正直なキミともういちど青春する臆病な僕。

ふじのはら

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#7 ほんの少しの勇気

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あれから2週間、俺は静かな日々を過ごしている。
川原が東京から戻って来ているのかもわからないけど、2日とあけずに顔を見せていた彼はぱたりと店に来なくなって、まるで再会してからのことが嘘のようだった。

、、あーちくしょう、川原のヤツ。散々俺を動揺させといて、ちょっと強く言ったらアッサリ引き下がりやがった、、
自分で蒔いた種なのに、そんなふうにイライラを募らせては川原のせいにもしてみた。
その反面心のどこかではホッとしたりもして、、。

いま会ったところで元カノとの話を聞く勇気もない。
寄りを戻したとか寝たとか言われたら、今のメンタルだと思わず罵倒してしまいそうだ、、。
自分でとんでもなく拒否しておいて、川原がもし女の子と経験していたらもう俺にチャンスは無いんだろうな、、と矛盾した考えに、俺の気分は落ちに落ちた。

ある日の夜。
相変わらず安いワインをがぶ飲みしていると、来客をつげるチャイムが鳴った。
ほまれー、一緒に飲もう?」
同じく既に酔ってるらしいあゆむが酒を持ってやってきた。
歩ともケンカのようになった日以来だ。
「ぅわ、誉また酔ってんの?またヤケ酒?」
久しぶりに会う歩はいつも通りで、手に高価そうなワインを携えている。
 
「んで?何かあったの?川原くんと」
「、、あいつ、また俺に触ってきやがったから思いっきり拒否った、、ら、姿見せなくなった、、」
「ふぅん。川原くんに触られたら嫌なの?」
「、、嫌っつーか、それを望むのがちょっと、、」
「お互い望んでるなら良いんじゃないの?」
「あいつのは思春期特有の好奇心」
俺が言うと歩は何か言おうと口を開きかけて、そのまま言葉ではなくて大きなため息をついた。
「はぁーあ。こじらしてんねぇ。昔っから話には聞いてたけどさ、実際ここまでと思わなかったなぁ。」
勝手にグラスを出してワインをダバダバ注ぐと俺の前に置いて、自分の分も用意している。
「言ったんだよ、、アイツがあんまり簡単に俺を好きだとか言うから、、“俺に挿れれんのか”って。」
「そしたら何て?」
「いや答える前に帰した。」
「ふぅん。」

普段は歩の恋人の愚痴を聞くことはあっても、俺のこういう話はしたことが無かった。さんざん酔っていなければ絶対に話さないのに、この日は歩が聞き役に徹してくれて俺は苦しくなっている胸の内を少しだけ吐き出した。

「誉さぁ、、男が男を好きになるの、そんな嫌?気持ち悪い?」
「、、いや、、そういう問題じゃ無いんだよ。体の関係を受け入れられる自分自身に対する拒絶感みたいな、、」
「1人でする時は?男がおかずでしょ?」
「、、まあ。、、でもその後自分のこと嫌んなることある」
歩は厳しい視線を俺に向けていた。そりゃそうだろう、、自他ともに認めるゲイの歩相手に、それが受け入れられないと話しているんだから。

「誉って好きじゃない男と経験したのが最初って言ってたよね?なまじ快感だけ味わったから拗らしたんだろうね。相手が好きって気持ちも乗っかってれば素直に受け入れられたかも知れないのに。」
「確かに、、相手は俺を好きって言ってたけど、俺はちょっとした好奇心で流されて、、そこから女の子としてもその時ほど興奮できない自分に気づいてショックだった、、」
「あ、そっか。誉って女の子ともしてたんだっけ。モテモテで女の子を抱いていた自分と、男に抱かれてそっちの方にハマった自分とのギャップで精神的にまいったんだ?」

そうだ。まさに歩の言う通りの悩みが高校生の俺に降りかかったんだ。友だちの前ではそんな自分を隠す為に必死で人気者であろうと振る舞って、気持ちはどんどん疲弊していった。

