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8:嘘と懇願

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「あの……」

灯台から徒歩20分ほどのジャックの小屋で、朝ソフィアにくれたスープの残りを食べているジャックは手を止めて見上げた。

「あ、やっぱりソフィアもいるか?」

「いいえ、いりません」

食いしん坊と思われたように感じて、ソフィアは少し頬を膨らます。

「ははっ、そうか。まだあるから、腹が空いたら食べていいからな」

「はい……あの、ジャック様は何者ですか?」

「へっ?」

ソフィアは実は密かにずっと、違和感を感じていたのだ。
小さな違和感は積み重なり、どんどん大きくなっていっている。

「とても品があります。ずっとこの様な生活をしていた人には思えません」

真面目な顔で真っ直ぐにジャックを見て言うソフィアを、ジャックはキョトンとした表情で見ている。

「では、ソフィアはどうなんだ?」

「えっ……」

不意打ちで質問を返されて、ソフィアは狼狽えてしまう。

「ず、狡いです! 質問に質問で返すなんて!」

「ああ、そうだな。すまない」

狼狽しているソフィアとは反対に、ジャックはとても堂々としている。

(素直に謝ることが出来るところも素敵……)

ソフィアの周りの大人の男性の多くは、謝ることをしない。
プライドが邪魔をして自分の非を認めることが出来なかったり、責任転嫁をして自分は悪くないと思う癖がついていたり、自分が上位に立ちたくて相手に弱いところを見せたくなかったり……
ソフィアはその様な大人たちを見て、いつも”大人とは何か”と考え、”ただ年を重ねているだけ”だと幻滅する。

「……私もごめんなさい。自分のことは話さずにジャック様のことを聞くだなんて、狡かったです」

しゅんっと素直に謝るソフィアに、ジャックは少し驚いた顔をした後で目を細めた。

「はは。良い子だな」

気づくとソフィアは固まっていた。
ジャックに頭を撫でられているのだ。
しかしすぐに我に返り、手を振り払う。

「子供扱いしないで下さい! 私はもう18です! ジャック様はおいくつなんですか?」

ムッとした顔で睨み付けながら上目遣いで言うソフィアに、ジャックは心乱されそうになる。
しかし何事もなかったように、何も感じなかったように装って淡々と言う。

「26だ」

いつもの微笑みを浮かべてそう言うと、ジャックは再びスープを飲み始めた。

(私が教えたことには答えてくれるのね……)

ソフィアはジャックを見ながら、巾着をギュッと握りしめる。

「あっあの……」

「ん?」

ジャックは残りのスープを飲み干して、顔を上げた。

「指輪はもういいです」

「えっ? 大切な指輪なのだろう?」

ジャックのその言葉に、ソフィアは複雑な表情をしてしまう。

「大切……ある意味そうですね。でも、もういいです」

「そんな……昨日の今日だ、諦めるのはまだ早い。もう少し探させてはくれないか?」

ソフィアはジャックならそう言うだろうと思った。
だから、嘘をつくことに決めたのだ。

眉を下げて言うジャックに、ソフィアはひとつ小さな深呼吸をしてから口を開く。

「申し訳ないと思うのなら、もう暫く私をここに置いてはくれませんか?」


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