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#19 本音と雪降る夜
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ドアを開けると、会議用テーブルに向かって座っていた川原がゆっくりと顔を上げた。
その顔は蒼白で瞳には怒りとも悲しみともつかない色を宿していて俺を怖気付かせた。
「、、ただいま。ごめん、待たせて、、」
「話せた?」
「話せたよ。」
俺は川原の隣の椅子をひいて彼の方を向くように座った。
「川原にもちゃんと話したい」
「、、、」
彼は俺の方を見ずに小さく頷いた。
「何回謝っても足りないの分かってんだけど、本当にごめん。俺、川原をあの人に会わせるのが嫌で、自分の意思で一緒に店出た。」
「うん、、アキさんが見てたんだって。それで歩くんに話して、歩くんは常連のお客さんからあの人が和倉の中学の同級生でちょっと訳アリだって聞いててピンと来たみたい。」
「そっか、、」
「和倉、、俺たちがあのタイミングで行かなかったらって思ったら、、俺震えるほど怖い、、」
「っ、ごめん、川原。ごめん。」
川原がテーブルの上で握る手に俺は掌を重ねた。彼の手はひどく冷たい。
「川原覚えてるかわかんないけど高校の時に先輩と川原会ってるんだ」
「河川敷でね。覚えてる」
「あの時の川原の事、先輩はずっと誤解してた。俺が川原に乗り換えたから会わなくなったって。」
「え、そうなんだ?」
「、、あの先輩のことは俺が悪いんだ。何年も何年もお互いの傷になるような終わり方をしたのは俺の方だ。先輩は俺に好意を持ってくれただけで、、」
関係があった時のことを今の恋人である川原に話すのは罪悪感しか無かった。ただ川原にもきちんと伝えなければならない、、。
「俺やっとちゃんと分かって、今更だけど謝った。許しては貰えないだろうけど、もう俺には会うこと無いって言ってた。川原とせいぜい頑張れって。」
川原が俺の方を見ないことが怖かった。
先輩と2人で店を出てここへ来たことも、先輩と自分が何年も前に確かに関係があったと改めて知らせてしまったことも、川原に嘘をつかせたことも全て俺が悪いのだ。
川原は、俺から離れていくかもしれない、、
それがとんでもなく怖い。
「川原に嘘つかせて庇ってもらうなんて、俺最低だよな、、。いつもそうだった。川原はせっかく自由に生きられるようになったのに、正直でいたいって言っていたのに、、いつも俺の気持ちを優先して嘘をついてくれて、、どんなに謝っても足りないくらい川原に無理させて、、ー、、」
川原が顔を上げて俺を見た。
俺は言葉を続けることが出来なかった。
彼が瞳に涙をためていたからだ。
「なぁ和倉、なんでそんな話する?最後に“だからもう別れよう”って言うのか?俺の事好きだって言えよ、、和倉が離れていきそうで死ぬほど怖い、、」
川原の白い頬を涙が伝う。
こんなふうに酔ってもいない川原が涙を見せるのは初めてだ。
「川原?待って、好きだよ。当然だって。なんでそんなこと、、」
「和倉は俺よりいろんな事を経験してる。たくさんの出会いがあって、いろんな人に好かれて、、俺が知らない事をきっと沢山知ってる。けど俺には和倉しかいなくて、、和倉が離れて行ったら何も無い。、、もしかしたら、あの先輩の方に行くかもって思った、、俺の中でその可能性はゼロじゃなかった、、だから嘘くらいつくよ。そんなんで和倉を繋ぎ止めれるならどんな嘘でも。」
彼は涙を腕でぬぐってまた俯いてしまう。
その姿に胸がぎゅっと締め付けられた。
怖かったのは俺だけじゃなかった。
いつも余裕があって冷静な川原がこんな風に感情的になるなんて、、、
「何言ってんだよ、、俺から見たら反対だよ、川原。今まで我慢した分川原はどこにだっていけるだろ。それは川原が闘って勝ち取ったものだ。ー、、なのに俺は昔のままだ。ずっとあの頃と同じ場所に立ち止まって目を逸らせたままだった。だからこんなことになって、愛想を尽かされるんじゃないかって、、どうしたら許してもらえるだろうかって俺必死で、、、」
