、『少しずつ体調を悪く出来るものって何かないかしら?』と尋ねたら、すぐに教えてくれたわ。私も冷え性だからと、その植物も貰ったわ」
自分の華やかな人生の終わりを悟り、精神が壊れた夫人は、泣き笑いでペラペラと話す。
「……王太子殿下は様々な物の中毒を疑い、口にするものには気を遣っていたの。ソフィア様がその植物について教えてくれた頃には、もう食べ物は口に出来なくなっていて、なんとかスプーンで煎じ薬の水薬を飲んでいただけだったのよ。その薬を飲むのをやめたら、3日目には自ら水分を欲したわ。そこから少しずつ食べられるようになっていって、今は回復傾向よ」
王妃はソフィアを見ながら、微笑んで言った。
(あの食物が原因だったなんて!!!)
檀上で呆気にとられながら成り行きを見守っていたソフィアは、王太子の軽快情報に安堵する。
(お役に立てて良かったわ。……それに、まさか王妃殿下に無実を信じて貰えていたなんて……)
あの時勇気を出して行動して良かったと、ソフィアは心から思ったのだった……
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