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54:決意
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翌日、仕事を終えたジェームズがソフィアを訪ねて来た。
「旦那様!?」
ソフィアの部屋をジェームズが訪ねて来るのは、初めてのことだった。
ジェームズは"チラッ"とブライトを見て言う。
「……大きくなったな」
ソフィアは目を見開く。
ジェームズがブライトを自ら視界に入れあのは、あの出産した日以来だった。
ましてや声を掛けるなんて、ソフィアには信じられなかった。
そして更に信じられないのが、ジェームズの表情が穏やかなのだ。
(一体どうしたと言うの!?)
ソフィアは狼狽した。
昨日ヴァイオレットとあのようなやり取りがあった後だ。
怒っているならまだしも、何故穏やかな顔をしているのだろうか?
ソフィアは、ブライトをギュッと守るように抱きしめる。
「来て下さってありがとうございます。私も話があって伺おうと思っていたのです」
「そうか。先に聞こう」
今までになく穏やかなジェームズに、ソフィアは調子が崩されるような気がする。
「えっ……あ、はい。ありがとうございます」
”ふうっ”と一つ息を吐きブライトを見てから、ソフィアは覚悟を決めて口を開いた。
「旦那様、離縁して下さい」
真っ直ぐにジェームズを見て言うソフィアに、ジェームズはゴクリと唾を飲む。
ソフィアが弟たちに相談したところ、ブライトを連れて実家に戻ることを全員賛成してくれたのだ。
心配した次男ブルームも、もう既に騎士学校へ入学しているため、伯爵家との繋がりがなくなっても在籍し続けることができるようだ。
そうなれば、実家の方がここよりもブライトにとって環境が良いことは間違いない。
伯爵家より高位の貴族との繋がりは断たれてしまうが、ブライトの心の発達にはここにいるよりも間違いなく良いと、ソフィアは思った。
するとブライトは、フッと笑みを零す。
「……俺も同じことを言いに来たのだ。離縁して欲しいと」
ソフィアは不思議と驚かなかった。
今のジェームズなら、母親の言いなりになってハンナを捨てることはしないと思っていたからだ。
それに二人が本当に愛し合っていることを知っているソフィアは、二人を応援したいと思っている。
最近の人間味があるジェームズに、ソフィアには少しの情が芽生えていた。
「離縁後のことについて、お考え……計画がきっとおありのことと思います。私に出来ることは何かありますか?」
あのジェームズがヴァイオレットに反抗するのだ。
無計画な訳がないと、ソフィアは思った。
「……そうだな。母上がソフィアに未練を残さないように、キッパリと、そして感じ悪く出て行って欲しい」
そう、ジェームズは真顔で言った。
ジェームズに"ソフィア"と名前で呼ばれたのは、これが初めてだということにソフィアは気付く。
最後にしてやっと、夫に人として認められたソフィアは苦笑いをこぼす。
「ふふっ。お安い御用です」
ソフィアが笑顔でそう言うと、ジェームズも笑った。
ジェームズの心からの笑顔を見たのもまた、ソフィアはこの時が初めてだった。
しかし、すぐにジェームズは険しい顔をした。
ソフィアが何事かと身構えると、急にジェームズは頭を下げたのだ。
それも、後頭部がしっかりとソフィアに見えるほどに……
ソフィアはあまりの驚きに、一瞬息をするのを忘れてしまう。
「ソフィア、今までたくさん酷いことをして来た。言葉の暴力だけではなく、実際に手をあげたこともある。向き合おうとしてこなかった。人権を尊ぶ態度ではなかったこと、本当に申し訳なかった」
頭をずっと下げたままのジェームズに、ソフィアはジェームズの本心だと信じることが出来た。
「……私も嫁入り直前に不誠実な行いをしました。大変申し訳ありませんでした」
ジェームズに謝られて初めて、ソフィアは自分も謝罪をしていなかったことを思い出し、慌てて頭を下げる。
(私も自分のことばかりね。ブライトもいるし、これからはもっとしっかりしないと……)
そして二人は再び顔を見合わせ、最後に握手をした。
「旦那様、今までお世話になりました。余計なお世話ですが、ハンナさんとどうか幸せになって下さい」
ソフィアは心からの笑顔でそう言う。
(旦那様、本当に変わられたわね。旦那様を人間らしくしたのはハンナさんね。……愛とは、なんて強い力なの……)
ソフィアは、自分は幸せな結婚生活を送ることが出来なかったが、想い合うジェームズとハンナの幸せを心から願った。
こうしてソフィアは、翌朝屋敷を出たのだった……ーーー
「旦那様!?」
ソフィアの部屋をジェームズが訪ねて来るのは、初めてのことだった。
ジェームズは"チラッ"とブライトを見て言う。
「……大きくなったな」
ソフィアは目を見開く。
ジェームズがブライトを自ら視界に入れあのは、あの出産した日以来だった。
ましてや声を掛けるなんて、ソフィアには信じられなかった。
そして更に信じられないのが、ジェームズの表情が穏やかなのだ。
(一体どうしたと言うの!?)
