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第七章 すれ違い

9:目処

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男は国の警備隊へ引き渡すために、スターリンが連れて行った。

スターリンの乗る馬車を、キャサリンは見えなくなるまで見送っていた。
そんなキャサリンを、リリカはずっと見守る。

「……キャサリン、スターリン様に声を掛けなくて良かったの?」

リリカが礼を伝えた時も、キャサリンはリリカの後ろで一緒に頭を下げただけだった。

「……私、感じが悪かったわよね……。けれど、今スターリン様の顔を見たくはないの。自分から手を離したのですもの……」

リリカは勿論だがキャサリンも、スターリンに未練はたっぷりだ。

(キャサリンの気持ちがよく分かるわ。今、目なんて合ってしまったら……辛すぎるわ)

今の2人は、前を進むしかないのだ……





その夜、リチャードは二人を呼んで、真剣な顔で言った。

「戻って来た半分の金と私が集めた金とで、何とか領地民に辛い思いをさせずにすみそうだ。リリカとキャサリンの稼いでくれた金も合わせると、屋敷の運営費も使用人達への給金も大丈夫だ」

リリカとキャサリンは目を見開いて固まる。
そんな二人を見て、リチャードは破顔した。

「本当に良かった。二人共、ありがとう」

リチャードは、笑いながら目が潤んでいる。
元の金額には及ばないが、目処がついてホッとしたのだ。

「貯蓄は少ないから引き続き頑張らないといけないが、取り敢えずこの冬は凌げるし、何とかなりそうだ」

「「お父様!」」

「二人のおかげだよ。ありがとう」

3人は心からホッとした顔で、涙を流しながら抱き合ったのだった……


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