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9:嘘と懇願②

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緊張した面持ちで言うソフィアに、ジャックは目を見開く。
表情から本気だと思ったジャックは、真顔で問う。

「……何故だ?」

「私は今バカンス中なのです。我が儘を聞いて貰って、ずっとしてみたかった一人旅をしています。ただ行く当てがなくて少し心細く思っていたところなのです」

スラスラと言葉が出て来る自分に驚きながらも、ソフィアは冷静を装い真っ直ぐにジャックを見る。

「……」

ソフィアの眼を見たまま真顔で考え込んでいるジャックを見て、昨日のデジャヴだとソフィアは思った。

「……二日続けて困らせてしまって、ごめんなさい」

結果的に困らせてしまっているが、ソフィアは決して困らせたい訳でも迷惑を掛けたい訳でもない。
心からの謝罪を口にしながらも、譲れない自己主張を続ける。

「でも、指輪は見つかっていません。指輪がみつかるまで置いてくれる約束です」

「指輪は探さないで良いと言いながら、勝手だな」

「……ごめんなさい」

はっきりと勝手だと言われ、呆れられたかとソフィアは少し悲しい気持ちになる。
でも、めげる訳にはいかなかった。

(お願いジャック様、私の初恋なの。もう少し幸せな気持ちに浸らせて……。これからの人生を生きていけるくらいの、幸せを貯蓄させて……)

そう思うとソフィアは、自然に目から一筋の涙が零れた。

「あれっ?」

自分でも驚いて、慌てて涙を拭う。
そのソフィアの様子を見たジャックは、更に考え込んでいる。
すぐに否定をしないジャックに、ソフィアは少しの希望を抱く。

「……あと12日だけ、お願いできませんか?」

「12日? 何だその中途半端な数字は」

「私の我儘一人旅の期限です」

ソフィアは真剣な想いが伝わるように願って、”ジッ”とジャックを見続けた。

(訳ありのようだな……)

そう思ったジャックは天井を見上げ、”はぁー”っと大きな溜め息をついてから降参した。

「わかったよ」









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