正直なキミともういちど青春する臆病な僕。

ふじのはら

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#14 修学旅行生※

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鳥居の前で佇む川原の横を、制服を着た高校生達が笑い声と共に駆け抜けて行った。
なかなかそこから進まない川原に追い付いて、彼の背中をポンと叩く。
「行こう川原」

4年前高校の同級生たちとくぐった朱色の鳥居を、今度は川原と2人でくぐる。

「この季節でも修学旅行来るとこあんだな」
「、、だね。」
「ごめんな、こんなに高校生で賑わってると思わなくて、、だけどどうしてもお礼参りってやつ?一緒にしたかったんだ」
「何で謝んの。一緒に来られて嬉しいよ。俺にくれた御守り、ここで買ってくれたんでしょ?」
「そぅ。生まれて初めて御守りなんて買った」
「和倉はさ、自分のこともちゃんと願った?」

海外からの観光客用に書かれた参拝の仕方を見ながら俺たちは賽銭を入れ礼をし柏手を打つ。
俺は4年前の修学旅行で川原の病気が良くなることを願った。そうして土産として渡した御守りを、川原は心の支えにしていたし今でも大切に持っている。
だから別に神様なんて信じてもなかった俺なのに、川原とここへ来たかった。

「自分の事は何も浮かばなかったんだよなぁ。ただ川原に万が一の事があったら、、たぶん俺も駄目になる気がしてた。一蓮托生いちれんたくしょうって、どうしてか思ってた気がする」
「一蓮托生、、か。はは、俺もそう思ってたかもな」

境内を歩きながらいつもより少し静かなトーンで話す川原が、高校生たちを目で追っている事には気が付いていた。
あちこちでグループになっている彼らが楽しげに話す姿に、当時の俺を重ねて見ているのか、それとも自分には無かった光景を眩しく思っているのかはわからない。

「北海道はもうすぐ雪降るのに、こっちは暖かいね。あ、川原ちょっとそこで待ってて。コーヒー買ってくる。暖かいし、そこ座って飲もう」
「あ、うん、おっけ。待ってんね。」

コーヒーを2つ持って川原の元へ戻る時、彼がぼんやりと見つめている視線を辿った。
そこには賑やかな友達の輪から外れて1人神前に立つ男子生徒がいた。
手を合わせて何かを願う。頭を上げると同時に友人たちに名を呼ばれ、彼はその輪の中に戻って行った。その集団はおみくじを引いたり御守りを買ったりして少しの間賑やかにしていたがやがて境内の横の小径から奥の方へと歩きだした。

「はい、コーヒー。何見てたの?」
「さんきゅ。今和倉みたいな高校生がいてさ、和倉もあんな感じだったのかなって思わず目で追った」
少し照れながらそう言う。
「高校の頃の俺たちに戻ってみたい?」
「高校生の和倉に、俺は今のままで会いたいかも。」
「お、おぉ何かエロい予感」
「あはは、エロいって何が?あー、でも今の俺から見たら17歳の和倉かわいいだろうね。和倉は?高校の時に戻りたい?」
「うーん、、?確かに昔の川原ともう一回話してみたいけど、俺は今のままで高校の頃の自分に会いたいかな」
「自分?なんで?」
「高校の時の自分にもし会えたらさ、“おまえが好きになって付き合うヤツ、川原だから大丈夫だ”って教えてやりたいわ、、そうしたらあの頃の俺少し生きやすかったかも」
高校生の後ろ姿を眺めながら俺が言うと、川原は少し驚いたような顔で俺を見た。そうして自分も口を開く。
「じゃあ俺は、、、あの頃の自分に“移植して普通の生活送れるようになったら和倉と一緒にすげぇ楽しいこといっぱい出来るぞ”って教えたい」
「、、楽しい事、出来てるか?」
「出来てるよ。花火見たり夜中に飲みに行ったり、家を行き来したり、和倉の友だちと友だちになったり、こうやって旅行までできてる。それに恋愛も。たまに自分で“俺重いわー”って引くけど、ぶっちゃけ和倉に出会ってなかったら俺とっくに死んでたと思うわ」
川原は言葉とは裏腹にヘラっと笑っている。
「重いのは俺も一緒なんだよな川原。俺飛び降りてんだよ?川原に助けられなかったら死んでたかも、、。助かっても、支えが無かったら何度もやった気がする、、。ー、、ほら何これ、すっげぇ重い。」
俺が大袈裟な表情で言えば、彼は声をたてて笑う。

茶色がかった髪の毛に夕陽がさしてキラリと光った。今まで陽にあたらなかった白い肌も、一重のまぶたにあるほくろも、何だか手を伸ばして全て自分のものにしてしまいたい衝動にかられた。
「川原、、」
「んー?」
「キスしたい」
「は、、!?や、ここ外。つーか、高校生いっぱいいるし。」
笑って首を横に振る。
「わかってて言った。早くホテル行きたい、、」
「もう、行く?」
「、、晩飯喰って、一緒に部屋の露天風呂はいろうぜ」
「そうだね。」

彼は立ち上がって大きく伸びをする。脇腹が見えてドキリとした。
川原は冗談だと思っただろうけど、キスしたいのは事実で、、と言うより川原に触れたいのだ。触れ合いたいのだ。
異性の恋人なら、手を繋いで触れ合う距離で座って、なんなら一瞬の隙をついてキスだって出来るのに、同性だからそうもいかない。
俺たちはふたりきりで居る時以外は“友だち”を演じて過ごす。

あぁ、そうか。
だから2人でいる時はすぐに触れたくなるのか、、、恋人だという確証が欲しくなるんだ、、自分だけが見ることの出来る姿を見たくなる。

少し前を歩く川原の後ろ姿を見る。
露天風呂が楽しみだと言いながら笑顔で俺を振り返るのに、俺は適当に相槌をうった。
「川原、コンビニ寄って良い?」
「良いよー。俺電車の時間調べておく」


