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34:sideジャック : 夢のような時間

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ソフィアとの思いがけない時間は、今まで人に深入りしないように距離を取って生きて来たジャックにとって、新鮮以外の何者でもなかった。

ジャックは、国王へも"結婚はしない"という意思を伝えている。

ソフィアとの穏やかで暖かい時間は、ジャックの中の凝り固まっていた部分を溶かして行った。
たった12日の期間限定だということが、ジャックの自己防衛心を緩めたのもあるかもしれない。
しかし一番の理由は、初めて目が合った瞬間から、ジャックはソフィアの瞳が頭から離れないことだろう。
ジャックはどんどんソフィアに惹かれていた。

外見だけではない。
ソフィアの明るさ、はっきりとしているところ、自分の想いをしっかりと言葉で伝えるところ、凛とした品のある様、そして些細なところに感じる思いやりの心。

しかしジャックは、自分の感情に気付かないフリをし続ける。

(ソフィアは良い子だ)

ただそう思うようにだけして。





そしてジャックは、自分が町を離れる時にはマッケンにソフィアを見守らせた。

「それにしても綺麗なお嬢様だな……」

砂浜で海を眺めているソフィアを崖の上から眺めながら、マッケンは思う。

「この距離でも美しいことがわかるのだ、近くだとさぞ美しいのだろうな……」

マッケンがぶつくさと独り言を言っている次の瞬間、マッケンは目を見開いた。

「えっ……!」

驚きながらも目の前の光景に目が釘付けだ。
ソフィアは外服を脱ぎ肌着だけになると、入水して行くではないか。

「タオルの準備もしてあるし、自害ではなさそうだな……」

そう思いながらも、マッケンは念の為に崖を降り砂浜へ向かったのだった……






仕事を終えて小屋へ戻る途中のジャックは、マッケンが薄着で水浸しのぐったりとしたソフィアを抱きかかえ、慌てた様子で砂浜へ運んでいるのが目に入る。

この時ジャックは、脳裏に母の顔が浮かんだ。
床一面が血だらけで、真っ白な顔の母。
真っ青な唇で、最後までジャックに愛を囁いた母。
動かなくなった母に抱きつき「死なないで」と、ただ繰り返すしかなかったあの日。
どんどん人の体温ではなくなっていく母を抱きしめながら、(1人にしないで)そう強く願ったあの最期の日……




(大切な人を失うのはもう嫌だ!)



ジャックは必死だった。





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