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78:ソフィアの願い

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「私は今幸せです。これからも……」

「本当にそうか? 何も希望はないのか?」

ジャックにそう問い詰められ、ソフィアは固まってしまう。

今まで考えないように固く蓋をしていた、心の奥底の蓋が開ける音がした。

ソフィアは咄嗟に服の中にあるネックレスの指輪を”ギュッ”と握りしめる。
大事な指輪なので、普段はいつも服の中に入れているのだ。

(出来ることなら、ジャック様と一緒にいたいわ。ブライトと三人で暮らしたい……)

ソフィアはそう思ったが、言葉にすることはなかった。

(けれど、ジャック様の足枷になるようなことはしたくない……。いくら私やブライトにとって良いことでも、ジャック様にとって良いことでなければ、無理をさせてしまうことになってしまう。それは私やブライトの幸せには繋がらないわ……)

眉間に皺を寄せてすっかり考え込んでいるソフィアに、ジャックは切ない想いになる。

「……考えていることを口に出してはくれないか? 何を言われても怒らないから」

「……」

「俺はソフィアとブライトのことを、心から大切に思っているのだ」

「……」

頑なに口を閉ざすソフィアを、ジャックはもどかしい想いでジッと見つめ続ける。

(何も言わずに頑なに口を閉ざすということは、想いを口にするか迷っているのだな……。どうすれば話してくれるのだろうか……)

ジャックはソフィアの本心が知りたかった。

「……俺があげた指輪を、大事にしてくれているそうだな……」

ソフィアはハッとした顔でジャックを見る。

「ブライトが教えてくれた」

(ブライトが……)

ソフィアは昨日のブライトの言葉を思い出す。

『お父様かもって思っちゃった』

昨日の、瞳を輝かせてジャックのことを話すブライトの顔が一度浮かぶと、もうソフィアの脳裏から離れない。

「……ブライト、正解だったわよ……」

ボソッと発したソフィアの言葉を、ジャックは聞き取ることが出来なかった。

「えっ? 何だって?」

ソフィアの言葉を聞き漏らして悔しがっているジャックの顔を、ソフィアはまじまじと見る。
そして指輪を首元から服の外へ取り出し、胸の前で両手で直にギュッと握った。

「ジャック様、お願いがあります」

ソフィアは”キッ”とジャックを見て言う。

(この目は、孤児院で会った時と同じ目だな……。覚悟を決めた目だ)

ジャックはそう思った。

「何だ?」

(叶えられることなら何でも叶えてみせる)

ジャックも覚悟を決めて尋ねる。

「ブライトと私と、ジャック様と……三人で暮らしてみたいです」

「えっ?」

ジャックは驚き、間の抜けた声を出してしまう。

「だから、先程から結婚しようと言っているではないか……」

ジャックは驚いた表情のまま言う。

「いえ、結婚はいいのです。短期間で……。ブライトに父親との生活をさせてあげたくて……。実は、試験から帰ってから、あなたの話ばかりなのです。そんな憧れの人が実の父親だと知れば、とても喜びます。少しで良いから一緒に暮らして、一緒の時を過ごして欲しいのです。それだけで、これからの人生にとって心の肥料になります。私がそうだったように……」

ソフィアは思いが伝わるように、精一杯話した。

(ブライトは父親を知ることで、今後寂しさをより感じることもあるかもしれない。それでも、短期間でもしっかりと愛されて欲しい。幸せを感じて欲しい。そして、これからの人生を自信をもって歩んで欲しい……)

”愛された記憶”は偉大だ。
母に愛された記憶、ジャックに愛された記憶……
その肯定された記憶が、どれだけソフィアに自信をくれているかわからない。




”……コンコン……”

控えめに部屋の扉をノックする音が、静かな部屋に響き渡った。


「奥様、坊ちゃんが戻られました」





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