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#18 嘘つき
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「電話鳴ってね?お前のオトコじゃねぇの?出て言えよ、これから処女を捧げた男とヤるところですって。」
「、、違う。下の店で待ち合わせしてた友だちだ」
「ふぅん。ま、どっちでも良いけど。、、んで?何抵抗してんの?その手離せよ。あ、もしかして煽ってんのか?」
ファスナーを下げた成田先輩の手首を俺は掴んでいた。
至近距離でニヤリと笑う彼を見て、俺は何となく気がついた。
この人は、俺を恨んでいるんだ、、、きっと高校のあの時からずっと、、
「良いのかな。下の店に顔馴染みいっぱいいるんだろ?俺酒が入ると余計な昔話しちゃうけど?」
「っ」
俺の腕が一瞬ゆるんで、彼は下着越しに俺のものを掴んだ。中途半端に芯を持ったものを揉むように擦る。
反対の手で俺の髪の毛を掴むと、まるで噛み付くように頸筋に舌を這わせて俺の肌を粟立てた。
「ほらな相変わらず男に触られておっ勃ててる」
「っ、やめろよ、んなの触られれば誰だってなるだろ」
「違うんだよ誉。ノンケだったら生理的に受付ねぇんだよ。いくら秘密を握られてるからってこんな素直に反応するか?もっと心の奥から嫌悪するんだよ」
言いながら彼は俺の下着にも手を掛けて「しゃぶってやろうか」とかがみ込んだ。
その時だった。
突然ドンドンと部屋の扉が叩かれて、成田先輩は大きく舌打ちすると立ち上がった。
「誉!入るよ!」
「和倉!!」
返事を待たずに開けられたドアの向こうに、歩と、アキさん、そして青い顔をした川原が立っていた。
部屋に数歩入った川原は俺の無事を見てから怒りの籠った目で成田先輩を見据える。
「あんた何してんだ?和倉の昔の先輩なんだよな?」
「何だよおまえら。なぁ、誉、俺たちこれからヤるとこなのに、お前の知り合い?」
俺は咄嗟に勃ち上がった股間を隠そうとソファに足を乗せて身を縮める。川原に見られただろうか、、たとえ見られていなくても、先輩の言葉が全くのデタラメじゃ無い事は俺と先輩の雰囲気を見ればわかるだろう。
ただ何かを無理強いされたり乱暴されたわけじゃないこともひと目でわかる。そういう意味ではこのタイミングで川原が来てくれた事にホッとしていた。
まだ何もしていない。ギリギリセーフだ。
ただ、、
川原は厳しい目をして先輩を睨み付けていた。いつも優しく理性的な川原の、初めて見せる顔に緊張で鼓動が大きくなる。
「こっちは和倉と一緒に飲む約束してんだよ。勝手につれてくな」
「はあ?もしかしてあんたが誉の相手か?誉、おまえやっぱゲイなんじゃねーの?」
「違うっつってんだろ!」
とっさに否定して、もちろん後悔した。自分だけでなく、川原を裏切っているような気がしたからだ。
「へぇーえ。じゃあ俺に触られてちんこ勃ててんのは何なんだよ」
「、、、」
俺は川原の方を見ることが出来ない。
危ない状況でギリギリのところで恋人と親友が助けに来たと言うのに、まだ自分を偽る事に懸命で、そんな自分が情けなかったし恥ずかしかった。
成田先輩の言葉に代わりに答えたのは川原の冷めた笑い声だった。
「和倉はゲイじゃねぇよ。」
笑いながら言い放った川原に、成田先輩は眉をひそめた。
俺も川原の言葉に衝撃を受けた。
その怒ったような言い方にも、自分の恋人がそう言った事にも。
恋人の言葉で聞くとショックを受けるくせに、その言葉は俺が言わせているのだ。
川原は怒りを押し殺して、ただの男友達のフリをすることで俺の立場を守ろうとしていた。
「そんな女にモテるやつがわざわざ男にいくかよ。」
「ああ?お前知ってるか!?こいつ、高校の時にさんざん俺とやってんだよ!」