「、、そんなこと、、」
彼は俺を見ないまま首を横に振る。
「ねぇ、川原、俺にとって川原は言葉で表せれるものじゃ無いんだ。好きとか愛してるとか、それは確かにその通りだけど、もっと違う深いものなんだよ。」
「もっと深い、、?」
「そうだよ。お前がいなきゃ俺じゃない、みたいな。本当にそんな感じなんだ。どう言ったら伝わるかな」
俺は困り果てて天井を仰いだ。
どんなふうに表現しても安っぽいドラマの台詞のようだけど、俺が言いたいのはどれだけ愛が深いかの比喩なんかじゃない。本当の、事実の話だ。
でも川原には何かしら伝わったようだ。
彼は俺の掌の中で、自分の手をぎゅっと握ると言った。
「そっか、、うん、、俺にとっても同じかも。和倉は、、俺の人生の根幹にある。だから和倉がいないのは俺無理だ」
その言葉が嬉しかった。言いたい事がちゃんと伝わったんだろうし、たぶん川原が言っていることは俺と同じような意味だ。
彼の冷たい頬に触れて顔を上げさせる。赤くした瞳も涙で少し濡れた唇も愛おしい。
「川原、俺たち一緒に居れるよな?離れてかないで俺の側に居てくれるよな?」
「俺は言ったじゃん。全部和倉にやるって。持て余しても放り出すなよって」
赤い目で、彼はやっと微笑んだ。
川原は俺の首筋に手を掛けて顔を寄せた。
少しだけ涙の味がする唇が俺の唇を塞ぐ。
顔を離して俺の目を見る。
あぁ、俺川原が本当に大切なんだ、、この気持ちはもう否定も誤魔化すことも出来ない。
俺は小さく頷いた。
何も誤魔化す必要はない。
「同じなんだな、俺たち。やっぱり高校の時にクソほど重くて大切なもの共有しちゃったんだな、、」
川原はもう一度今度は深いキスをした。
さすがに言葉には出さなかったが、もしかしたらこういうのを運命と言うんじゃないか、、
俺は本気でそう思った。
一旦川原をワインバーの前まで連れて行って、俺だけが歩とアキさんに会いに店に入った。
歩は仕事中なのでカウンターに入っていて、そのカウンターでアキさんがワインを飲んでいる。
「あ、誉、、大丈夫?」
「歩、アキさん、すみませんでした。俺の軽々しい行動で大事になるとこだった」
「俺見てて良かったよ。川原くんと電話してんのも聞こえてて、もうすぐ来るみたいな話してたのにアイツと出て行くなんておかしいなって思った、、」
「アキさんが気付いてくれてなかったら俺本当にやばかった、、歩も仕事中だったんだろ。ごめんな。」
「別に俺たちは良いよ。あの成田くんって、常連の笹谷さんの同僚らしいよ。本人隠してたけどゲイバレしたみたい。この店に誉が出入りしてるって知ってから結構執着してた。笹谷さんがもう来ないように言うって。」
「先輩はたぶんもう来ないよ。」
「川原くんは?大丈夫?見たことない感じにブチギレてたけど修羅場になんなかった?」
「大丈夫。川原は、大きい声を出したり暴力に訴える人間じゃないし。泣かせちゃったけど」
「そっか。川原くんめちゃくちゃ良い男だよね。プライドとか怒りとか押し殺してでも誉を守ろうとしてた、、誉、幸せを手放すなよ。」
「うん、さんきゅう。俺たちこのまま帰るね。またそのうち2人で来るよ。」
俺は川原に頼まれた分も2人に礼を言って店をあとにした。
帰り道。
雪の中俺たちは並んで歩いた。結局川原はクリスマスパーティに参加しそびれた。あんなに楽しみだと笑っていたのに、まさかこんな日になるなんて2人とも想像もしていなかった。
「川原は100パーセント俺に優しい。」
「、、うん?なに急に」
「理性的で穏やかで」
「そんなことないけど、、」
「常に自分より人の気持ちを尊重してくれる」
「、、人って言うか、和倉をね。誰にでもじゃない。」
「でも、もう少し俺に本音を言って欲しい。いや、嘘つかせてるのは俺なんだけど、、俺との間ではもっと我儘であって良いし、自然体でいて欲しい、、、」
「、、わかった。頑張るよ。」
