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61:父モードン男爵③

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しかしその次の日も、ブライトはモードン男爵の寝室の前へ行くのだ。
ソフィアがドアを開けられないように抑えていたら、ブライトは中に入りたがって言う事を聞かない。

「あー! あー!!!」

ブライトは、ドアの前に立ちはだかりるソフィアを引っ張ってどけようとする。

「ブライト、ここへは入ってはいけません!」

ソフィアが最近すっかり力の強くなって来たブライトを必死で阻止していると、ドアが開き使用人が出て来た。

「旦那様が入るようにと仰っています」

(しまった、声が中まで聞こえていたのね……)

ソフィアが仕方なくブライトを連れて入室すると、モードン男爵は今日はベッドへ座っている。

「……先日と比べて、本日は調子が良さそうですね」

「おい」

ソフィアのことは無視して、モードン男爵はブライトを呼ぶ。
ブライトは”キョトン”として、モードン男爵を物珍しそうに見ている。

「ブライト」

自分の父がブライトの名前を呼んだことに、ソフィアは驚く。
怒っているにも関わらず、むず痒く嬉しいとも感じてしまう。

名前を呼ばれたブライトは、笑顔でモードン男爵へ駆け寄って行く。

「きゃはは」

その時、ソフィアは驚いた。
ブライトの笑顔を見ながら、モードン男爵が笑顔を浮かべているのだ。

(お父様……なんて優しい表情……)

久しぶりに見る父の穏やかな表情に、ソフィアは複雑な感情を抱く。

「もう一度よく顔を見せてごらん。……ああ、鼻の形はエレナに似ているな」

モードン男爵から再び母親の名前が出て来て、死を間近に母を恋しく想っている父の姿に、ソフィアは胸が締め付けられた。

「……お父様、私はお母様に似ているとよく言われるのですが、そうなのですか?」

ずっとソフィアを視界に入れないようにしていたモードン男爵は、そこで初めてそっとソフィアを見た。

「ああ、似ている。……だから、見ていたくないのだ……」

「えっ? ……何故ですか?」

「私がエレナを殺したも同然だからだ。男児が三人に女児もいた、もう十分だったのに……。なぜ私は更に子供を作ってしまったのか……」

モードンはブライトをそっと抱きしめながら、涙を流し始める。
父の涙を見るのは、ソフィアは初めてだった。

病は気を弱くするのだろう。
死を間近にし、意地を張り続けることに疲れたのかもしれない。
心細いのかもしれない。
最後は、誰かに”分かって欲しい”と思うのかもしれない。
誰か一人でも、自分のそばにいて欲しいと思うのかもしれない……


「昨日、エレナが夢に出て来たのだ。そして夢の中で私を叱るのだ。周りの人間をもっと大切にしろと」

目の前で自分の息子を抱いてすすり泣く父親を見ながら、ソフィアは思った。

(すっかり痩せて、小さくなってしまったわね……)

身体全体から父が弱っているのが伝わり、ソフィアは母の死を思い出し、何とも言えない切ない想いになる。

(お父様は、後悔と寂しい気持ちを隠すために、ずっと強がっていただけなのね……)




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