正直なキミともういちど青春する臆病な僕。

ふじのはら

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#16 正直者の距離感

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「和倉、、?」
川原が心配そうに声をかけてきたけど、俺はベッドにうつ伏せに寝転がったまま顔を上げなかった。
「和倉、、無理しなくて良いよ。怒りたいなら怒って、泣きたいなら泣いて、俺を殴っても良いし、、」
「いや、、なんて言ったら良いかな、、」
どんな風に言葉にしたら良いのかよくわからなくて自問する。
「少し時間、ちょーだい、、」
「ん。でも独りにはさせてあげられない。どんな感情にしろ一緒に受け止めたい。」
川原はキッパリと言い切ると俺にふわりと布団をかけ、何も言わずに水を持って来てくれた。
急かすこともせず、何かさぐることもせず、ただ黙って隣に居た。

ふとその状況に妙な落ち着きを感じている自分に気が付いて、思わず俺はクスクス笑って川原を驚かせてしまった。
「な、に?笑ってる?どした?」
「いや、ごめ、、なんか、こういう静かな感じすげぇ懐かしくて」
そう言いながら俺はようやく川原の顔を見た。
「懐かしい?、、あぁ、そだね。」

隣に寝そべる川原に腕を伸ばした。何も言わずに川原も腕を伸ばし俺の背に回す。

「川原に聞いていい?」
「なに?」
「川原は自分をゲイだと思う?」
「、、、正直わかんないな。でも例えば自分でする時、、俺の頭の中で和倉がいろいろ大変、、」
「ふっは」
「今の対象は和倉だけ。っていうか、、まぁそれがゲイってことなら全然それで良いと思ってる。」
「絶妙に恥ずかしいし絶妙に嬉しいこと言うね」
「そう?恥ずかしいのは俺だけど」
川原は笑う。

「俺がなかなか超えられないものを、あっさり超えるんだな。」
それは恨み節なんかじゃなくて、呆れ混じりの尊敬だった。だから川原も肩をすくめて苦笑を見せた。
「病気で死にかけるのも、高校ダブった挙句退学するのも、移植手術受けるのも全部俺はマイノリティだからさ、今更それもって言われてもそんなに驚かない」
「、、そっか。」
「和倉には和倉の捉え方があるんだから無理することないと思うよ?」
「、、、」
「俺は、童貞捧げたの和倉だし、俺だけが見れる和倉が見れたし、はっきり言ってめちゃくちゃ気持ち良かったし」
「あっはは、だから絶妙に恥ずかしいから」
川原はモゾモゾと体勢を変え笑う俺の胸へ口づけした。
「川原、、?」
胸の尖端からピリと甘い痺れが走って俺は思わず眉を寄せる。
ちゅぷと、水音を立てて吸われる。
舌先で捏ねられて、軽く歯で挟まれる。
「ぁ、、ちょっと川原、、っんっ」

胸へ愛撫しながら川原は自分の太ももを俺の足の間に差し込んで、股間にわざと擦り付ける。
「な、そんなんされたらまた勃っちゃうんだけど、、」
言うまでもなく彼の太ももに擦られてすぐに芯を持ちはじめた。それでも川原はやめない。
「っっ、おーい、川原っ」
「っはぁ、和倉もう一回しよ」
「はははっ、やっぱ下半身思春期じゃん」
「だめ?やだ?和倉と繋がってたい」
言いながら太ももで擦り続けていた川原も、既にガチガチに勃っていて、2人のものは互いにズリ、と互いを擦っている。
川原の息遣いから興奮が伝わって来て、何だか可愛くさえ思えてきた。
「いーよ、川原。絶妙に、嬉しいし」

俺たちは覚えたての高校生のようにこの夜何度もセックスをした。
俺は飲み込みの早い川原に散々啼かされて、もう複雑な気持ちを抱く暇もなく眠りに落ちた。
それが川原の作戦だったのか、ただ心に任せてのことだったのかは分からない。


旅行から帰った数日後。

「あれ、ごめん。川原くん来てたんだ?」
夜9時過ぎに、仕事が休みだという隣人のあゆむがワイン片手に部屋にやって来た。
「アキさんは?忙しいの?」
「いや、今アキ待ってんだけどまだ1時間くらい来ないって言うから、その間ほまれと飲もうかと思っただけ」
「そうなんだ?良いよ飲も」
「え、川原くんは、、?」
「川原寝てる。気にしないで大丈夫。」

