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46:産後一年
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「ブライト!」
ヴァイオレットに会った後は、ついついブライトをきつく抱きしめてしまう。
キョトンとしているブライトを見て、ソフィアは微笑む。
「ブライト、お母様はちょっと気が汚れてしまったから綺麗にして? ブライトに抱きつくと、綺麗になるの!」
ソフィアがドヤ顔でそう言うと、ブライトは楽しそうにケタケタ笑っている。
クリクリの瞳や鼻の形はジャックに似ている。
唇の形はソフィアだった。
二人の愛の結晶に、ソフィアは日に日にブライトへの愛しさを更新して行く。
愛しい感情は無限大のようだ。
「キャー! アタター!!! ターッ!」
ソフィアが再び抱きしめようとすると、ブライトは宇宙語を喋りながら逃げていく。
最近ブライトは、単語はまだだが宇宙語をよくしゃべり、辿々しい足取りで部屋中を駆け回るのだ。
ソフィアはわざとブライトと一定の距離を取って追いかけて行く。
「ブライト、待てー!!!」
「きゃは! きゃははー!!!」
部屋を出たブライトを追いかけていると、廊下の窓からふと中庭が目に入った。
そこには二人の人物がいる。
「ブライト、捕まえた!」
ソフィアはブライトを抱き上げ、二人の人物を見た。
それはジェームズとハンナだったのだが、ソフィアは自分の目を疑った。
(二人でいる所を見るのは初めてね。……私といる時には信じられない、優しい表情をなさっているわ……)
そう、ジェームズが見たことのない表情をしているのだ。
柔らかい"目の前にいる人が愛おしい"と言わんばかりの表情で、ハンナを見つめている。
ソフィアの位置からはハンナの顔は見えないが、ジェームズの顔をジッと見上げていることはわかる。
(お二人は愛を育まれているのね……)
ソフィアに嫉妬心は一切ない。
いやそれは、正確にいうと誤りかもしれない。
ジェームズとハンナの仲に対する嫉妬心は一切なく、それは間違いない。
しかし、想う人と一緒にいられる羨ましさは抱いていた。
(……ジャック様は元気かしら?)
ジャックのことを思い出すことは度々ある。
落ち込むことがあった時には、もらった指輪を握りしめて涙することもある。
あの孤児院で再開した時のことを、何度思い出したことか……
(リヒターという名の高位貴族はいたかしら?)
あの時たしかに、"リヒター様"と呼ばれていた。
しかし、ソフィアの知る限りはその姓の高位貴族を知らないのだ。
胸元のネックレスにつけている指輪をギュッと握る。
その自分の手に目を落とした時、ソフィアの瞳に映ったのは仰々しい指輪だった。
(ここにいれば衣食住には困らないわ。でも、子どもにとって良い環境とは言えない。父親を旦那様だと教えるかどうかの問題もある。ブライトに好意を抱いていないお義母様と旦那様の存在は、ブライトの自尊心を育む妨げになるだろうし……)
ソフィアはずっと、これからについて考えていた。
けれど、考えても答えは出なかった。
離縁して出戻っても、実家の父は受け入れてはくれないだろう。
高位貴族との縁が切れるのだ。
弟たちたちにも迷惑がかかるかもしれない。
子どもと二人で平民として生きていくことも、頑張れば可能かもしれない。
しかしそうなると、子どもの教育は諦める必要がある。
ソフィアはジャックに貰った指輪を握りしめながら、ジャックの笑顔を思い浮かべる。
(どうか私たちを守って下さいね)
そして、そう願うのだった……---
ヴァイオレットに会った後は、ついついブライトをきつく抱きしめてしまう。
キョトンとしているブライトを見て、ソフィアは微笑む。
「ブライト、お母様はちょっと気が汚れてしまったから綺麗にして? ブライトに抱きつくと、綺麗になるの!」
ソフィアがドヤ顔でそう言うと、ブライトは楽しそうにケタケタ笑っている。
クリクリの瞳や鼻の形はジャックに似ている。
唇の形はソフィアだった。
二人の愛の結晶に、ソフィアは日に日にブライトへの愛しさを更新して行く。
愛しい感情は無限大のようだ。
「キャー! アタター!!! ターッ!」
ソフィアが再び抱きしめようとすると、ブライトは宇宙語を喋りながら逃げていく。
最近ブライトは、単語はまだだが宇宙語をよくしゃべり、辿々しい足取りで部屋中を駆け回るのだ。
ソフィアはわざとブライトと一定の距離を取って追いかけて行く。
「ブライト、待てー!!!」
「きゃは! きゃははー!!!」
部屋を出たブライトを追いかけていると、廊下の窓からふと中庭が目に入った。
そこには二人の人物がいる。
「ブライト、捕まえた!」
ソフィアはブライトを抱き上げ、二人の人物を見た。
それはジェームズとハンナだったのだが、ソフィアは自分の目を疑った。
(二人でいる所を見るのは初めてね。……私といる時には信じられない、優しい表情をなさっているわ……)
そう、ジェームズが見たことのない表情をしているのだ。
柔らかい"目の前にいる人が愛おしい"と言わんばかりの表情で、ハンナを見つめている。
ソフィアの位置からはハンナの顔は見えないが、ジェームズの顔をジッと見上げていることはわかる。
(お二人は愛を育まれているのね……)
ソフィアに嫉妬心は一切ない。
いやそれは、正確にいうと誤りかもしれない。
ジェームズとハンナの仲に対する嫉妬心は一切なく、それは間違いない。
しかし、想う人と一緒にいられる羨ましさは抱いていた。
(……ジャック様は元気かしら?)
ジャックのことを思い出すことは度々ある。
落ち込むことがあった時には、もらった指輪を握りしめて涙することもある。
あの孤児院で再開した時のことを、何度思い出したことか……
(リヒターという名の高位貴族はいたかしら?)
あの時たしかに、"リヒター様"と呼ばれていた。
しかし、ソフィアの知る限りはその姓の高位貴族を知らないのだ。
胸元のネックレスにつけている指輪をギュッと握る。
その自分の手に目を落とした時、ソフィアの瞳に映ったのは仰々しい指輪だった。
(ここにいれば衣食住には困らないわ。でも、子どもにとって良い環境とは言えない。父親を旦那様だと教えるかどうかの問題もある。ブライトに好意を抱いていないお義母様と旦那様の存在は、ブライトの自尊心を育む妨げになるだろうし……)
ソフィアはずっと、これからについて考えていた。
けれど、考えても答えは出なかった。
離縁して出戻っても、実家の父は受け入れてはくれないだろう。
高位貴族との縁が切れるのだ。
弟たちたちにも迷惑がかかるかもしれない。
子どもと二人で平民として生きていくことも、頑張れば可能かもしれない。
しかしそうなると、子どもの教育は諦める必要がある。
ソフィアはジャックに貰った指輪を握りしめながら、ジャックの笑顔を思い浮かべる。
(どうか私たちを守って下さいね)
そして、そう願うのだった……---
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