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71:sideジャック:見覚えのある指輪
しおりを挟む「お前、調子にのるなよ! 去年までは受験資格もなかったんだから、もっと大人しくしとけよ! 汚れた血が、でしゃばるな!」
ジャックに腕を掴まれながらも、小太りの少年はバタバタと暴れながら暴言を続ける。
王族以外の赤い瞳は珍しく、元のジャックがそうたったように平民が多い。
始めから平民の者もいれば、汚れた血だと貴族社会から追い出される者もいる。
赤い瞳を持つ者の存在は、家系にとってマイナスでしかないのだ。
そのため、一般貴族に赤い瞳が居ることはとても珍しかった。
「俺も赤い瞳だが?」
ジャックは小太りの少年に言った。
少年はその声にやっと冷静になったようで、腕を掴んでいるジャックを見上げると真っ青になる。
小太りの少年は明らかに良い服を着ており、言動からも伯爵家以上の家の者なのだろう。
「それでも俺はきちんと働いているし、お前のように人を差別したりしない」
ジャックは真顔で小太りの少年にそう言うと、少年は泣き出してしまった。
今までちやほやされ甘やかされて育った少年は、大の大人に真顔で怒られたのは初めてで、恐怖を抱いてしまったのだ。
急に大人が登場したためハラハラしながら見ていたブライトは、少年が泣き出したため、慌てて口を開く。
「あ、あの、ありがとうございます。でも大丈夫です。僕は気にしていないので!」
ジャックは小太りの少年を若い女性職員へ引き渡しながら、ブライトを見て言う。
「だが、傷ついたのではないか?」
「いいえ! 僕は傷ついていません! 僕が傷ついたと思っていないから、傷つけられてはいないのです!」
"へへんっ"とまるで『どうだ!』と言わんばかりのブライトに、ジャックは笑みが溢れる。
「そうか、わかった。傷ついてはいないのだな! どうやらお前のご両親は、良いご両親のようだ」
つい”ジッ”とブライトを見てしまうジャックだが、それに負けないくらいブライトも”ジーッ”とジャックを見ていた。
さすがに視線が痛くなったジャックは、苦笑いを浮かべて尋ねる。
「……どうかしたか?」
「あっ、いえ、ジッと見てしまい申し訳ありません! 自分と同じ赤い瞳の人に初めて会ったので、つい……」
ブライトの言葉に、ジャックは胸が痛くなった。
ジャックには、ブライトの気持ちがとてもよく分かるのだ。
「親族に赤い瞳の者がいるのか?」
「父が赤い瞳だそうです。僕は会ったことはないのですが」
笑顔で言うブライトに、ジャックは眉間に皺を寄せる。
「父上は亡くなったのか?」
「あっ、いえ! 多分生きています!」
ブライトは慌てて否定するが、ジャックは何やら引っかかって仕方がない。
「どうせ愛人の子供とかだろ? 捨てられたんだ!」
子供の集団の中から、そんな声が飛んで来た。
「違うよ! お父様はお母様のことが大好きだったんだから!」
「何でそんなことが分かるんだよ!」
周りに群がっている子供たちが「そーだそーだ」と集団でブライトを攻撃している。
大人……それも試験官たちがいてもお構いなしだ。
(当たり前だが、まだまだ子供だな……)
ジャックが呆れていると、ブライトは胸元からネックレスを取り出した。
「本当だよ! この指輪、お母様がお父様から貰った指輪なんだから!」
綺麗なライトブルーの宝石が輝く指輪が、ジャックの目に入る。
「ちょっと待て! よく見せてくれ!」
ジャックは咄嗟にネックレスを引っ張ってしまい、ブライトは慌てる。
「あ、お母様の宝物なんです! お守りに借りているだけなので触らないで下さい!」
ブライトの言葉を聞きながら、ジャックは目を見開いた。
「……お前、名はなんと言う?」
「……ブライト・モードンです……」
ブライトは不思議そうな顔でジャックを見ている。
ジャックは更に目を見開く。
そして”ゴクッ”と唾を飲み込むと、尋ねた。
「……母上の名は?」
「ソフィアです」
ジャックは目を見開き固まった。
(なんだって!?)
しかし次の瞬間、今にも泣きそうな自分に気付いた。
(駄目だ! こんな大勢……それも子供の前で泣くわけにはいかない!)
ジャックは耐えた。
そして、今にもブライトを抱きしめたくて仕方のない腕も、一生懸命に自制した。
ジャックはバッと子供の集団のほうを見ると、冷たい視線を投げかける。
「……固定概念に凝り固まっている者は頭が固いから、学校に入学しても精神的成長は難しいかもしれないな」
ジャックは精一杯に何でもないという風の真顔を作り、わざとつっけんどんな言い方を幼稚な子供の集団へしてから、その場を去った。
再びブライトを見ることはせずに。
いや、冷静を装うのに必死で、ブライトを見る余裕がなかったのだ……
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