歩は慣れた動きでワイングラスを2個出して、ワインバーでは絶対やらないような量をダバダバと注いで片方を俺に渡した。
勝手にソファに座りながら隣の部屋のベッドで眠る川原をじろじろと無遠慮に見る。
「川原くん格好良いと可愛いが同居してんの面白いよね。誉より年上って絶対ウソ。」
「言ってる事には同意するけどジロジロ見んな」
そう言いながら俺は閉めたことの殆どない隣室のスライドドアを静かに閉めた。
「ぅわ、彼氏づら」
「彼氏なんだよ」
歩がニヤニヤ笑って伺うようにこちらを見る。
「なんだよ」
「川原くん何で寝てんの?まだ9時半だよ」
「あー、なんか昨日の夜から、同居してるお兄さんの友だちが家に来てて殆ど寝てないんだと。少し酒入ったら寝ちゃった」
「ふぅん。、、んで、誉、川原くんとセックスしたでしょ」
「ーは!?なに」
「なんか誉雰囲気変わった。前みたいに冷めてる感じしない。俺の目は誤魔化せないよ?」
ゆるいパーマの金髪をハーフアップにして、ルームウェアに身を包む歩は、ガールズトークでも始めたみたいにワクワクした顔で俺の話を待った。
「ぅわ、その顔やめろよ。、、あー、、うん、、まぁ、そういうことになった」
歩には散々もう男とはしないと言い続けて来ただけに、なんともバツが悪い。
「んで、どうだった??気分的に。好きな人とは初めてだったんでしょ?」
「、、思ったほど気分落ちなかった、、川原が優しいから、、」
「へぇええ川原くん優しいんだ」
「あ!?バカ、違う!そういう意味じゃねーよ!!」
ニヤニヤ笑う歩の前で慌てて訂正する。
「じゃなくて、俺の気分をそのまま受け入れてくれるし、落ちすぎないようにさりげなく気遣ってくれんだよ。そういう意味でのな。」

顔が熱い。
ハッキリ言って川原は最中も優しかった。その優しい川原が興奮と快感に負けて、徐々に理性を手放して行くことに強烈な魅力を感じた。
とは言えこっちもそれを冷静に楽しむ余裕なんて無いわけで、、

「んで?好きな人としたら、良かった?幸せ感じた?」
テーブルに頬杖をついて首を傾げる歩が少し声のトーンを落として聞いた。
「それ何て答えたら良いんだよ。」
「素直に答えれば良いじゃん」

、か、、。
長年表面上を取り繕って来た俺の一番不得意分野なんだよ、、

「、、歩が前言ってた通り、好きな人とは全然違った」
「うん。」
「求められることも嬉しいと思えるし、幸せも感じる」
「うんうん。」
「、、けどさ、長年こじらせて来たものはそんなアッサリ解決しなくて、ふとした時に変な罪悪感とか、不安感に襲われる、、」
「うーん、、うん、そっか。仕方がないかぁ。でも川原くんって、そのトラウマの時代から誉のこと知ってて、その状態を受け入れてくれてるんでしょ?」
「そういうこと。優しすぎて時々心配になる、、」
「わ、ノロケ!?あの誉が恋人のことで惚気るなんてねー」
「ちっげーよ!」
歩は俺に睨まれてケラケラと笑った。

可愛い顔に態度のデカさ、恋人がいるのに誰とでも寝る軽薄さ、、決して誰かに紹介する時とは言ってやれないけど、結局この手の話を出来るのはコイツしか居ない。
それに面白半分の、もう半分はちゃんと俺を心配してくれてるということを知っている。

暫くワインを飲んでると、隣の部屋から物音がしてスライドドアがスっと開いた。

「やっほー、川原くん。お邪魔してまーす」
「あ、歩くん!ビックリ、2人で飲んでたんだ?ー、、ごめん和倉。俺寝ちゃったんだな、、」
川原は来客に驚いて、そそくさと手で寝癖を整えながらバツが悪そうに言った。
「いや、逆にうるさくしてごめん。アキさんくるまで一緒に飲んでたんだ。川原も飲む?」
「んー。また寝ちゃいそうだから少しだけ。」
キッチンに2人で並んでグラスにワインを注ぐ。些細なやり取りで笑い合う。
頬杖をついた歩がそんな俺たちを眺めているのが気恥ずかしいのに、それでも俺と川原の距離感は以前よりずっと近くなっていて、それが今は当たり前の俺たちの距離だった。

「あ、誉と川原くんさ、クリスマスって予定ある?うちの店でクリスマスパーティやるんだけど来ない?」
「クリスマスパーティ?って何すんの?」
「フードとワイン食べ飲み放題。25日の21時からだよ。もし予定なかったらおいでよ。いつもの常連と、アキもくるし、当日飛び込みのお客さんもくるからけっこう賑やかだと思う!」
川原は例の如く「クリスマスパーティなんてしたことない!」と目を輝かせた。
本当は川原にワインをたくさんは飲ませたくなかったけれど仕方がない、、。俺が側にいて飲みすぎないように見ていよう、、。
「じゃあ、行こうか」
「行く!楽しみ!」
「ほんと!?良かった!」

そう話がまとまった時に、タイミングよく部屋のチャイムが鳴った。
「あ、アキさんじゃない?こっちに居るって言ってあるんでしょ?一緒に飲む?」
「ううん。戻る。アキと映画見る約束してんだ」
そう言って立ち上がると、歩は「今行くー」と、我が家のように玄関に向かって声をかけると俺たちに手を振って去って行った。

「なんだかんだ歩くんとアキさんて仲良いよね。付き合って何年もたつって言ってたけどよく会ってるし。」
「アキさんがだいぶ大人で寛大だからなんとかなってんだな。つーか川原、さっきの話、本当にパーティ行く?」
「行きたい!初パーティ!」
「了解。じゃあさ、24日は2人で過ごそ?どっか出掛けても良いし、家でのんびりしても良いし」
「うん、そうしよ!クリスマスかぁ。なんか今年は特別楽しみだな」
そう言って、川原は嬉しそうに笑った。

その時の嬉しそうだった川原を思い出すと今でも胸が痛む。
、、、そんな記憶に残るクリスマスになるなんてこの時の俺と川原は想像もしていなかった。
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