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30:すぐそこにいるのに……

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ソフィアとマリナは、赤ん坊をギルの街の孤児院では見つけることが出来ず、隣町であるカイルの街を探してみることにした。



「あっ!!!」

目指していた孤児院の前で、おくるみに包まれた赤ん坊を抱っこしている女性が、ソフィアの目に入った。
ソフィアは駆け出す。

「すみません! 少し赤ん坊の顔を見せて下さい!!!」

ソフィアの必死な形相に、女性はタジダシとなっている。

「……っ!!!」

その場に立ち尽くし、目からハラハラと涙をこぼし出したソフィアに、周りの子ども達がざわつき出した。

「おねーさん、大丈夫ー?」

「どこか痛いのー?」

群がって来る子ども達を掻き分け、マリナが側へ来る。

「奥様! 良かった……!!!」

赤ん坊の姿を確認したマリナも、目に涙を浮かべている。

「何かご用ですか?」

ソフィアとマリナが何も言えずに泣きながら立ちすくんでいると、奥から初老の男性が出て来た。

「あっ! 申し訳ありません! 怪しい者ではありません!」

ソフィアは急いで涙を拭くと、初老の男性の前へ行き挨拶をする。

「リッチィ伯爵の妻、ソフィアと申します。昨日手違いで義母がこの赤ん坊を連れて来てしまいました。なので、迎えに来た次第です」

初老の男性は眉間に皺を寄せた。

「……それは困りましたな……。その赤ん坊は、ここで育てるか奴隷として売り出すかの二択にしてくれと言われておりまして。申し訳ありませんが、大奥様ご本人に来ていただかなければ、お返しすることは出来ません」

「そんな! 本当です! 義母のつかいで参りました!」

「お引き取り下さい」

ソフィアが必死に頼むも、初老の男性は聞く耳をもたずに"話は終わった"と外に出ていた者を引き連れて、屋内へ戻って行く。
勿論赤ん坊もだ。


「お願いします! 返して下さい!!!」

ソフィアは閉じられたドアを思いっきり二度叩き、大声で言った。
この様な言い方では余計に怪しいと分かっていても、ソフィアは冷静ではいられない。

「奥様!」

ドアの前に直立しドアを叩き続けるソフィアの側に、マリナは駆け寄る。

「奥様! 無事は確認できました。本日は一旦帰って、大奥様を説得する方法を考えませんか?」

「説得!? 養子は駄目で奴隷として売るなら良いと指示をして私の子供を捨てたお義母様を、説得ですって!?」

ソフィアは悲しみと同時に、わなわなと怒りも込み上げていた。
ヴァイオレットは、この子どもが底辺で生きることのみを許したのだ。

(人手無し! 大奥様も子を産んだことのある母親なのに!!!)






「何をしている?」

扉の前から動かない二人は、孤児院の訪問者に不審がられて声をかけられた。
振り向くとそこには、体格の良い男の集団が立っている。
身なりから地位の高い者たちだとすぐにわかったソフィアは、慌てて道を開けて頭を下げた。

「何でもございません。もう帰るところです。邪魔をして申し訳ありません」

男の集団の先頭にいる男は頷くと、扉をノックして大声をあげた。

「視察に参った!」

するとすぐにドアは開けられ、先ほどの無表情とは打って変わった満面の笑みを浮かべた初老の男性が、その集団を迎え入れている。

ソフィアは、集団の1番後ろにそっと続いて入室を試みてみたが、案の定止められてしまった。

「困ります。帰って下さい」

女性に凄い顔で睨まれ、ソフィアはグッと歯を食いしばる。

(そんな……すぐそこに私が産んだ子がいるというのに……)

ソフィアが途方に暮れていると、ふと声をかけられた。

「ソフィア?」


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