正直なキミともういちど青春する臆病な僕。

ふじのはら

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#21 突然の確認

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3月
北海道は雪がだいぶ溶けて、国道沿いでは路肩や駐車場の隅に残る程度になっていた。

その日はあちこちの高校で卒業式が行われ、よくこの店に来てくれた女の子たちも卒業証書を見せに来た。
「和倉さん、私たちの制服姿も見納めだよ」
そう笑う彼女たちにも、昔の俺や川原のように人知れず抱える悩みがあっただろうか。そして一生を左右するような出会いや別れはあっただろうか。

毎年、高校生が入学や卒業する日、見知らぬ彼らの姿を見て何故か胸が苦しくなった。それだけ自分の高校時代に苦しい思いが多かったということなんだろう。
今年はそれが少し違った。青春真っ只中の高校生たちを懐かむ感情があったのだ。
それは間違いなく川原の存在があるからだった。

閉店間際のことだ。意外な人が店に入って来た。
「こんばんは。和倉くん。」
「え、、あれ、こんばんは、、あの川原は来てないですけど?」
「あぁ、いや、キミに会いに来たんだよ」
グレーのコートに紺色のマフラー姿の男はそう言った。

川原 弘紀かわはら こうき。職業は歯科医。来月婚約者と入籍する。
ー彼は川原 朋紀かわはら ともきのお兄さんだ。
「少し話がしたいから終わるまで待たせて」
そう言って彼は俺の閉店作業が終わるのを20分ほども待っていた。

閉店した店内の客席で、弘紀さんにコーヒーを出す。
こんな風に閉店後によく川原と過ごした事があったっけ、、。でもそれは付き合う前の話だ。

「それで、、今日は、、?」
「んー。少し聞きたくて。朋紀のこと。」
「川原のこと、、?」
「、、っていうか、朋紀と和倉くんのこと?」
「、、、」
「ふっは、そんな顔しないでって」
弘紀さんは眉を寄せた俺を見て笑った。

「、、弘紀さん、川原と似てますよね。笑ったところ」
「俺あんなボケっとしてないって」
そう言ってまた笑う彼はやっぱり川原と似ていて、何故かこちらが恥ずかしくなってくる。
「朋紀がさ、和倉くんのことハッキリ言わないんだけど、キミたち付き合ってるよね?」
「え、、や、、」
何となく予想がついてた弘紀さんの言葉ではあったけど面と向かって聞かれれば、やっぱり少し動揺してしまった。川原が言ってないなら、隠したいということかもしれない。

探るような眼差しで続ける。
「だって結構な頻度で和倉くんの家泊まってるよね?朋紀は和倉くんのこと好きなのに、ただの友だちとしてはちょっと不自然。、、それとも俺に隠して女の子の所?」
「、、いえ、たぶん、うちに遊びに、、」
「遊びに?」
「川原本人に聞かないんですか?」
俺の少々突っぱねるような言い方に、彼は少し眉を寄せて大袈裟にため息をついた。
「聞きたいけどさぁ、ちゃんと成人してる男に、更に年上の兄貴がんな事口出せないじゃん。さすがに。」
「だから俺っすか。」
「相手に聞くのが良いかと思って。いや、回りくどいのやめよ。付き合ってるのは朋紀の態度見ればわかる。ーで、変なこと聞くけど、、、体の関係は?」
「え、、」
「ごめんごめん。相手の兄貴にんなこと聞かれても嫌だろうし、答えるのも嫌なのわかってるよ。、、ただ、、心臓のこと、大丈夫か気になってて」

あぁ、そういう事か。
セックスは心臓に負担がかかるから。弘紀さんが男同士をどう解釈しているかは知らないけど、とにかく心臓に必要以上の負担をかけていないか、それを気にしているんだろう。
「、、大丈夫だと思います」
「あ、答えた」
「まぁ、はい。川原の体を心配する気持ちは俺なんかとは比べものにならないと思うんで、、」
「そっか、ありがとう。それは、和倉くんが朋紀に無理をさせ過ぎないように気にしてくれてるってことで良い?」
「、、こういうの、何て答えれば良いんですか。どう言っても川原に怒られそう、、。」
「あー、うん、そだね。俺も自分で聞いといて何だけど、具体的な事を聞きたいわけじゃなくて、、あいつの体の事気にしてくれてるならそれで良いんだ。、、じゃあ違う事聞いて良い?和倉くんと朋紀って、本当は高校時代から好きとか、そんな感じ?」
俺は驚いて弘紀さんを見た。彼は高校時代の俺たちがどんなだったか一切知らないのだろう。
「まさか。偶然知り合っただけで、友だちってほどでもなくて、、。ただずっとお互いの存在に支えられてたってだけで、、」
ねぇ。そんな簡単な関係には見えなかったけどね?、、まぁ、、今は朋紀のこと好き?好きだから体の関係持ってるって事であってる?」