「、、、んなもんモテる男が女じゃ飽き足らずってやつだろ?エロいことしか考えてない歳だったら不思議じゃねんだよ」
一瞬だけ見た川原の視線は、俺の方へは少しも向けられてはいなかった。俺が見たことのない冷笑を浮かべて先輩だけを見ている。
けれど俺の心に川原に対する罪悪感があるせいで、彼の冷たい口調も視線もまるで自分に浴びせられている気がしてスッと血の気が引いて行く。
この人を失うかもしれないという恐怖がジワリと押し寄せた。
歩とアキさんはハラハラとした面持ちで、先輩と川原を交互に見ていた。
その二人は恋人同士であることを皆に公表しているし、俺と川原の関係も知っている。
気の強い歩は先輩に何か言いたそうではあるけど、それをアキさんが引き留めて川原に場を任せているようだ。
「あんた、昔和倉の事好きだったんだろ?もしかしてまだ忘れてないのか?もしそうなら諦めろよ。和倉はもう男なんて構ってない」
「んだよ、おまえ。何わかったふうなこと言ってんだ!?」
「俺は、、昔のあんたと同じで、俺もこいつ好きなんだよ。だからわかってる。残念だけど和倉は男を相手にしない。和倉はゲイじゃない。」
「っは、なんだよ!?あんたがゲイなのか?なるほどね。誉に突っ込みたいのに相手にしてもらえないんだな?御愁傷様」
「放っといてほしいね」
少しの間成田先輩と川原は睨み合っていた。
やがて先輩は「バカらし。昔話でからかっただけだっつーの」と、呆れたように吐き捨てるとそのまま部屋を出て行った。
歩とアキさんがホッと息をついて、川原の肩をポンポンと叩くと、部屋に川原だけを残して2人は静かに出て行った。
「和倉、大丈夫?」
川原はほんの少し俺に近づくと、青ざめる俺に優しく声をかけてくる。
ああ、最悪だ、、
俺は、、何をしているんだ、、
なぜ川原にあんな嘘をつかせてしまったのか、、川原は大切な人なのに、、川原は自分の信念を曲げたり自分が傷付くことを厭わず俺を庇うのに、、
彼の願いは正直に生きることなのに、いつも俺の為に嘘をつく。
これじゃああんまりだ、、
「川原、、」
「大丈夫だ、和倉。何も大したことは起きて無いから。少し落ち着いたら一緒に帰ろう。」
そう言いながらしゃがみ込んだ川原は、安心したように俺を見て少し笑った。
ただ、膝に置かれた両の手が微かに震えていて、それに気が付いた川原は自分の手をぐっと握る。
「川原ごめ、、」
「あぁあ、がらにもなく強気な態度とったら緊張した。和倉、俺間に合った??ごめん勝手な嘘もついた」
いつもの顔で、髪の毛をくしゃりと握り微笑む川原の瞳はどこか悲しそうだった。
その顔を見て、俺は立ち上がった。
川原に腕を伸ばしぎゅっと抱きしめる。
「川原、嫌な思いさせてごめん。来てくれてありがとう。、、なぁ、川原、俺ようやく分かったよ。」
「なに、和倉、、?」
「俺間違えてた。俺もう一回先輩と話しても良いか?、、ちゃんと向き合わなきゃならない気がするんだ。ここで、俺が戻るの待っててくれるか?」
川原の目を真っ直ぐに見れば、川原も俺を見返す。
やがて彼は目を細めて笑うと「分かった。待ってる。行って話してきなよ。」と頷いた。
俺は部屋に川原を残すと、走って成田先輩を追った。
下のワインバーにはさすがに居なかったが、ビルの裏手にある喫煙スペースで、丁度タバコの火を消した所だった。
走って追って来た俺を、先輩はジロと横目で見ただけで歩き出す。
「待って!成田先輩。」
「なに」
「俺、嘘ついた。ごめん。」
「、、はぁ?だからってなんで追っかけて来てまで、、」
「ずっと、、ずっと、、先輩のせいにしてた。あんたはあの頃ちゃんと俺を想ってくれてたのに、俺は勝手に好奇心で足突っ込んで、、それで怖くなって逃げ出した。あんたの気持ちを無視して、、俺ずっと逆恨みしたりして自分のしたことから目そらしてた」
