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22:妊娠

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医師に最後の月経がいつだったかを問われ答えると、出産予定は1月だと告げられた。


「こんなにすぐに身籠るなんて! 凄いわ、ソフィア! 期待以上よ! 美人な上に受胎能力も高いだなんて、何て素敵なの! これからも何人もこの調子で頼むわよ!」

「奥様、まずは一人です。妊娠出産は命懸けですからね。一つ一つの命としっかりと向き合っていきましょう」

興奮するヴァイオレットを、医師が穏やかになだめてくれる。

(妊娠出産は命懸け……だから、結婚はしたくないし子どもも欲しくないと、ジャック様は言っていたわね……)

医師の言葉にソフィアは、考えないようにしていたジャックのことを考えてしまう。

(……タイミング的に、ジャック様との子供の可能性も無きにしも非ずだわ……)

ソフィアは複雑だった。

リッチィ家の期待にこんなにすぐに答えたいとは思っていなかった。
これでは本当にただの"都合の良い女"だ。
身籠る前に、妻としてのそれ以外の仕事を見つけていたかった。

(全然嬉しくない)

ソフィアの正直な最初の感想だった。
しかし、ジャックとの子どもの可能性があることに気付くと、ソフィアは嬉しい気持ちも芽生えた。

(ジャック様との子供たったら、とても嬉しいわ……)

しかしふと、左手の指輪が目に入る。

(ふふっ。ジャック様とはたった一度よ。旦那様との子供の可能性の方が何倍も高いわ。それに、もしジャックさんとの子なら、不貞の子になってしまうわ……。私のことはどうでもいいけれど、子が可哀想だわ。実家の弟たちにも迷惑がかかるかもしれないし……)

ソフィアは、一気に色々な思考が頭の中を渦巻いていた。

 

それからというもの、ヴァイオレットは嘘のように優しくなった。
頻繁に体調を気にかけてくれるようになったのだ。

しかし、ジェームズは何も変わらなかった。

「やめて下さい! お医者様にも今は不安定な時期だから、安定期に入るまでは控えるようにと言われています!」

"バシッ"

そして気に入らないことがあれば、躊躇なく平手打ちをするようにもなっていた。

「そんなの知ったことか! 私の性欲処理がお前の仕事だろう!?」

ジェームズは、特に子供を欲しいとは思っていなかったようだった。
妊娠を喜ぶ様子も、ソフィアの身体を気にかける様子も微塵もない。

(妊娠中くらい、夫に道具として扱われたくないわ。……お腹の子のためにも、私の体と心のためにも……)

もう二度と会うことのないであろうジャックだが、もしソフィアに妊娠に伴う不幸があったと知れば、とても悲しむだろう。
だから、(無事に出産をする!)と、ソフィアは心に誓っている。



「お義母様、お願いがあります」

背に腹は変えられないと思ったソフィアは、ヴァイオレットに頼むことにした。

「お医者様にも性交渉は控えるように言われているのですが、旦那様が中々控えて下さらないのです。お腹の子に何かあったらと不安で……」

「まあ! なんてこと! わかったわ! 私が何とかするから安心しなさい!」

ソフィアはホッとした。
ヴァイオレットに借りを作ってしまったが、やむ終えない。



その日からパタリと、ジェームズはソフィアを求めなくなった。
そうなると、会うことさえなかった。
そう、元々ソフィアとジェームズは、寝室でしか会っていなかったのだ。

ソフィアは悪阻も酷く、悪阻が落ち着いたかと思えば今度は消化不良が酷くなり、とにかく食べられない妊婦生活を送っていた。
消化の良い物を選んで少量ずつ口にするが、それでも度々気分が悪くなる。
胃の中には吐く物もなく、ひたすら何時間も苦痛に悶えるのだ。
そんな辛い妊婦生活を送っていたが、それでも、精神的には結婚してから初めての穏やかな日々だった。

しかし数日後、マリナから聞かされた真実にソフィアは驚くこととなる。


「昨日、旦那様の愛人がこの屋敷へ迎え入れられました」

言いにくそうに話すマリナに、ソフィアは口を真ん丸に開けて驚くことしかできなかった。


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