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25:出産

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「お義母様、ハンナさんに庭園散歩の許可を出しました。私は大丈夫ですので、そうさせてあげて下さい」

「あら、そう? まあそうね、病まれても困るし……」

ブツブツ言っているヴァイオレットを無視し、ソフィアは言いたいことだけを言ってその場を去った。



こうして堂々と振る舞い続けることで、ソフィアは使用人の間では"女主人"であると徐々に認識されるようになって来た。
大きなことはヴァイオレットだが、小さいことはソフィアにも指示を仰ぐようになったのだ。

ソフィアは控えめに義母をたてながから行動しているため、単純なヴァイオレットは特に気にもしていないようだ。
母の機嫌が悪くないので、ジェームズも全く気にしていない。

それどころか、ジェームズとは何ヶ月も会うことはなかった。

そう、出産の日まで……ーーー







寒さがいよいよ厳しくなり池の水が凍った1月の早朝、ソフィアは丸一日陣痛と戦った後に出産した。

「オギャーオギャーオギャー!!!」

元気な産声を聞いた瞬間、ソフィアは安堵の涙がハラハラと頬を伝う。

(ああ、母子共に無事に出産を終えることが出来たわ……。本当に良かった……)

目の前の皺くちゃな赤ん坊が今まで自分のお腹の中にいたのかと思うと、ソフィアは不思議でたまらない。

(妊娠中ずっとまともに食べられなかったのに、私のお腹の中で元気に大きくなってくれてありがとう。元気に産まれて来てくれてありがとう……)

"妊娠出産は奇跡だ"と、よく言う。
それを今、改めて身体全体で実感しているソフィアは、赤ん坊を見つめながらジャックが頭に浮かんだ。
彼に、この奇跡を成し遂げたことを伝えたいと思ってしまう。
話を聞いて、想いを分かち合って欲しいと願ってしまう。

「ソフィア、よくやったわ! 元気な男の子ね! 次は可愛い女の子もお願いね!」

上機嫌のヴァイオレットの言葉に、ソフィアは一気に"ドッ"と疲れを感じる。

せっかく幸せな感情に浸っていたのを邪魔されソフィアがイラっとしていると、ジェームズが部屋へ入って来た。

(ああ、こんな顔だったわね)

約半年ぶりに会う夫に、ソフィアは反射的に嫌悪感を抱き眉間に皺を寄せてしまう。

「オギャー!」

「あっ、目を開けましたよ! まだ見えてはいないでしょうけれどね。ふふっ、可愛いですね」

取り上げてくれた産婆は赤ん坊の身体を温かい湯でさっと拭いたあと、おくるみで包んで再びソフィアの元へ連れて来てくれた。
そして、そう言いながら笑顔でソフィアに赤ん坊をそっと手渡したのだ。

小さく今にも壊れそうな儚い存在に胸が一杯になるよりも先に、赤ん坊を見たソフィアは目を見開いた。

その時、久しぶりに聞くジェームズの声が降ってくる。

「これは一体どういうことだ!? 一体誰との子だ!!!」

その場の空気が凍りついた。

ヴァイオレットも赤ん坊の顔を覗き込み、口を真ん丸に開けている。

「どういうことなの!???」

ソフィアは全身の疲労を感じながらも、ギュッと赤ん坊を胸に抱きしめる。

赤ん坊のまだ焦点の定まらない瞳は、夕日のように真っ赤だったのだ。

(ジャック!!!)


ソフィアは目から涙が溢れ出した。

喜び、悲しみ、今後への憂い……

一気に様々な感情が溢れ出す。

しかし1番強い想いは明らかで、何も迷いはなかった。

(絶対に私がこの子を守る)









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