困った顔で曖昧に頷く川原がなぜ自分を強く主張しないのか、、それはきっと病気でいろんな事を諦めるのに慣れてしまったからだと思う。
自分の気持ちを主張したところで意味がない事が今までの川原には多すぎた。
だからこそ、これから少しずつ俺には我儘になって欲しいと思うのだ。
「川原は?俺にどうして欲しいとかある?」
「和倉に?、、俺との関係を、、いや、和倉自身の事を少しずつ認めてあげて欲しい。否定して苦しまないで欲しい。」
「、、わかった。頑張る。」
、、あぁ、川原はどこまでも優しくて、どこまでも俺の事を思ってくれる。そんな川原が愛おしい。彼が幸せだと笑顔になる未来に俺が一緒に居られるならそんな幸せなことはないだろう。
そんな幸せを否定できる訳なんかない。
俺の家までの道のりを雪を踏みしめて歩く。靴が雪をギュッギュッと鳴らし、口から吐く息は白かった。空を見れば冬の冷たく澄んだ空気に星が出ていて星空から雪が舞い降りて来る。
夏の初めに再会した川原と、もう冬を一緒に過ごしてることを「悪くない」なんて思った。
「和倉、黙って何考えてる?」
「悪くない。って。冬も悪くない。これから温かい家に2人で帰って、2人で過ごす。冬もクリスマスも悪くない。」
「だね。クリスマスパーティは逃したけど、やっぱ2人で良いや」
「川原は?何考えてた?」
「、、だいたい和倉と同じかな。ー、、早く帰って和倉とヤりたい。もういっそシャワーとかどうでも良いかなって。」
「は?なにが俺と同じって?」
俺はジロリと川原を見た。
「いや、だいたいは同じだったろ?」
そう言って川原はいたずらっ子のような顔で笑った。
「だいたい?、、あー?同じ、、かぁ。俺も、川原とヤりたい。わりと激しく。」
「あはは!激しくね。じゃあ意識飛ぶほどイッてもらおうかな。」
「よし、お前の一滴残らず搾り取ってやるよ。どんなことして欲しい?」
「、、やば、考えたら勃ちそう、、」
「おまえこの寒いのによく勃てれるな。凍って折れるぞ」
俺が笑ってからかうと、川原は雪を蹴って俺に浴びせてくる。
「うるさい。どうせ下半身は思春期だよ!」
声を立てて笑いながら、俺と川原はアパートへ帰った。
その顔は蒼白で瞳には怒りとも悲しみともつかない色を宿していて俺を怖気付かせた。
「、、ただいま。ごめん、待たせて、、」
「話せた?」
「話せたよ。」
俺は川原の隣の椅子をひいて彼の方を向くように座った。
「川原にもちゃんと話したい」
「、、、」
彼は俺の方を見ずに小さく頷いた。
「何回謝っても足りないの分かってんだけど、本当にごめん。俺、川原をあの人に会わせるのが嫌で、自分の意思で一緒に店出た。」
「うん、、アキさんが見てたんだって。それで歩くんに話して、歩くんは常連のお客さんからあの人が和倉の中学の同級生でちょっと訳アリだって聞いててピンと来たみたい。」
「そっか、、」
「和倉、、俺たちがあのタイミングで行かなかったらって思ったら、、俺震えるほど怖い、、」
「っ、ごめん、川原。ごめん。」
川原がテーブルの上で握る手に俺は掌を重ねた。彼の手はひどく冷たい。
「川原覚えてるかわかんないけど高校の時に先輩と川原会ってるんだ」
「河川敷でね。覚えてる」
「あの時の川原の事、先輩はずっと誤解してた。俺が川原に乗り換えたから会わなくなったって。」
「え、そうなんだ?」
「、、あの先輩のことは俺が悪いんだ。何年も何年もお互いの傷になるような終わり方をしたのは俺の方だ。先輩は俺に好意を持ってくれただけで、、」
関係があった時のことを今の恋人である川原に話すのは罪悪感しか無かった。ただ川原にもきちんと伝えなければならない、、。
「俺やっとちゃんと分かって、今更だけど謝った。許しては貰えないだろうけど、もう俺には会うこと無いって言ってた。川原とせいぜい頑張れって。」
川原が俺の方を見ないことが怖かった。
先輩と2人で店を出てここへ来たことも、先輩と自分が何年も前に確かに関係があったと改めて知らせてしまったことも、川原に嘘をつかせたことも全て俺が悪いのだ。
