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42:提案
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ジェームズの冷たい眼差しに負けないように、ソフィアはギュッと拳を握った。
「……ご存知ですか? ハンナさんが、屋敷を追い出されるそうです」
ジェームズはここで初めて瞳を揺らし、動揺の顔を見せた。
「……知っている。それで?」
真顔のジェームズに負けずに、ソフィアも真顔で言う。
ソフィアは賭けに出た。
ジェームズを動揺させることが出来るネタは、これしかないと思ったのだ。
(旦那様が優しいだなんて信じられない。もし本当にそうだとすれば、ハンナさんのことを気に入っているとしか考えられないわ!)
ソフィアは自分の勘を信じることにした。
ハンナは何処か人を惹きつける魅力がある女性だ。
ソフィアも何となく、ハンナには好意的な気持ちを抱いている。
だから、十分にあり得る話だと考えたのだ。
「旦那様はハンナさんを……」
ソフィアはそう言いかけて止めた。
(好意を持っているか聞いて、旦那様が素直に答えて下さるとは限らないわ。逆上する可能性もある……)
「……ハンナさんに屋敷へいて貰いませんか? 私からもお義母様に頼みます」
"ジッ"とジェームズを見ていたソフィアは、ジェームズの瞳が揺れたのを見逃さなかった。
「旦那様は子どもが欲しいのですか?」
これはずっと、ソフィアが疑問に思っていたことだった。
「……跡継ぎは必要だ」
「そのためだけですよね?」
「それ以外に何があると言うのだ」
「自分の血の繋がった子どもが欲しいとお考えですか?」
「母上がそう望んでいる」
ジェームズは"さも当然"というように、真顔を崩さない。
(やっぱりそうなのね)
テンポの良い会話が繰り広げられる中で、ソフィアはそう思った。
ジェームズは自分の子どもはどうでもいいのだ。
ただ跡継ぎが必要だとヴァイオレットに言われ、それに従っているだけなのだ。
「……なら、もうよくありませんか? 幸い、生まれた子は男の子です。あの子を、私たちの子としてこの屋敷で育てませんか?」
「はっ?」
珍しくジェームズが驚いた顔をした。
「お前に都合の良いことを飄々と言っているな」
呆れた顔で言うジェームズに、ソフィアは大真面目に続ける。
「旦那様、これからも私を抱くのですか? 私を抱くよりも、自由にハンナさんとの時間を過ごす方が良いのではありませんか?」
ハンナの話が本当なら、ジェームズはきっと自分とよりもハンナと過ごす方が良いはずだ。
「生まれた子を跡取りとすれば、最低限の義務は果たせます。お義母様には二人目不妊だと思っておいて貰いましょう。そうすれば私は、旦那様がハンナさんとどう過ごそうと口出しは一切いたしません」
ジェームズは目を見開いている。
口を大きく開けたが声が出ないようで、再び口を紡いで俯いた。
「……赤い瞳だぞ? 母上が許すか……」
ソフィアも目を見開いた。
ソフィアの場合はジェームズとは違い、感嘆から来るものだ。
(やった!!!)
「"実は私の曽祖母が赤い瞳だった"ということにしませんか? 体裁が悪いために隠していたと。曽祖母は身体が悪くてずっと引きこもった生活をしていたと聞いているので、社交の場へも殆ど出ていないはずです」
ソフィアのその提案にジェームズの心が揺れているのが、ソフィアには手に取るようにわかったのだった……ーーー
「……ご存知ですか? ハンナさんが、屋敷を追い出されるそうです」
ジェームズはここで初めて瞳を揺らし、動揺の顔を見せた。
「……知っている。それで?」
真顔のジェームズに負けずに、ソフィアも真顔で言う。
ソフィアは賭けに出た。
ジェームズを動揺させることが出来るネタは、これしかないと思ったのだ。
(旦那様が優しいだなんて信じられない。もし本当にそうだとすれば、ハンナさんのことを気に入っているとしか考えられないわ!)
ソフィアは自分の勘を信じることにした。
ハンナは何処か人を惹きつける魅力がある女性だ。
ソフィアも何となく、ハンナには好意的な気持ちを抱いている。
だから、十分にあり得る話だと考えたのだ。
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ソフィアはそう言いかけて止めた。
(好意を持っているか聞いて、旦那様が素直に答えて下さるとは限らないわ。逆上する可能性もある……)
「……ハンナさんに屋敷へいて貰いませんか? 私からもお義母様に頼みます」
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「旦那様は子どもが欲しいのですか?」
これはずっと、ソフィアが疑問に思っていたことだった。
「……跡継ぎは必要だ」
「そのためだけですよね?」
「それ以外に何があると言うのだ」
「自分の血の繋がった子どもが欲しいとお考えですか?」
「母上がそう望んでいる」
ジェームズは"さも当然"というように、真顔を崩さない。
(やっぱりそうなのね)
テンポの良い会話が繰り広げられる中で、ソフィアはそう思った。
ジェームズは自分の子どもはどうでもいいのだ。
ただ跡継ぎが必要だとヴァイオレットに言われ、それに従っているだけなのだ。
「……なら、もうよくありませんか? 幸い、生まれた子は男の子です。あの子を、私たちの子としてこの屋敷で育てませんか?」
「はっ?」
珍しくジェームズが驚いた顔をした。
「お前に都合の良いことを飄々と言っているな」
呆れた顔で言うジェームズに、ソフィアは大真面目に続ける。
「旦那様、これからも私を抱くのですか? 私を抱くよりも、自由にハンナさんとの時間を過ごす方が良いのではありませんか?」
ハンナの話が本当なら、ジェームズはきっと自分とよりもハンナと過ごす方が良いはずだ。
「生まれた子を跡取りとすれば、最低限の義務は果たせます。お義母様には二人目不妊だと思っておいて貰いましょう。そうすれば私は、旦那様がハンナさんとどう過ごそうと口出しは一切いたしません」
ジェームズは目を見開いている。
口を大きく開けたが声が出ないようで、再び口を紡いで俯いた。
「……赤い瞳だぞ? 母上が許すか……」
ソフィアも目を見開いた。
ソフィアの場合はジェームズとは違い、感嘆から来るものだ。
(やった!!!)
「"実は私の曽祖母が赤い瞳だった"ということにしませんか? 体裁が悪いために隠していたと。曽祖母は身体が悪くてずっと引きこもった生活をしていたと聞いているので、社交の場へも殆ど出ていないはずです」
ソフィアのその提案にジェームズの心が揺れているのが、ソフィアには手に取るようにわかったのだった……ーーー
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