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111:久しぶりの抱擁

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「……まさか薬師まで、あなたに脅されていたとはね……」

王妃は眉を顰めている。
薬だと思い”せめてこれだけは”と頑張って与え続けていた物に、原因が含まれていたことを知った時、王妃はショックだった。
思い切って薬ももっと早くやめてみるべきだったと、自分の判断を呪ったのだった……


「ふふっ。人の弱みを握るのが得意なのです」

第二王子夫人は、そこでソフィアを見てフッと笑った。

「せっかく邪魔な王太子殿下を弱らしていたのに、また新しく邪魔者がやって来るのですもの。私の夫とは違って、前国王にも部下たちにも人望が厚い第三王子殿下に、実は男児がいたですって? おまけに私よりも美人な婚約者? 邪魔でしかないわよね? ちょっと揺さぶったら立てついて来るし。せっかく子どもを産んで私の存在感が上がっていたのに……本当に鬱陶しいと思ったわ」

興奮し体温の上がった第二王子夫人は、扇子で扇ぎながら続ける。

「なのになんと、ヴァイオレット様の息子の元嫁ですって? 知った時は笑ったわよ。こんなことがあるんだと思って。ヴァイオレット様にソフィア様のことを伝えたら怒るだろうと思ったのに、ヴァイオレット様はすっかり変わられてしまっていたわ。全然怒らないのだもの。騙されていたことは良い気はしないが、今が幸せだから良いだなんて。拍子抜けしちゃったわよ」

まさか夫人から、このような形でリッチィ伯爵家とヴァイオレットの近況を知ることになるとは、ソフィアは思ってもいなかった。
しかし、素直に嬉しかった。
密かにずっとハンナのことが気がかりだったのだ。

「幼い頃から、あの派手な指輪が記憶に残っていたのよ。あれをソフィア様がつけていたのだと思ったら、何だか可笑しくて……。だからヴァイオレット様に、似た物があったら欲しいと伝えたの。そうしたら、同じデザインの指輪があると言うのだもの。先代が心臓発作出現時にすぐに煎じ薬を飲めるように、薬を忍ばせておくことが出来る指輪を作ったのだと。その仕掛け指輪を見た瞬間、今回のことが思い付いたのよ。……第三王子殿下もソフィア様も子供も、皆んな城からいなくなって欲しかった。私の居場所を取らないで欲しかった、ただそれだけよ」

最初はただ嫌がらせをして追い出すだけのつもりだった。
しかし、羨望と嫉妬が夫人の心をどんどん醜くしていき、思考をエスカレートさせて行ったのだ。
そしてそれを止める者も、考え直させる者も、夫人にはいなかった。
きっかけは些細なこと。
それがこじれて、夫人は後戻りできなくなってしまったのだった……



このあとはソフィアの考えていた通りだった。
ソフィアが王妃にグラスを渡している隙に、夫人はそっと国王のグラスへあの植物の粉を入れた。
出来るだけ早く、そして強く症状が出るように、微量ではなく大量に……
そして、ソフィアに罪をなすり付けるために、指輪の仕掛けの中にも前もって粉を少し入れておいたのだ。

その効果は、第二王子夫人の予想を上回るものだった。
薬効で血流量が急激に増加したことにより、国王は急激に激しい頭痛を発症したのだ。
アルコールによって、植物の効果が促進・増悪したのもあるだろう。
しかし過剰摂取による症状であったため、大量に飲水し解毒を促したことで、徐々に症状は改善されたのだった。



「陛下、罪人の変更をお願いいたします」

ジャックの発言に、国王は頷く。

「ああ。ソフィア・モードンを無罪放免とする。その代わり、今から第二王子夫人の処刑を執行する」

「まっ……兄上、私は何も知らなかったのです!」

今から命が奪われようとしている、顔面蒼白の妻をチラリとも見ずに、第二王子は大声をあげる。
民衆の前でも、このような状況でも、自分が一番可愛いのだ。

「お前は王家から追放だ。妻の尻に敷かれ、野放しにしおって」

呆然とする第二王子の隣で、夫人は大人しく縄を掛けられたのだった……




力が抜け、壇上でヘナヘナとその場に座り込んだソフィアの元へ、ジャックが駆け寄り縄を解いた。

「跡がついているな……痛むか?」

「……大丈夫です。ジャック様とブライトを傷つけた、心の傷の方が痛みます……」

ソフィアの瞳からはハラハラと涙が溢れる。

「……助けるのが遅くなってすまなかった……」

ジャックは力強くソフィアを抱きしめる。
すると、檀上へ駆けあがって来たブライトも抱きついて来た。

「お母様! 絶対に僕より先に死なないで!!!」

ソフィアは込み上げて来た涙を隠すように、ブライトを抱きしめる。

「……いやよ。先には死なせてね。……まだずっと先にね」

ソフィアがそう言うと、三人で泣き笑いをしたのだった……



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