ソフィアは狼狽した。
昨日ヴァイオレットとあのようなやり取りがあった後だ。
怒っているならまだしも、何故穏やかな顔をしているのだろうか?
ソフィアは、ブライトをギュッと守るように抱きしめる。
「来て下さってありがとうございます。私も話があって伺おうと思っていたのです」
「そうか。先に聞こう」
今までになく穏やかなジェームズに、ソフィアは調子が崩されるような気がする。
「えっ……あ、はい。ありがとうございます」
”ふうっ”と一つ息を吐きブライトを見てから、ソフィアは覚悟を決めて口を開いた。
「旦那様、離縁して下さい」
真っ直ぐにジェームズを見て言うソフィアに、ジェームズはゴクリと唾を飲む。
ソフィアが弟たちに相談したところ、ブライトを連れて実家に戻ることを全員賛成してくれたのだ。
心配した次男ブルームも、もう既に騎士学校へ入学しているため、伯爵家との繋がりがなくなっても在籍し続けることができるようだ。
そうなれば、実家の方がここよりもブライトにとって環境が良いことは間違いない。
伯爵家より高位の貴族との繋がりは断たれてしまうが、ブライトの心の発達にはここにいるよりも間違いなく良いと、ソフィアは思った。
するとブライトは、フッと笑みを零す。
「……俺も同じことを言いに来たのだ。離縁して欲しいと」
ソフィアは不思議と驚かなかった。
今のジェームズなら、母親の言いなりになってハンナを捨てることはしないと思っていたからだ。
それに二人が本当に愛し合っていることを知っているソフィアは、二人を応援したいと思っている。
最近の人間味があるジェームズに、ソフィアには少しの情が芽生えていた。
「離縁後のことについて、お考え……計画がきっとおありのことと思います。私に出来ることは何かありますか?」
あのジェームズがヴァイオレットに反抗するのだ。
無計画な訳がないと、ソフィアは思った。
「……そうだな。母上がソフィアに未練を残さないように、キッパリと、そして感じ悪く出て行って欲しい」
そう、ジェームズは真顔で言った。
ジェームズに"ソフィア"と名前で呼ばれたのは、これが初めてだということにソフィアは気付く。
最後にしてやっと、夫に人として認められたソフィアは苦笑いをこぼす。
「ふふっ。お安い御用です」
ソフィアが笑顔でそう言うと、ジェームズも笑った。
ジェームズの心からの笑顔を見たのもまた、ソフィアはこの時が初めてだった。
しかし、すぐにジェームズは険しい顔をした。
ソフィアが何事かと身構えると、急にジェームズは頭を下げたのだ。
それも、後頭部がしっかりとソフィアに見えるほどに……
ソフィアはあまりの驚きに、一瞬息をするのを忘れてしまう。
「ソフィア、今までたくさん酷いことをして来た。言葉の暴力だけではなく、実際に手をあげたこともある。向き合おうとしてこなかった。人権を尊ぶ態度ではなかったこと、本当に申し訳なかった」
頭をずっと下げたままのジェームズに、ソフィアはジェームズの本心だと信じることが出来た。
「……私も嫁入り直前に不誠実な行いをしました。大変申し訳ありませんでした」
ジェームズに謝られて初めて、ソフィアは自分も謝罪をしていなかったことを思い出し、慌てて頭を下げる。
(私も自分のことばかりね。ブライトもいるし、これからはもっとしっかりしないと……)
そして二人は再び顔を見合わせ、最後に握手をした。
「旦那様、今までお世話になりました。余計なお世話ですが、ハンナさんとどうか幸せになって下さい」
ソフィアは心からの笑顔でそう言う。
(旦那様、本当に変わられたわね。旦那様を人間らしくしたのはハンナさんね。……愛とは、なんて強い力なの……)
ソフィアは、自分は幸せな結婚生活を送ることが出来なかったが、想い合うジェームズとハンナの幸せを心から願った。
こうしてソフィアは、翌朝屋敷を出たのだった……ーーー
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