上 下
102 / 113

101:付き纏う物②

しおりを挟む
(……!?)

ソフィアは驚きに目を見開く。

「指輪をしていないのが気になっていたのよ。第三王子殿下には指輪を貰っていないのでしょう? 指が寂しいわよ」

「いいえ、指輪はいただいております! ただ、今はサイズを調整して貰っているところなだけです!」

そう、あの指輪は今、ジャックが宝石店へ預けてくれているのだ。

「この指輪は、一体……」

ソフィアは夫人の手が離れても、左手を下げることが出来ない。
まるで自分の手ではないかのように、おぞましいものを見る目で、自分の左手薬指に嵌められた指輪を見た。

「そういうことにしておいてあげるわ。指輪を貰っていないなんて、恥ずかしくて言えないわよね。ふふっ」

ソフィアを馬鹿にした笑いを浮かべながら、夫人は続ける。

「この指輪、懐かしいのではない? ヴァイオレットと母が旧友で、私も昔からよくして貰っているのよ。この間も会いに来てくれて、色々とあなたの話を聞いたわ」

ソフィアは驚きと不快に目を見開いたまま固まり、声が出て来ない。
前国王に知られたことで、どんどんとソフィアやブライトのことは広まっている。
もう当然、一般貴族の耳にも入っているだろう。

(何故、今更ヴァイオレット様の名前が出て来るのよ……。それに、この指輪……)

「あなたが指輪をしていないことを言うと、この指輪をわざわざ送ってくれたのよ。元嫁が恥をかかないようにって。今日に間に合って良かったわ!」

笑顔で話し続ける夫人に、ソフィアは段々と怒りが湧いて来た。

「この指輪を必ずつけて出席すること! 今日の主役ですもの。これくらい目立つ指輪をしていなくちゃ! つけて来なかったら許しませんからね!」

ソフィアは固まったまま、右手の拳をギュッと握って込み上げて来る怒りを抑えようとする。

「あっあと、サプライズも用意しているから、言う通りに動くのよ! それではまた後で」

ソフィアの反応を見ることなく、第二夫人は言いたいことを言うとさっさと出て行ってしまう。





部屋の扉が閉まると、再びソフィアは上げたままの左手を見た。

(リッチィ伯爵家に代々伝わる指輪……。何でこの指輪がまた、私の指に戻って来るのよ!? 今はハンナ様の物ではないの!?)

相変わらずの、仰々しいだけの重たい指輪だ。

「……私を見世物にして馬鹿にしたいのかしら?」

ソフィアは思わず口に出してしまう。

(このような指輪をしていたら、目を引くわ。ジャック様が送ったと皆は思うでしょう。こんな趣味の悪い指輪を……。この間の陰口のような、些細な嫌がらせね……)

ソフィアは怒りから呆れた感情へ移行し、やっと左手を下ろした。

「……外そうかしら……」

一度外すともう2度と嵌める気にはならないであろう、指輪を見つめながら呟く。

(これをして行かなければ、この間のこともあるし完全に敵対の意を示すことになってしまうわね。今はそれは避けたいわ……)

指輪を見つめながら、グルグルと頭の中で思考が回っているソフィアは、ふと、違和感持った。

(あれ? こんな所に小さな突起があったかしら?)

指輪をよく見ようとしたその時、声が掛かる。

「ソフィア様、もうすぐブライト様がいらっしゃいます。ブライト様の衣装などの最終確認をお願いいたします」

侍女にそう言われ、ソフィアは指輪から目を離した。

(いつもは、いちいちそのような確認をさせないのに)

そう思ったが、ふうっと一息ついて心を落ち着ける。

「ええ、わかったわ」

(もう、仕方ないわね……。ジャック様には後であやまろう……)

ソフィアは諦めて指輪をしていくことにしたのだった……





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...