成田先輩はじっと俺を見ていた。さっきのように挑発してこずに黙っている。
この人に好きだと言われて、一度だけ抱かせてくれと言われて、軽薄な気持ちで応じた。そして何度も重ねた。それは自分の意思だった。
けれどそのうち自分自身が怖くなって、引き返せないところにいる気がして、自分が恐ろしくなってしまったのだ。
先輩がどういう気持ちでいたのかまでは俺は考えられなかった、、、。同意の元の状況だったとは言え、彼が傷ついていたのは間違いなく、彼のせいにすることも全くお門違いだったのに、、、
「俺は、、あんたが言う通り男が対象だよ。それは確かにあんたとの事があったせいだ。今まで死ぬほど悩んだり自分ごまかしてきたけど、、今はようやくそれなりに幸せにやれてる、、」
「、、さっきのヤツだろ?」
「、、なんで、、?」
「あいつの目、、ただの友達を心配してる目じゃなかったからな。殺されなくて良かったわ」
先輩は呆れたように鼻で笑う。
「誉、もう二度とお前には会わねーよ。本当に偶然名前聞いてからかってやろうと思っただけだ」
「成田先輩、探してくれて良かったよ。当時言えなかったけどさ、俺を想ってくれてありがと。不誠実な態度で無理矢理いなくなってごめん。」
「ははっ、お前何年前のこと今更いってんだよ。」
笑った成田先輩は、中学の部活で俺を可愛がってくれたあの人の面影を残す。高校の時に俺に想いを打ち明けてきたあの人の面影を残す。
「誉、じゃあな。まぁせいぜいアイツと頑張れ」
先輩は背を向けると歩き出した。
俺が不誠実に傷付けたこの人にも、苦しい思いが当然あったのだ。きっとこの人も俺のせいで何年も色んなおもいを抱えてきただろう。
俺はもう自分の苦しさだけを見るのはやめにしよう、、、
若かりし日の自分の責任や愚かさを噛み締めながら俺は成田先輩の背中が見えなくなるまで見送った。
そうして雪がふわりふわりと降るクリスマスの夜、俺は川原の元へ踵を返したのだった。
「、、違う。下の店で待ち合わせしてた友だちだ」
「ふぅん。ま、どっちでも良いけど。、、んで?何抵抗してんの?その手離せよ。あ、もしかして煽ってんのか?」
ファスナーを下げた成田先輩の手首を俺は掴んでいた。
至近距離でニヤリと笑う彼を見て、俺は何となく気がついた。
この人は、俺を恨んでいるんだ、、、きっと高校のあの時からずっと、、
「良いのかな。下の店に顔馴染みいっぱいいるんだろ?俺酒が入ると余計な昔話しちゃうけど?」
「っ」
俺の腕が一瞬ゆるんで、彼は下着越しに俺のものを掴んだ。中途半端に芯を持ったものを揉むように擦る。
反対の手で俺の髪の毛を掴むと、まるで噛み付くように頸筋に舌を這わせて俺の肌を粟立てた。
「ほらな相変わらず男に触られておっ勃ててる」
「っ、やめろよ、んなの触られれば誰だってなるだろ」
「違うんだよ誉。ノンケだったら生理的に受付ねぇんだよ。いくら秘密を握られてるからってこんな素直に反応するか?もっと心の奥から嫌悪するんだよ」
言いながら彼は俺の下着にも手を掛けて「しゃぶってやろうか」とかがみ込んだ。
その時だった。
突然ドンドンと部屋の扉が叩かれて、成田先輩は大きく舌打ちすると立ち上がった。
「誉!入るよ!」
「和倉!!」
返事を待たずに開けられたドアの向こうに、歩と、アキさん、そして青い顔をした川原が立っていた。
部屋に数歩入った川原は俺の無事を見てから怒りの籠った目で成田先輩を見据える。
「あんた何してんだ?和倉の昔の先輩なんだよな?」
「何だよおまえら。なぁ、誉、俺たちこれからヤるとこなのに、お前の知り合い?」
俺は咄嗟に勃ち上がった股間を隠そうとソファに足を乗せて身を縮める。川原に見られただろうか、、たとえ見られていなくても、先輩の言葉が全くのデタラメじゃ無い事は俺と先輩の雰囲気を見ればわかるだろう。
