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32:sideジャック : ジャックの正体

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「指輪が見つかるまで、あなたの所に私を置いて下さい」

ジャックは灯台で彼女が振り返ったその時から、目の前の綺麗なブルーの瞳に目を奪われていた。

(綺麗な瞳だ。そして凛とした立ち姿、顔立ち。空と海を背景に、彼女が輝いて見える……)

人がいることも珍しい灯台で、長時間物思いにふけている若い女性が気にかかり、ジャックは思わず声をかけたのだった。
しかし、その時に彼女の大切なものを落とさせてしまうという、ハプニングが起こった。
すると、彼女はとんでもないことを言い出したのだ。

「指輪が見つかるまで、あなたの所に私を置いて下さい」

彼女の迷いのない瞳に根負けし、ジャックは彼女の申し出を受けることにする。

……本当はそれだけではないことは、ジャック自身も心の奥底ではわかっていた。
しかし、この時は考えないようにしていたのだ。

ソフィアと名乗るこの女性に惹かれていることを……ーーー





翌朝、ジャックは早くにいつもの待ち合わせ場所へ行く。

「殿下! 1週間ぶりでございます」

お辞儀をするマッケンに、ジャックは渋い顔をする。

「マッケン、城以外ではその呼び方はやめろと言っているだろ」

「はっ! 申し訳ありません! ジャック様!」

頭を下げたままのマッケンを見て、ジャックはふと思う。

(マッケンとソフィアは同じくらいの年頃だな……。ソフィアは目覚めただろうか? 戻ったらいないなんてことは……ないよな?)

「ジャック様? 何か変わりがありましたか?」

不安な表情を浮かべているジャックに、マッケンも心配そうな顔で尋ねる。

ジャックの本名はジャッカーソン・ド・シュタインであり、この国の放蕩息子と名高い第三王子だ。
国王の愛人であった母の死去に伴い、父である国王に養子として引き取られた。
普段は"リヒター"という母の姓と愛称ジャックで、ジャック・リヒターと名乗って行動している。

身分を伏せてこのような自由な暮らしをする代わりに、週に一度こうして側近へ近況報告をすることとなっている。
この時に、政治や城内の情報もマッケンからジャックへ報告される。
つまり、情報交換・情報共有のための時間だ。

マッケンは城とケールの町を行き来しており、城で用のない時はジャックの様子を遠くから見守ったり、周りに危険がないか調査するなどもしている。


「ああ、昨日から女性と一緒に住んでいる」

「そうですか。……えっ!?」

ケロッと言うジャックに、マッケンは余計に開いた口が塞がらない。

「……女性の身辺調査をいたしますか?」

「……いや、必要ない」

「しかしジャック様の正体を知っていて、何か企みがあるのかもしれません!」

険しい顔で言うマッケンに苦笑いをし、ジャックは言う。

「彼女からは一切"悪"を感じない。短期間だし、彼女のことは詮索したくない」

「しかしジャック様、もしものことがあれば……」

「そうだな。……彼女に殺されるのならそれも運命。受け入れよう」

冗談ぽく笑うジャックに、マッケンは渋い顔をしたのだった……ーーー

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