川原は、俺から離れていくかもしれない、、
それがとんでもなく怖い。
「川原に嘘つかせて庇ってもらうなんて、俺最低だよな、、。いつもそうだった。川原はせっかく自由に生きられるようになったのに、正直でいたいって言っていたのに、、いつも俺の気持ちを優先して嘘をついてくれて、、どんなに謝っても足りないくらい川原に無理させて、、ー、、」
川原が顔を上げて俺を見た。
俺は言葉を続けることが出来なかった。
彼が瞳に涙をためていたからだ。
「なぁ和倉、なんでそんな話する?最後に“だからもう別れよう”って言うのか?俺の事好きだって言えよ、、和倉が離れていきそうで死ぬほど怖い、、」
川原の白い頬を涙が伝う。
こんなふうに酔ってもいない川原が涙を見せるのは初めてだ。
「川原?待って、好きだよ。当然だって。なんでそんなこと、、」
「和倉は俺よりいろんな事を経験してる。たくさんの出会いがあって、いろんな人に好かれて、、俺が知らない事をきっと沢山知ってる。けど俺には和倉しかいなくて、、和倉が離れて行ったら何も無い。、、もしかしたら、あの先輩の方に行くかもって思った、、俺の中でその可能性はゼロじゃなかった、、だから嘘くらいつくよ。そんなんで和倉を繋ぎ止めれるならどんな嘘でも。」
彼は涙を腕でぬぐってまた俯いてしまう。
その姿に胸がぎゅっと締め付けられた。
怖かったのは俺だけじゃなかった。
いつも余裕があって冷静な川原がこんな風に感情的になるなんて、、、
「何言ってんだよ、、俺から見たら反対だよ、川原。今まで我慢した分川原はどこにだっていけるだろ。それは川原が闘って勝ち取ったものだ。ー、、なのに俺は昔のままだ。ずっとあの頃と同じ場所に立ち止まって目を逸らせたままだった。だからこんなことになって、愛想を尽かされるんじゃないかって、、どうしたら許してもらえるだろうかって俺必死で、、、」
「、、そんなこと、、」
彼は俺を見ないまま首を横に振る。
「ねぇ、川原、俺にとって川原は言葉で表せれるものじゃ無いんだ。好きとか愛してるとか、それは確かにその通りだけど、もっと違う深いものなんだよ。」
「もっと深い、、?」
「そうだよ。お前がいなきゃ俺じゃない、みたいな。本当にそんな感じなんだ。どう言ったら伝わるかな」
俺は困り果てて天井を仰いだ。
どんなふうに表現しても安っぽいドラマの台詞のようだけど、俺が言いたいのはどれだけ愛が深いかの比喩なんかじゃない。本当の、事実の話だ。
でも川原には何かしら伝わったようだ。
彼は俺の掌の中で、自分の手をぎゅっと握ると言った。
「そっか、、うん、、俺にとっても同じかも。和倉は、、俺の人生の根幹にある。だから和倉がいないのは俺無理だ」
その言葉が嬉しかった。言いたい事がちゃんと伝わったんだろうし、たぶん川原が言っていることは俺と同じような意味だ。
彼の冷たい頬に触れて顔を上げさせる。赤くした瞳も涙で少し濡れた唇も愛おしい。
「川原、俺たち一緒に居れるよな?離れてかないで俺の側に居てくれるよな?」
「俺は言ったじゃん。全部和倉にやるって。持て余しても放り出すなよって」
赤い目で、彼はやっと微笑んだ。
川原は俺の首筋に手を掛けて顔を寄せた。
少しだけ涙の味がする唇が俺の唇を塞ぐ。
顔を離して俺の目を見る。
あぁ、俺川原が本当に大切なんだ、、この気持ちはもう否定も誤魔化すことも出来ない。
俺は小さく頷いた。
何も誤魔化す必要はない。
「同じなんだな、俺たち。やっぱり高校の時にクソほど重くて大切なもの共有しちゃったんだな、、」
川原はもう一度今度は深いキスをした。
さすがに言葉には出さなかったが、もしかしたらこういうのを運命と言うんじゃないか、、
俺は本気でそう思った。
一旦川原をワインバーの前まで連れて行って、俺だけが歩とアキさんに会いに店に入った。
歩は仕事中なのでカウンターに入っていて、そのカウンターでアキさんがワインを飲んでいる。
「あ、誉、、大丈夫?」
「歩、アキさん、すみませんでした。俺の軽々しい行動で大事になるとこだった」