ただ何かを無理強いされたり乱暴されたわけじゃないこともひと目でわかる。そういう意味ではこのタイミングで川原が来てくれた事にホッとしていた。
まだ何もしていない。ギリギリセーフだ。
ただ、、
川原は厳しい目をして先輩を睨み付けていた。いつも優しく理性的な川原の、初めて見せる顔に緊張で鼓動が大きくなる。
「こっちは和倉と一緒に飲む約束してんだよ。勝手につれてくな」
「はあ?もしかしてあんたが誉の相手か?誉、おまえやっぱゲイなんじゃねーの?」
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とっさに否定して、もちろん後悔した。自分だけでなく、川原を裏切っているような気がしたからだ。
「へぇーえ。じゃあ俺に触られてちんこ勃ててんのは何なんだよ」
「、、、」
俺は川原の方を見ることが出来ない。
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成田先輩の言葉に代わりに答えたのは川原の冷めた笑い声だった。
「和倉はゲイじゃねぇよ。」
笑いながら言い放った川原に、成田先輩は眉をひそめた。
俺も川原の言葉に衝撃を受けた。
その怒ったような言い方にも、自分の恋人がそう言った事にも。
恋人の言葉で聞くとショックを受けるくせに、その言葉は俺が言わせているのだ。
川原は怒りを押し殺して、ただの男友達のフリをすることで俺の立場を守ろうとしていた。
「そんな女にモテるやつがわざわざ男にいくかよ。」
「ああ?お前知ってるか!?こいつ、高校の時にさんざん俺とやってんだよ!」
「、、、んなもんモテる男が女じゃ飽き足らずってやつだろ?エロいことしか考えてない歳だったら不思議じゃねんだよ」
一瞬だけ見た川原の視線は、俺の方へは少しも向けられてはいなかった。俺が見たことのない冷笑を浮かべて先輩だけを見ている。
けれど俺の心に川原に対する罪悪感があるせいで、彼の冷たい口調も視線もまるで自分に浴びせられている気がしてスッと血の気が引いて行く。
この人を失うかもしれないという恐怖がジワリと押し寄せた。
歩とアキさんはハラハラとした面持ちで、先輩と川原を交互に見ていた。
その二人は恋人同士であることを皆に公表しているし、俺と川原の関係も知っている。
気の強い歩は先輩に何か言いたそうではあるけど、それをアキさんが引き留めて川原に場を任せているようだ。
「あんた、昔和倉の事好きだったんだろ?もしかしてまだ忘れてないのか?もしそうなら諦めろよ。和倉はもう男なんて構ってない」
「んだよ、おまえ。何わかったふうなこと言ってんだ!?」
「俺は、、昔のあんたと同じで、俺もこいつ好きなんだよ。だからわかってる。残念だけど和倉は男を相手にしない。和倉はゲイじゃない。」
「っは、なんだよ!?あんたがゲイなのか?なるほどね。誉に突っ込みたいのに相手にしてもらえないんだな?御愁傷様」
「放っといてほしいね」
少しの間成田先輩と川原は睨み合っていた。
やがて先輩は「バカらし。昔話でからかっただけだっつーの」と、呆れたように吐き捨てるとそのまま部屋を出て行った。
歩とアキさんがホッと息をついて、川原の肩をポンポンと叩くと、部屋に川原だけを残して2人は静かに出て行った。
「和倉、大丈夫?」
川原はほんの少し俺に近づくと、青ざめる俺に優しく声をかけてくる。
ああ、最悪だ、、
俺は、、何をしているんだ、、
なぜ川原にあんな嘘をつかせてしまったのか、、川原は大切な人なのに、、川原は自分の信念を曲げたり自分が傷付くことを厭わず俺を庇うのに、、
彼の願いは正直に生きることなのに、いつも俺の為に嘘をつく。
これじゃああんまりだ、、
「川原、、」
