【完結】指輪はまるで首輪のよう〜夫ではない男の子供を身籠もってしまいました〜

ひかり芽衣

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「失礼いたします、旦那様」

ソフィアが書斎へ入室すると、ジェームズは立って大きな窓から外を眺めていた。
背を向けていて顔は見えない。
ジェームズの後頭部へソフィアが挨拶すると、ジェームズの声が聞こえて来た。

「朝になると使用人二人と共に消えていたと聞いている。どこへ行っていた?」

冷静な口調に、ソフィアはゴクッと息を呑んだ。
ジェームズの身に纏う空気は、いつもソフィアの気持ちを冷え込ませる。

「勝手をして申し訳ありませんでした。……子どもを連れ戻しに行っておりました」

「誰との子だ?」

ソフィアの外出先は予想通りだったのだろう。
ジェームズは微動だにせず、淡々としている。

「……行きずりの方です。住んでいる所も名前も何も知りません」

ソフィアは賭けに出た。
ジェームズの子どもだとしらを切り続けることは、ジェームズには無理があると思ったのだ。
ジェームズはある意味真っ直ぐな男だ。
ソフィアは事実を多めに、嘘を少し織り混ぜることにした。

「婚約から結婚までの2週間の間か?」

「……はい。結婚前の一度のみです」

「はっ。本当に一度だというのなら凄いな」

そこで初めてジェームズは振り返った。
軽蔑の眼差しを浮かべながら……

「……本当にたった一度なのです。なので旦那様の子どもだと、産まれるまでずっと思っていました……」

「指輪を外したのか?」

「えっ?」

「渡していた指輪を外したのかと聞いている。そんな仰々しい指輪をしていれば既婚者だと思われるだろう」

身体の前で両手を握っているソフィアは、そっと左手を見た。

(……旦那様も仰々しいと思っていたのね……)

ソフィアの左手薬指にピッタリのその指輪に、首が”ギュッ”と締め付けられる感覚にソフィアは襲われる。

「はい……」

「はっ。やはりそうか」

二人の間に冷たい空気が流れた。
素直に認めたソフィアを、ジェームズは軽蔑の眼差しで見続けている。
しかしジェームズは、ソフィアが素直に認めたことで満足したようだ。
一切ソフィアに”情”がないジェームズは、ソフィアの不貞自体には興味はないのだ。

「……それで、話とは?」

ジェームズはいつもの無表情で言う。

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