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20:嫁入りと義母ヴァイオレット
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咎められることを覚悟してモードン男爵邸へ帰宅したソフィアだったが、誰にも咎められることはなかった。
「帰ったか」
冷めた目でソフィアを見てそれだけを口にした父に、ソフィアは苛立ちを覚える。
「……逃げると思って心配になりましたか?」
わざと嫌みたらしく言ったが、全く効果はなかった。
「いや、全く。お前が弟たちを見捨てるとは思えんからな。荷造りは使用人にさせてある。明日の早朝出発だ」
そう言い立ち去る父親の背中を見ながら、ソフィアは涙が出た。
(全く心配しなかっただなんて……それだけ私が、弟たちのことをお母様の代わりに大切に育てて来たことを分かっているということね……)
一気に絶望感が押し寄せて来る。
(ジャック様、現実に戻って来てしまいました……。でも、私は頑張ります)
ソフィアはずっと握ったままで帰って来た、ジャックに貰った指輪を更に"ギュッ"と握りしめたのだった……
翌朝、屋敷を出る直前にソフィアは、巾着袋に入れたままだった仰々しい指輪を取り出し、指に嵌めた。
(ああ、これで私は飼い犬ね……)
左手薬指には首輪のような指輪を、首にはお守り代わりにジャックに貰った指輪をネックレスに通し、ソフィアはリッチィ伯爵家へ予定通り嫁入りした。
寂しくなるからと、弟たちの見送りは断った。
昨晩ソフィアは弟3人を激励し、そしてソフィアは祝福を受けて回った。
弟たちは『ソフィアが喜んで嫁入りする』と父に聞かされており、そう信じているそうだ。
侍女にこっそりとそう教えられたが、(それで良い)と思い、ソフィアは否定はしなかった。
「本日よりお世話になります」
リッチィ伯爵邸へ着いてすぐ執事長に出迎えられたソフィアは、ソフィアの部屋に案内された。
執事長が侍女を呼びに席を外すと、入れ替わりにヴァイオレットが勝手に入室して来る。
「来たわね。ジェームズは仕事よ、夜には戻るわ。式もしないし、明日教会へジェームズと二人で行って来なさいね」
教会で神父の祝福を受けて書類へサインし、司祭がそれを国に提出することで婚姻が成立する。
(本当に、結婚式も祝いの席も何も設けないつもりなのね……)
「……それで、私は領地民に領主の妻として認めて貰えるでしょうか?」
真顔を努めてはいるが不満が滲み出ているソフィアは、明日正式に義母となるヴァイオレットを真っ直ぐに見て言う。
50歳くらいだと聞いているが、40歳くらいに見える。
とてもエレガントだ。
身体のラインがはっきりとわかる服、開いた胸元に輝く大きな宝石、キツい香水の香り。
それら全てが彼女の自信を物語っているように、ソフィアは感じた。
「あらっ、認められる必要なんてないわ。これからもジェームズの補佐や屋敷の管理は私がするから。あなたはただのお飾りの妻よ。社交の場には一緒に出席してね? 一言も話さず、微笑みを浮かべていれさえすれば良いから」
ニッコリと笑顔で言うヴァイオレットは、そこで改めてソフィアを上から下まで見る。
「ふふっ。本当に外見は良いわね。美形の子を出来る限りたくさん産んでちょうだい。あなたの仕事はそれだけよ」
「……!?」
ソフィアは言葉が出てこなかった。
ただただ、ヴァイオレットを睨みつけることしか出来ない。
「ちゃんと侍女もつけてあげるし、ジェームズの妻としては扱ってあげるわ。ただ、余計なことはしないで。私たちに迷惑をかけない分には、趣味なりなんなり好きに過ごしてくれていいわ」
ソフィアは立ち去るヴァイオレットの背中を、ただ見送ることしか出来なかった。
「帰ったか」
冷めた目でソフィアを見てそれだけを口にした父に、ソフィアは苛立ちを覚える。
「……逃げると思って心配になりましたか?」
わざと嫌みたらしく言ったが、全く効果はなかった。
「いや、全く。お前が弟たちを見捨てるとは思えんからな。荷造りは使用人にさせてある。明日の早朝出発だ」
そう言い立ち去る父親の背中を見ながら、ソフィアは涙が出た。
(全く心配しなかっただなんて……それだけ私が、弟たちのことをお母様の代わりに大切に育てて来たことを分かっているということね……)
一気に絶望感が押し寄せて来る。
(ジャック様、現実に戻って来てしまいました……。でも、私は頑張ります)
ソフィアはずっと握ったままで帰って来た、ジャックに貰った指輪を更に"ギュッ"と握りしめたのだった……
翌朝、屋敷を出る直前にソフィアは、巾着袋に入れたままだった仰々しい指輪を取り出し、指に嵌めた。
(ああ、これで私は飼い犬ね……)
左手薬指には首輪のような指輪を、首にはお守り代わりにジャックに貰った指輪をネックレスに通し、ソフィアはリッチィ伯爵家へ予定通り嫁入りした。
寂しくなるからと、弟たちの見送りは断った。
昨晩ソフィアは弟3人を激励し、そしてソフィアは祝福を受けて回った。
弟たちは『ソフィアが喜んで嫁入りする』と父に聞かされており、そう信じているそうだ。
侍女にこっそりとそう教えられたが、(それで良い)と思い、ソフィアは否定はしなかった。
「本日よりお世話になります」
リッチィ伯爵邸へ着いてすぐ執事長に出迎えられたソフィアは、ソフィアの部屋に案内された。
執事長が侍女を呼びに席を外すと、入れ替わりにヴァイオレットが勝手に入室して来る。
「来たわね。ジェームズは仕事よ、夜には戻るわ。式もしないし、明日教会へジェームズと二人で行って来なさいね」
教会で神父の祝福を受けて書類へサインし、司祭がそれを国に提出することで婚姻が成立する。
(本当に、結婚式も祝いの席も何も設けないつもりなのね……)
「……それで、私は領地民に領主の妻として認めて貰えるでしょうか?」
真顔を努めてはいるが不満が滲み出ているソフィアは、明日正式に義母となるヴァイオレットを真っ直ぐに見て言う。
50歳くらいだと聞いているが、40歳くらいに見える。
とてもエレガントだ。
身体のラインがはっきりとわかる服、開いた胸元に輝く大きな宝石、キツい香水の香り。
それら全てが彼女の自信を物語っているように、ソフィアは感じた。
「あらっ、認められる必要なんてないわ。これからもジェームズの補佐や屋敷の管理は私がするから。あなたはただのお飾りの妻よ。社交の場には一緒に出席してね? 一言も話さず、微笑みを浮かべていれさえすれば良いから」
ニッコリと笑顔で言うヴァイオレットは、そこで改めてソフィアを上から下まで見る。
「ふふっ。本当に外見は良いわね。美形の子を出来る限りたくさん産んでちょうだい。あなたの仕事はそれだけよ」
「……!?」
ソフィアは言葉が出てこなかった。
ただただ、ヴァイオレットを睨みつけることしか出来ない。
「ちゃんと侍女もつけてあげるし、ジェームズの妻としては扱ってあげるわ。ただ、余計なことはしないで。私たちに迷惑をかけない分には、趣味なりなんなり好きに過ごしてくれていいわ」
ソフィアは立ち去るヴァイオレットの背中を、ただ見送ることしか出来なかった。
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※架空のお話です。
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