「大丈夫だ、和倉。何も大したことは起きて無いから。少し落ち着いたら一緒に帰ろう。」
そう言いながらしゃがみ込んだ川原は、安心したように俺を見て少し笑った。
ただ、膝に置かれた両の手が微かに震えていて、それに気が付いた川原は自分の手をぐっと握る。
「川原ごめ、、」
「あぁあ、がらにもなく強気な態度とったら緊張した。和倉、俺間に合った??ごめん勝手な嘘もついた」
いつもの顔で、髪の毛をくしゃりと握り微笑む川原の瞳はどこか悲しそうだった。
その顔を見て、俺は立ち上がった。
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「川原、嫌な思いさせてごめん。来てくれてありがとう。、、なぁ、川原、俺ようやく分かったよ。」
「なに、和倉、、?」
「俺間違えてた。俺もう一回先輩と話しても良いか?、、ちゃんと向き合わなきゃならない気がするんだ。ここで、俺が戻るの待っててくれるか?」
川原の目を真っ直ぐに見れば、川原も俺を見返す。
やがて彼は目を細めて笑うと「分かった。待ってる。行って話してきなよ。」と頷いた。
俺は部屋に川原を残すと、走って成田先輩を追った。
下のワインバーにはさすがに居なかったが、ビルの裏手にある喫煙スペースで、丁度タバコの火を消した所だった。
走って追って来た俺を、先輩はジロと横目で見ただけで歩き出す。
「待って!成田先輩。」
「なに」
「俺、嘘ついた。ごめん。」
「、、はぁ?だからってなんで追っかけて来てまで、、」
「ずっと、、ずっと、、先輩のせいにしてた。あんたはあの頃ちゃんと俺を想ってくれてたのに、俺は勝手に好奇心で足突っ込んで、、それで怖くなって逃げ出した。あんたの気持ちを無視して、、俺ずっと逆恨みしたりして自分のしたことから目そらしてた」
成田先輩はじっと俺を見ていた。さっきのように挑発してこずに黙っている。
この人に好きだと言われて、一度だけ抱かせてくれと言われて、軽薄な気持ちで応じた。そして何度も重ねた。それは自分の意思だった。
けれどそのうち自分自身が怖くなって、引き返せないところにいる気がして、自分が恐ろしくなってしまったのだ。
先輩がどういう気持ちでいたのかまでは俺は考えられなかった、、、。同意の元の状況だったとは言え、彼が傷ついていたのは間違いなく、彼のせいにすることも全くお門違いだったのに、、、
「俺は、、あんたが言う通り男が対象だよ。それは確かにあんたとの事があったせいだ。今まで死ぬほど悩んだり自分ごまかしてきたけど、、今はようやくそれなりに幸せにやれてる、、」
「、、さっきのヤツだろ?」
「、、なんで、、?」
「あいつの目、、ただの友達を心配してる目じゃなかったからな。殺されなくて良かったわ」
先輩は呆れたように鼻で笑う。
「誉、もう二度とお前には会わねーよ。本当に偶然名前聞いてからかってやろうと思っただけだ」
「成田先輩、探してくれて良かったよ。当時言えなかったけどさ、俺を想ってくれてありがと。不誠実な態度で無理矢理いなくなってごめん。」
「ははっ、お前何年前のこと今更いってんだよ。」
笑った成田先輩は、中学の部活で俺を可愛がってくれたあの人の面影を残す。高校の時に俺に想いを打ち明けてきたあの人の面影を残す。
「誉、じゃあな。まぁせいぜいアイツと頑張れ」
先輩は背を向けると歩き出した。
俺が不誠実に傷付けたこの人にも、苦しい思いが当然あったのだ。きっとこの人も俺のせいで何年も色んなおもいを抱えてきただろう。
俺はもう自分の苦しさだけを見るのはやめにしよう、、、
若かりし日の自分の責任や愚かさを噛み締めながら俺は成田先輩の背中が見えなくなるまで見送った。
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