彼は俺をじっと見る。その目を見返して俺は小さく頷いた。

「、、そうです。好きだから一緒にいます。俺たちも高校時代思い出すと気恥ずかしいですけど、今は、、ちゃんとそういう気持ちで一緒にいます。」
「和倉くん、女性に興味ないの?朋紀も?」
「ゲイかどうかってことですか?川原は、、正直わかりません。俺はたぶんゲイです。現に男の川原を好きなわけですから。」
「そっか、、、朋紀の恋は実ったワケだ、、。」
暫く俺を眺めたあと、弘紀さんはクスっと笑った。その顔も川原に似ている。
「俺変な事言いましたか?結構真面目に答えたつもりなんですけど、、」
「ごめん、怒んないで。なんか和倉くん、前会った時と雰囲気違うと思って。そんな迷いなく話してくれるタイプだっけ?」
「、、自分なりに納得できたんで。迷っても誤魔化しても事実は変わらなかったから、、それに川原と居られる自分はわりと好きです。川原のおかげだと思います。」

川原が好きだと普通に思えるようになった。川原に啼かされて、みっともない姿を曝け出しても、それが恋人の特権だと喜ぶ川原のおかげで、愛する人に愛される自分を少しは認められるようになった気がする。

俺の言葉に今度は弘紀さんが頷いた。
「じゃあ、わざわざ来て正解だったわけだ。俺さ、聞いてるかもだけど来月結婚するんだ。」
「おめでとうございます。」
「うん、ありがとう。、、でね、もう朋紀の様子わからなくなるからさ。だから和倉くん、あいつのこと、、宜しく頼みます。」
そう言って俺に頭を下げた。

そうか、、この弟思いの兄は、弟の事を誰か信頼出来る人に託したくてここに確かめに来たんだ、、。
「わかってんだよ?もう心配するような状態じゃないないし、朋紀もいい歳だし。ただ、やっぱり目の前で何度も死にそうになってたから、、いまだに急にそういうことになりそうな錯覚があるっていうか、、」
そう苦笑しながら言う弘紀さんは、俺みたいなずっと年下の、しかも弟の彼氏だという男に一生懸命本音を伝えようとしてくれていた。

「大丈夫です。俺ずっとあいつと居るつもりです。ちゃんと真剣な気持ちなんで。もちろん、心臓のこともちゃんと意識してます。」
「そっか、良かった。本当に。」
そう笑顔をつくった弘紀さんは本当にホッとした顔をしていた。

その時俺のスマホが鳴った。
チラッと弘紀さんを見ると、「どうぞ」と片手でスマホを示して出るよう促した。

「もしもし、川原?あのさ、、」
「和倉?これから行っていい?今近くにいるんだけど、、」
「あ、や、今ちょっと、人来てて」
「え、だめ?邪魔しないよ?和倉に会いたくなった」
「あ、あー、うん。」
「会いたくなったらいつでも来いって言ってたよね?だから行きたいっ!今すぐ!」
「はは、川原酔ってるよな?」
「何飲んだと思う?」
「その変な酔い方はワイン」
「正解。だから今から会いに行って良い?5分後。」
「5分後!?えーっと、、」
チラリと弘紀さんの顔を見る。
こちらは静かな閉店後の店内で川原は外で話しているから、声は電話越しにも筒抜けだったようだ。

すっと前から伸びた手が俺のスマホを取り上げた。
「全部聞こえてんだよバカ朋紀」
「、え!?、、は?兄貴!?」
電話の向こうから素っ頓狂な声が聞こえる。
「俺も待っててやるから、大っ好きな和倉くんに会いに来な、朋紀。」
「な、何!?何で兄貴?え、マジか、、やば、」
笑いながら電話を一方的に切ると弘紀さんは俺にスマホを返しながら、
「ごめんね。我儘わがままなヤツで。家族には一切我儘言わないんだけどな。」と肩をすくめて言った。
「ですよね。俺にも普段はあんまり。でも我儘言ってくれた方が良いって、俺が言ったんです。」
「そっかぁ。ちゃんと和倉くんにはいろんな顔見せてるのか、、」
感心したように言った言葉からは、2人の仲が自分の想像よりも深いことに対する驚きがうかがえた。その顔はどこか嬉しそうで、かすかに寂しそうでもある。
「でも、さっきのはワインのせいですよ。川原ワインだけ異様に悪酔いするんですよね。」
「あはは、俺もそうかも。うちの家系皆んなワイン弱いかも」

そんなやりとりをしている少しの間に川原は店に到着した。ぜーはーと息を切らしているのは、兄貴がいつの間にか自分の恋人と会っている事に驚いて走って来たのだろう。
「お、早かったな。朋紀」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って。何これ?何でここに兄貴いんの??」
息を切らしている川原に冷たいお茶を出してやる。
「川原ごめん、俺らのこと弘紀さんに話しちゃった。っつーか、バレてた。」
「う、わ、、酔いが一気にさめたわ」
「朋紀は何で隠してたの?」
「そりゃ、、驚かれるし、愛海まなみさんがどう思うかわからないし、、それに和倉のことでもあるから俺が勝手に話すわけには、、」
「まぁ、朋紀の態度すっげぇバレバレだったけどな」
そう弘紀さんは笑った。

そして彼は暫く俺と川原の何でもないやりとりを眺めたあと「2人とも聞いてくれる?」と改まった顔で切り出した。

「まだ朋紀にも言ってなかったんだけど、愛海の仕事の都合で5年くらい神奈川に行くことになった。ーで、あのマンション、朋紀追い出して人に貸そうと思ってたんだけど、、」
「ええっ!?」
「、、けど和倉くんの話聞いて気が変わった。、、2人、一緒に住まない?2人分の家賃は払ってもらうけど」
「えっ!?」
「2人で!?」

俺と川原は、突然の弘紀さんの提案に驚きの声をあげて顔を見合わせた。
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