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31:再会
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「ソフィア?」
その声に、ソフィアは一瞬にして懐かしさが込み上げて来た。
ソフィアはそっと顔を上げ、声の主のほうを見る。
そこには、ジャックがいた。
しかしソフィアは、すぐに目を見張った。
そこにいるジャックは、ソフィアの知っているジャックではなかったのだ。
(集団の中央後方にいる……ということは、この中で最も上位の立場ということ……)
身なりもきちんと整えられ質の良い衣類を身に纏っているジャックを、ソフィアはあのジャックと同一人物だとは、すぐに思うことが出来なかった。
「やはりソフィアだな。久しぶりだな、元気にしているか?」
「あっ……はい……」
堂々とキラキラしているジャックに、今のソフィアは混乱しか出来ない。
「これは、リヒター様のお知り合いでしたか!」
初老の男性はバツの悪い顔をしている。
その顔を見たソフィアは、ハッとした。
(いちかばちかよ!)
「お久しぶりです。実は嫁ぎ先からのおつかいで来たのですが、そちらの男性に門前払いを受けて困っております」
ソフィアは姿勢を正し、ジャックの瞳をまっすぐに見て言う。
”嫁ぎ先”という言葉に動揺しジャックの瞳が揺れたことを、ソフィアは見逃さなかった。
(……私のこと、悪い記憶として残っている訳ではなさそうね……)
ソフィアは心からホッとした。
自分と同じように"良い記憶"としてあの時のことを覚えていて欲しいと、いつも願っていたからだ。
「……そうか。予定通りに嫁いだのだな。元気そうで何よりだ。ガーリン、彼女は信用出来る人間だ。まずは、きちんと話を聞いてやってはくれないか?」
初老の男性はどうやらガーリンと言うらしい。
ジャックがガーリンへそう言うと、ガーリンは慌てて声を上げる。
「勿論でございます! さっきは悪かったね! 好きにすると良い。ささっ、リヒター様こちらへ……」
ガーリンはソフィアへそう言うと、さっさとこの場を去って行った。
まるでこれ以上このことに触れたくないように……
「何あれ……」
「この施設を保つことが出来ているのは、あのお方のおかげなのです。なので施設長は、悪い印象を与えまいと必死なのですよ。さっ、今のうちに連れて行かれた方がいいですよ!」
赤ん坊を抱っこした女性が、そう言いながらソフィアに赤ん坊を見せてくれる。
「えっ……。良いのですか?」
ソフィアが意外な展開に戸惑っていると、女性はニッコリと笑って言った。
「この子を産んだのは、あなたなのではありませんか?」
その言葉に、ソフィアは涙が込み上げて来る。
ただ頷くしか出来ないソフィアに、女性は微笑みながら赤ん坊を手渡した。
「この子を見るあなたの瞳がそう物語っていました。私たちには親がいません。どうかこの子を幸せにしてあげて下さい」
「ありがとう。約束するわ」
ソフィアは泣きながらそう答えると、我が子を腕の中に抱いた。
ギュッと思い切り抱きしめると、たった3000g程度の重み以上にずしっと命の重みを感じる。
(必ず私が守るわ!)
元気に産まれて来てくれた感謝と愛しさしかない、一人では生きていけない儚い命を大切に大切に抱きしめ、ソフィアはさっさとその場を後にしたのだった。
(パパが助けてくれたわよ。ジャック様……会えて嬉しかったわ。……やはりあなたは高貴な身分だったのね。あなたとの子を、私は立派に育ててみせるからね!)
孤児院を去る時、姿は見えないが建物の中にいるジャックへ向けて、ソフィアは心の中でそう誓った。
その声に、ソフィアは一瞬にして懐かしさが込み上げて来た。
ソフィアはそっと顔を上げ、声の主のほうを見る。
そこには、ジャックがいた。
しかしソフィアは、すぐに目を見張った。
そこにいるジャックは、ソフィアの知っているジャックではなかったのだ。
(集団の中央後方にいる……ということは、この中で最も上位の立場ということ……)
身なりもきちんと整えられ質の良い衣類を身に纏っているジャックを、ソフィアはあのジャックと同一人物だとは、すぐに思うことが出来なかった。
「やはりソフィアだな。久しぶりだな、元気にしているか?」
「あっ……はい……」
堂々とキラキラしているジャックに、今のソフィアは混乱しか出来ない。
「これは、リヒター様のお知り合いでしたか!」
初老の男性はバツの悪い顔をしている。
その顔を見たソフィアは、ハッとした。
(いちかばちかよ!)
「お久しぶりです。実は嫁ぎ先からのおつかいで来たのですが、そちらの男性に門前払いを受けて困っております」
ソフィアは姿勢を正し、ジャックの瞳をまっすぐに見て言う。
”嫁ぎ先”という言葉に動揺しジャックの瞳が揺れたことを、ソフィアは見逃さなかった。
(……私のこと、悪い記憶として残っている訳ではなさそうね……)
ソフィアは心からホッとした。
自分と同じように"良い記憶"としてあの時のことを覚えていて欲しいと、いつも願っていたからだ。
「……そうか。予定通りに嫁いだのだな。元気そうで何よりだ。ガーリン、彼女は信用出来る人間だ。まずは、きちんと話を聞いてやってはくれないか?」
初老の男性はどうやらガーリンと言うらしい。
ジャックがガーリンへそう言うと、ガーリンは慌てて声を上げる。
「勿論でございます! さっきは悪かったね! 好きにすると良い。ささっ、リヒター様こちらへ……」
ガーリンはソフィアへそう言うと、さっさとこの場を去って行った。
まるでこれ以上このことに触れたくないように……
「何あれ……」
「この施設を保つことが出来ているのは、あのお方のおかげなのです。なので施設長は、悪い印象を与えまいと必死なのですよ。さっ、今のうちに連れて行かれた方がいいですよ!」
赤ん坊を抱っこした女性が、そう言いながらソフィアに赤ん坊を見せてくれる。
「えっ……。良いのですか?」
ソフィアが意外な展開に戸惑っていると、女性はニッコリと笑って言った。
「この子を産んだのは、あなたなのではありませんか?」
その言葉に、ソフィアは涙が込み上げて来る。
ただ頷くしか出来ないソフィアに、女性は微笑みながら赤ん坊を手渡した。
「この子を見るあなたの瞳がそう物語っていました。私たちには親がいません。どうかこの子を幸せにしてあげて下さい」
「ありがとう。約束するわ」
ソフィアは泣きながらそう答えると、我が子を腕の中に抱いた。
ギュッと思い切り抱きしめると、たった3000g程度の重み以上にずしっと命の重みを感じる。
(必ず私が守るわ!)
元気に産まれて来てくれた感謝と愛しさしかない、一人では生きていけない儚い命を大切に大切に抱きしめ、ソフィアはさっさとその場を後にしたのだった。
(パパが助けてくれたわよ。ジャック様……会えて嬉しかったわ。……やはりあなたは高貴な身分だったのね。あなたとの子を、私は立派に育ててみせるからね!)
孤児院を去る時、姿は見えないが建物の中にいるジャックへ向けて、ソフィアは心の中でそう誓った。
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