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23:やれることをやろう

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「お義母様! どういうことですか!?」

「どうしたの? そのように慌てて。お腹の子にさわるわよ?」

今日も着飾って優雅に中庭でティータイムを過ごしているヴァイオレットに、ソフィアは詰め寄る。

「愛人を屋敷に住まわせたとは本当ですか?」

「ああ、ハンナのことね。あなたが困っていたから助けてあげたんじゃない。それがどうかしたの?」

ヴァイオレットは、『それがどうしたの?』と言わんばかりの顔をしている。

「……旦那様の希望ですか?」

「私が選んだのよ。あの子に勝手に外で遊んで、その辺の貧しい女を妊娠なんてさせたら後が面倒ですからね」

「……そんな……」

「安心して。子供を産めない女を選んだから。年はもう30を過ぎているけど
色気のあって良い女性よ。ただ、病気をして子供を産めない身体になってしまったそうなの。結婚も出来ずに飲み屋で働いていたから、ジェームズの相手をすることを条件で彼女の面倒をみることにしたの」

「……」

「出産後にあなたに見向きをしなくなったら困るから、貴方も女として努力しなさいよ! 貴方の外見遺伝子を引き継いだ可愛い子をたくさん産んでちょうだい! 着飾って連れ回すのが楽しみだわー!」

「……」

上機嫌のヴァイオレットに何も言う気にならず、ソフィアはその場を後にした。

(どんどん普通の夫婦ではなくなる……)

もちろん、ジェームズの夜の相手をしなくても良くなったことは嬉しい。
しかし、この解決方法は何か違うとしか言いようがなかった。
そして何より、"馬鹿にされた"と思う。
結婚当初から、この家ではソフィアの人権はないも同然だった。
そこに更に、追い打ちをかけられたのだ。

(このままでは私だけではなく、産まれて来るこの子も幸せにはなれないわ……)

胸元のペンダントをギュッと握ったソフィアは、空を"キッ"と睨みつける。

「よしっ、やれることをやってみましょう!」







「奥様、ありがとうございます!」

ソフィアは、ティータイムに使用人たちを招待した。
今日は交流の多い者を5人呼んだ。
美味しいクッキーと紅茶でもてなし、ゆっくりと世間話をして過ごす。
これをメンバーを変えながら毎日行った。
普段廊下ですれ違った際などにも、気軽に声をかけるようにした。

そう、まずは使用人たちを味方につけようと思ったのだ。

(私のことを、形だけではなくて実際に奥様だと認識して欲しい)

ソフィアはそう考えた。




1ヶ月が経ち使用人たちとの関係性が良くなったことで、だいぶ屋敷内でソフィアは寛いで過ごせるようになった。

「ハンナ様とは一度も会ったことはないけれど、屋敷内にいるのよね?」

洗面道具を片付けていたマリナは、ふと手を止める。

「はい、離れに住まれています。離れから出て来ないように、大奥様に言われているようです」

「何故かしら?」

「妊娠中の奥様に何か悪影響があるといけないとの、大奥様の配慮だそうです」

ソフィアは呆れてため息が漏れた。

(はあ、本当にお腹の子は大切なのね……)

「マリナ、離れも見てみたいし、ハンナ様にもお会いしたいわ」

「えっ!? あっ、は、はい。訪問しても良いか伺って参ります!」

驚いた顔で少しあたふたしているマリナを、ソフィアは微笑ましく見ていたのだった。




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