温泉宿についたのはちょうど夕食どきで、俺たちはそのままレストランで食事をしてから部屋へ上がった。
川原は例の如く「俺温泉に泊まるの小学校以来だ」と言って喜んでいる。
ベッドルームと続いてリビングのようなソファの並ぶ部屋。ベランダの方にドアがあり、そこを開けるとシャワーブースがあって通り抜ければ客室露天風呂だ。
部屋の中からはシャワーブースも露天風呂も見えない構造になっている。
「川原すぐ露天風呂入る?」
「あ、ごめん、生徒から電話来てたから先に折り返しちゃう。わかんないところ聞きたいみたいだから少し時間かかるかも」
川原がスマホとノートを取り出して申し訳なさそうな顔をするから、俺は気を使わせないように先にシャワーを浴びる事にした。

シャワーを念入りに浴び、小さな露天風呂の縁に腰掛ける。遠くに夜景が見えた。ここからは見えないけれど建物のすぐ横を流れる川の水音がサラサラと耳に心地良かった。
ぼんやりと所々に灯る光が幻想的で現実感が遠のいて行くようだった。
少しするとパタンとシャワーブースの扉の音がして、やがてシャワーの音が聞こえてきた。川原が電話を終えて入ってきたのだろう。
俺は少し冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出す。

「ごめん待たせて、、って、うわっ夜景!」
腰にタオルを巻いただけの川原が立ち止まって外に見惚れる。
高校の頃も再会した時も折れそうなほど細かった身体は、ここ数ヶ月で心配なほどでは無くなった。細いながらも少し筋肉もついて、もともと骨格が太くないからスラっとしなやかだ。
まぁ、あれだけ日常的に俺の揚げるポテトを食べてりゃそうなるか、と思わず笑いそうになる。
いつか勝手にシャツを開けて見た胸に、大きな手術痕。きっと手術の直後は痛々しかったんだろう。まだうっすら赤みがかったその跡は月日と共に赤みが取れていくらしい。

夜景に見惚れていた川原は、我に返ったのか視線を感じたのか俺を振り返った。
「あ、ごめん。目のやり場に困るよな」
そう言って胸に手のひらをあてた。
「ばーか。目のやり場に困るとしたら、お前が初めて全裸なことだよ」
「そ?」
笑いながら平然と腰のタオルをとりお湯の中に入る。
川原は男くさくはないけど、女々しさも全くない。変なところで照れて赤くなったりするけど、こういうところには恥じらいなんてものは持ち合わせてはいないようだ。

縁に腰掛けていた俺も湯に入る。
「んーーー、気持ちいい。和倉と2人だし夜景も星も見えるし、こんな幸せで良いのかなー」
「だな。ほんと幸せ。」
俺たちは夜景と星を見ながら、いつものようにどうでも良い話に笑って、暑くなれば縁に腰掛けて冷たい風にあたり寒くなればまた湯に浸かった。
途中俺が酒を取りに行き、俺たちは随分長い時間露天風呂にいた。

「川原今日大丈夫だった?、、なんか高校生いっぱいいたから、しんどかった?」
「、、え、いや、そんな風に見えた?そんなことなくて行けてすごい良かったと思ってるよ?」
「なら良かった」
「俺たちの高校の頃思い出して、なんかちょっとグッときたけど。それは和倉も同じだよね」
「まぁ、そだね、、。あ、思い出した」
「?なに?」
「キスしてよ」
俺は抱っこをせがむ子供のように、川原にむかって両腕を広げた。
川原も思い出したように「ああ!」と言うと、ためらわずに俺の腕の中に入り俺に腕を回す。
「和倉、好きだよ」
そう言うと俺の口を塞いだ。
すぐに熱い舌が差し込まれる。わずかに酒の味がした。
ちゅくちゅくと、湿った音の合間に苦しい呼吸を求める息遣いが混じる。
「っは、、俺も、好きだ川原」
酒に酔っているのか状況に酔っているのか、甘く痺れた頭で川原をみれば、川原の眼差しに雄を感じて下半身がズクっと反応し始めた。
「ん、、川原、手、、」
「和倉のここ、最近感じやすくなったね。」
そう言うと、もう一度俺の唇を割って舌を差し入れると、俺の舌を舐め上げる。
川原の指は、俺の胸の小さな尖りを弾き、すりすりと摩り、きゅっと摘んだ。
「んっ、、ぁ、、」
「色っぽいね和倉」
耳元で囁いて、指先で小さく主張している尖を捏ね、耳たぶに舌を這わせた。
「み、み、、やめ、」
「やば、和倉可愛い。チンコももう勃ってるし。シャワーの方行かない?椅子あるし」
「何すんの」
「一緒に出そう?」
「昨日もしたのに?」
「やだ?でも和倉勃ってるよ?」
お湯の中で川原の手が俺の中心を軽く握る。
ゆるゆると上下に擦りながら、自分の膝を俺の足の間に割り入れて、自分の硬いものを俺に押し付けた。
「俺もこんなだし。抜きたい。やっぱ和倉と一緒に風呂入ったらこうなるんだって」
川原が意識的なのか無意識なのか、俺の腹に自分のものを擦る。
「っ」
「なに、ひとりで感じてんの?」
俺が小さく笑うと、川原は少し俺を睨んで、今度は明らかに意識的に腰を揺らした。同時に俺のものを握る手に力を込めて擦る。
「っぅあ、、」
「ほら、和倉も感じてんじゃん」
堪らず声をもらした俺を覗き込んで、川原は蠱惑的こわくてきな笑みを浮かべた。
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