【完結】指輪はまるで首輪のよう〜夫ではない男の子供を身籠もってしまいました〜

ひかり芽衣

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48:ヴァイオレットの命令

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"コンコン"


入室した二人を見てヴァイオレットは驚く。

「まぁ、また2人で来たの? 1年前を思い出すわね! 最近はすっかり仲が良いのね。なのに何故、子供が出来ないの?」

「子どもは授かり物です」

ソフィアはヴァイオレットに負けないよう、堂々と微笑みをたたえながら言った。

「1人目はすぐに出来たじゃない?」

ヴァイオレットはいつものように椅子にドカッと座り、両手両脚を組んでいる。

"威圧感"

早くに夫を亡くし、女一人で領地を守りながら子どもを育て、立派な領主であり当主に育て上げた自負がある。
威圧感を身に纏うことで、今まで自分の立場を優位にして来たのだ。

「一人目がすぐに出来たことはまぐれ……いえ、奇跡です」

「とにかくもう待てないのよ! いくら私が綺麗で美貌を保っているとはいえ、年々年はとるの! 早く可愛い孫たちと街をねり歩き、羨望の眼差しを浴びたいのよ!」

ソフィアは、自分のコメカミが"ピキッ"と音を立てて軋んだように感じた。

「いつまで待たせるの! あんな卑しい血を継ぐ子にかまけてないで、さっさと次の子を妊娠しなさい! あなたは我が家の嫁なのよ!」

「好き勝手言わないで下さい!」

"卑しい血を継ぐ子"とブライトのことを蔑まれたソフィアは、頭にカッと血が上ってしまう。
声を荒げたソフィアを、ヴァイオレットは嘲笑うかのように微笑みながら見て言う。

「その左手薬指の指輪はなに? 今までのリッチィ伯爵家何代もの血と涙が滲んでいるのよ。あなたで絶やす気? その指輪を受け取ったのなら、しっかりと役目を果たしなさい! あなたは嫁と言う名の奴隷よ!」

今までで一番酷いのではないかと思うほどの言われように、ソフィアは奥歯をグッと噛み締めた。

(自分の立場を優位にしようと、わざと怒らせようとしているのかも……。逆上したら負けよ。冷静になるのよ!)

すると"ポンッ"と肩に手を置かれた。
初めてのジェームズの行動に、ソフィアは驚くしかない。

「母上、さすがに言い過ぎです。ソフィアは頑張っています。子どもが授かるかどうかは、神のみぞ知ることです」

真顔でジッとヴァイオレットを見て言うジェームズに、ヴァイオレットは大きくため息をつく。

「はぁっ……本当に、いつの間にかすっかり口ごたえをするようになって……」

暗い表情をしたのは一瞬で、すぐにヴァイオレットは満面の笑顔を浮かべて続ける。

「そうだわ! 良いことを思いついたわ!」

ソフィアとジェームズは、嫌な予感に眉間に皺を寄せた。
二人にとっては"良いこと"でないのは間違いないからだ。

「あなた達がとても気が長いのも仲良しなのもわかったわ。ならグレージュを屋敷へ住まわせて、グレージュとソフィアのどちらが先に子どもを産むか、二人に競わせましょう!」

グレージュというのが、ヴァイオレットが見つけて来た女だろう。
"パチン"と手を叩いて上機嫌で言うヴァイオレットに、ソフィアとジェームズは固まるしかない。

「ソフィアとは離婚させようと思っていたけど、やはりグレージュよりもあなたの方が好みの顔なのよねー。でももう待てないのよ! グレージュは、今のところソフィアの次に好きな顔なのよ! ねっ、良い案だわ! そうしましょう!!!」

呆れるソフィアと、自分の母の発言であることを恥ずかしく思うジェームズの冷ややかな視線が、ヴァイオレットに向けられる。

「ふざけたことを……」

ジェームズは呆れ果てているが、ヴァイオレットは全く気にせずに続けた。

「どちらにしろ、子供の産めないハンナは用無しね。すぐに出て行って貰いましょう。もうすぐ2年よね? これだけ良い暮らしをさせてやったのだから、もう十分でしょう。自分の今後の行き場も自分で探して貰いましょう」

呆れていたジェームズは、一気に顔面に血液が集中するのを感じる。

「母上! いい加減にして下さい! 人のことを馬鹿にしすぎです!!! 私はもう、言いなりになるつもりはありません! その女を屋敷へ呼ぶことも、ハンナを追い出すことも許しません! 勝手なことをしたら、母上でも許しません!」

大声で断言し、ジェームズは部屋を出て行った。
ヴァイオレットは初めてぶつけられたジェームの怒りに、ポカンと本気で驚いた顔をしている。

「お義母様、私もその案は断固拒否させていただきます!」

ソフィアもそう捨て台詞を吐き、部屋を出て行った。

(競争だなんて! 子どもも、こんなところに産まれて来たくなんてないわよ! 命を何だと思っているのよ!!!)

ソフィアは、怒りに頭の中がどんどん沸騰していくのを感じながら、ブライトの元へさっさと戻ったのだった。




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