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59:父モードン男爵①
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「申し訳ありません。もう正式に離縁をしたので、戻ることは出来ません」
「……馬鹿者が……。援助金が貰えなくなる……」
病に蝕まれた状態でも頭の中は金のことが一番大事なのかと、ソフィアは少し悲しい気持ちになった。
「……援助金は打ち切られますが、ジェームズ様の配慮で今まで通り仕事は回って来ることとなっているので、心配には及びません」
「……」
久しぶりの娘がたった1mの距離にいるというのに、目を開けようともしない父にソフィアは苛立ちを覚える。
「……本当に、私のことは道具としか見ていないのですね。婚姻前は弟たちの母親代理とでも思っていたのですか? それともただの家政婦ですか?」
ずっと我慢していたソフィアは、首輪を外し解放されブライトという宝物までそばにいる今、もう我慢をすることは出来なかった。
「……お父様、どうか目を開けて下さい。あなたの目の前に、あなたの孫がいるのですよ?」
その言葉に、少しの間の後モードン男爵はうっすらと目をあけ、ブライトを見た。
「……近くに。顔をよく見せてくれ」
ソフィアには目もくれず、ブライトにのみ興味を示す。
ソフィアは仕方なく、抱っこをしているブライトを近づけた。
数分ジッとブライトを見た後、モードン男爵は再び目を閉じた。
「……駄目だ、何処もエレナに似ていない」
(興味を示したかと思えば、お母様の面影を探していただけだというの!?)
ソフィアは反射的に、すぐに近づけていたブライトを父から離す。
「それに……赤い瞳とはどういうことだ?」
「どちらかの祖先に赤い瞳をもつ人がいたということですね」
「……本当に父親はリッチィ伯爵か?」
言葉少なにも関わらず不快なことを言って来る父に、ソフィアは苛立ちを覚え始めた。
「いや、どうでもいい。赤い瞳の子供などこの屋敷へ置いてはおけん。王家の婚外子の蔑まれた汚れた血を引く汚い者など置いておいて、噂が広まっては大変だ。すぐに子供を連れて出て行け」
ソフィアの返答を待たずにモードン男爵はそう言うと、”話は終わり”と言わんばかりに、目を閉じ何も言わなくなった。
「"汚い者"だなんて! 酷すぎます!!!」
ソフィアが怒りに声を荒げても、ひたすら無反応だ。
(もう何も話すつもりはないと言うことね)
ソフィアは何も言わずにブライトを抱きしめ、足早に部屋をあとにした。
「姉上? どうかされましたか?」
「グルック……今お父様に会って来たの。出て行くように言われたわ」
父との会話で不安になったソフィアは、グルックの所へ行くとそう言った。
(迷惑を掛けるのは事実だわ。お父様が言うように悪い噂が立つ可能性も十分にある。本当に私はここに居ても良いのかしら……?)
父と話したソフィアは、改めて”赤い瞳”が疎まれていることを実感したのだ。
「今の当主は実質私のようなものです。姉上、ここに居て下さい」
グルックの迷いのない瞳に、ソフィアは涙が滲む。
(ここに居ることが出来るだけで、今は十分だわ)
ソフィアは、弟たちの暮らすこの屋敷にブライトを連れて戻ることが出来たことが、心から嬉しかったのだった。
しかし、眉を顰めずにはいられない。
(……綺麗な赤い瞳なのに、何故このような言われ方をしないといけないの? ジャック様はどのような人生を歩まれて来たのかしら?)
ソフィアは今日も、空を見上げながら"ギュッ"とネックレスの指輪を握りしめたのだった……
「……馬鹿者が……。援助金が貰えなくなる……」
病に蝕まれた状態でも頭の中は金のことが一番大事なのかと、ソフィアは少し悲しい気持ちになった。
「……援助金は打ち切られますが、ジェームズ様の配慮で今まで通り仕事は回って来ることとなっているので、心配には及びません」
「……」
久しぶりの娘がたった1mの距離にいるというのに、目を開けようともしない父にソフィアは苛立ちを覚える。
「……本当に、私のことは道具としか見ていないのですね。婚姻前は弟たちの母親代理とでも思っていたのですか? それともただの家政婦ですか?」
ずっと我慢していたソフィアは、首輪を外し解放されブライトという宝物までそばにいる今、もう我慢をすることは出来なかった。
「……お父様、どうか目を開けて下さい。あなたの目の前に、あなたの孫がいるのですよ?」
その言葉に、少しの間の後モードン男爵はうっすらと目をあけ、ブライトを見た。
「……近くに。顔をよく見せてくれ」
ソフィアには目もくれず、ブライトにのみ興味を示す。
ソフィアは仕方なく、抱っこをしているブライトを近づけた。
数分ジッとブライトを見た後、モードン男爵は再び目を閉じた。
「……駄目だ、何処もエレナに似ていない」
(興味を示したかと思えば、お母様の面影を探していただけだというの!?)
ソフィアは反射的に、すぐに近づけていたブライトを父から離す。
「それに……赤い瞳とはどういうことだ?」
「どちらかの祖先に赤い瞳をもつ人がいたということですね」
「……本当に父親はリッチィ伯爵か?」
言葉少なにも関わらず不快なことを言って来る父に、ソフィアは苛立ちを覚え始めた。
「いや、どうでもいい。赤い瞳の子供などこの屋敷へ置いてはおけん。王家の婚外子の蔑まれた汚れた血を引く汚い者など置いておいて、噂が広まっては大変だ。すぐに子供を連れて出て行け」
ソフィアの返答を待たずにモードン男爵はそう言うと、”話は終わり”と言わんばかりに、目を閉じ何も言わなくなった。
「"汚い者"だなんて! 酷すぎます!!!」
ソフィアが怒りに声を荒げても、ひたすら無反応だ。
(もう何も話すつもりはないと言うことね)
ソフィアは何も言わずにブライトを抱きしめ、足早に部屋をあとにした。
「姉上? どうかされましたか?」
「グルック……今お父様に会って来たの。出て行くように言われたわ」
父との会話で不安になったソフィアは、グルックの所へ行くとそう言った。
(迷惑を掛けるのは事実だわ。お父様が言うように悪い噂が立つ可能性も十分にある。本当に私はここに居ても良いのかしら……?)
父と話したソフィアは、改めて”赤い瞳”が疎まれていることを実感したのだ。
「今の当主は実質私のようなものです。姉上、ここに居て下さい」
グルックの迷いのない瞳に、ソフィアは涙が滲む。
(ここに居ることが出来るだけで、今は十分だわ)
ソフィアは、弟たちの暮らすこの屋敷にブライトを連れて戻ることが出来たことが、心から嬉しかったのだった。
しかし、眉を顰めずにはいられない。
(……綺麗な赤い瞳なのに、何故このような言われ方をしないといけないの? ジャック様はどのような人生を歩まれて来たのかしら?)
ソフィアは今日も、空を見上げながら"ギュッ"とネックレスの指輪を握りしめたのだった……
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