「俺見てて良かったよ。川原くんと電話してんのも聞こえてて、もうすぐ来るみたいな話してたのにアイツと出て行くなんておかしいなって思った、、」
「アキさんが気付いてくれてなかったら俺本当にやばかった、、歩も仕事中だったんだろ。ごめんな。」
「別に俺たちは良いよ。あの成田くんって、常連の笹谷さんの同僚らしいよ。本人隠してたけどゲイバレしたみたい。この店に誉が出入りしてるって知ってから結構執着してた。笹谷さんがもう来ないように言うって。」
「先輩はたぶんもう来ないよ。」
「川原くんは?大丈夫?見たことない感じにブチギレてたけど修羅場になんなかった?」
「大丈夫。川原は、大きい声を出したり暴力に訴える人間じゃないし。泣かせちゃったけど」
「そっか。川原くんめちゃくちゃ良い男だよね。プライドとか怒りとか押し殺してでも誉を守ろうとしてた、、誉、幸せを手放すなよ。」
「うん、さんきゅう。俺たちこのまま帰るね。またそのうち2人で来るよ。」
俺は川原に頼まれた分も2人に礼を言って店をあとにした。
帰り道。
雪の中俺たちは並んで歩いた。結局川原はクリスマスパーティに参加しそびれた。あんなに楽しみだと笑っていたのに、まさかこんな日になるなんて2人とも想像もしていなかった。
「川原は100パーセント俺に優しい。」
「、、うん?なに急に」
「理性的で穏やかで」
「そんなことないけど、、」
「常に自分より人の気持ちを尊重してくれる」
「、、人って言うか、和倉をね。誰にでもじゃない。」
「でも、もう少し俺に本音を言って欲しい。いや、嘘つかせてるのは俺なんだけど、、俺との間ではもっと我儘であって良いし、自然体でいて欲しい、、、」
「、、わかった。頑張るよ。」
困った顔で曖昧に頷く川原がなぜ自分を強く主張しないのか、、それはきっと病気でいろんな事を諦めるのに慣れてしまったからだと思う。
自分の気持ちを主張したところで意味がない事が今までの川原には多すぎた。
だからこそ、これから少しずつ俺には我儘になって欲しいと思うのだ。
「川原は?俺にどうして欲しいとかある?」
「和倉に?、、俺との関係を、、いや、和倉自身の事を少しずつ認めてあげて欲しい。否定して苦しまないで欲しい。」
「、、わかった。頑張る。」
、、あぁ、川原はどこまでも優しくて、どこまでも俺の事を思ってくれる。そんな川原が愛おしい。彼が幸せだと笑顔になる未来に俺が一緒に居られるならそんな幸せなことはないだろう。
そんな幸せを否定できる訳なんかない。
俺の家までの道のりを雪を踏みしめて歩く。靴が雪をギュッギュッと鳴らし、口から吐く息は白かった。空を見れば冬の冷たく澄んだ空気に星が出ていて星空から雪が舞い降りて来る。
夏の初めに再会した川原と、もう冬を一緒に過ごしてることを「悪くない」なんて思った。
「和倉、黙って何考えてる?」
「悪くない。って。冬も悪くない。これから温かい家に2人で帰って、2人で過ごす。冬もクリスマスも悪くない。」
「だね。クリスマスパーティは逃したけど、やっぱ2人で良いや」
「川原は?何考えてた?」
「、、だいたい和倉と同じかな。ー、、早く帰って和倉とヤりたい。もういっそシャワーとかどうでも良いかなって。」
「は?なにが俺と同じって?」
俺はジロリと川原を見た。
「いや、だいたいは同じだったろ?」
そう言って川原はいたずらっ子のような顔で笑った。
「だいたい?、、あー?同じ、、かぁ。俺も、川原とヤりたい。わりと激しく。」
「あはは!激しくね。じゃあ意識飛ぶほどイッてもらおうかな。」
「よし、お前の一滴残らず搾り取ってやるよ。どんなことして欲しい?」
「、、やば、考えたら勃ちそう、、」
「おまえこの寒いのによく勃てれるな。凍って折れるぞ」
俺が笑ってからかうと、川原は雪を蹴って俺に浴びせてくる。
「うるさい。どうせ下半身は思春期だよ!」
声を立てて笑いながら、俺と川原はアパートへ帰った。
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