その時の事を思い出すと、途端に川原に会いたくなった。あの頃あいつにだけ打ち明けていたし、あいつは俺を受け入れてくれた。いつも、俺の自然な姿を受け入れていた、、。

“和倉、もし誰にも言えないけど1人でかかえるにはしんどいって事あったら、俺が墓まで持って行ってやるよ”
病気で命を落とす危険と隣り合わせだったのに、川原はそんなふうに言って1人で抱え切れなかった重荷を背負ってくれた。

思い起こせば川原は最初からずっと本当の俺だけとしか関わっていないんじゃないか、、?学校の中であいつと関わった事が殆どないんだから、、
「そっか、、、川原にとってはこういう俺が本当の俺なんだ、、」
突然わかったように呟いた俺を歩は不思議そうに見ていた。


数日後。
店の閉店作業を終えて外に出ると、ガードレールに寄りかかるようにして川原が立っていた。
俺が厳しく突っぱねたあの日以来だ。

「、、、なんで外にいんの」
「、、入って良かった?」
「、、まあ。」
「そっか、良かった」
川原がへらっとおどけて笑う。
その笑顔に何となく気まずい空気が流されて「一緒に飲もう」という話になった。
「えーっと、、あ、どっか、店とか行く?」
「あのさ、和倉が良ければうち来ない?」
「川原んち?ー、、お兄さんと住んでるんだっけ?」
「そ。今日は兄貴と兄貴の彼女いて、簡単なつまみも出してくれる。2人じゃないから良いかと思って」
「、、じゃあ、うん。お邪魔する」
「マジ!?良かった」
嬉しそうに目を細めると、「じゃあ行こ」と俺の前を行く。

店の前の国道を渡って、斜め向かいにある総合病院の横にあるコンビニに寄ってから、裏の住宅街の中を歩く。
川原が鼻歌を歌いながら歩く少し後ろを俺は歩いていた。
「ねー川原」
「んー?」
「おまえって高校の時どんなだっけ」
「急だねぇ。そうだなぁ、、何もかも諦めてたかなー。ただ静かにしてるだけの、、植物みたいな感じ?」
「じゃあ俺は?どんなだった?」
「和倉?高校生を絵に描いたような生活してて羨ましかったなぁ。いつも友だちに囲まれて笑ってたから。でもすっげぇ無理してるの知ってたから心配だった」
川原は振り向いて少し微笑んだ。
「でも、今も和倉は変わってないかな」
「、、、」

聞いておいて返事をしない俺に川原は歩調を合わせて並ぶとそのまま無言で歩いた。
俺が沈黙を破る。
「、、いつ東京から戻って来たの?」
「10日くらい前」
「え、そんな前に戻ってたんだ?」
「、、、一番会いたい人がいるのはこっちだし」
「、、、にしては10日も経ってんじゃん」
「な。俺意外と勇気なかったんだって気づいたわ。」
笑う川原の言葉に少し勇気が湧いた。
「元カノと、どうだった?寄りとか戻さんの?」
「戻すわけないって。俺好きな人がいますので。」
「脱童貞のチャンスだったんじゃないの?」

一瞬川原は足を止める。
俺がそのまま歩くと、すぐ後にまた歩き出して俺の背中に向かって言う。

「好きな人が望まないなら一生童貞で良いや。」
「、、じゃあ、その人が百戦錬磨の男になってほしいって言ったらそうする?」
「もちろん。100人くらいひと月でどうにかしてくるわ」
川原の答えに俺は思わず吹き出した。
「それは重すぎ」
「俺の純情なめんな」
2人が久しぶりに笑い合っているうちに、川原の住むマンションについた。

「え、でか。なにこのマンション」
「兄貴アラサーの社会人だかんね。兄貴様様だわ。」
「お兄さん、何してる人?」
「歯科医。俺の入院やら手術やらって、想像を絶する金がかかっててさ、俺が高校生の時から兄貴が出来る限り助けてくれてたんだって。だから足向けて寝られん」
「ふぅん。」
川原は鍵を開けて「ただいま」と中へ入り、促されて俺も続いた。
部屋は男の2人ぐらしだけあって、必要最低限の物しかない素っ気ないものだったけど、出迎えてくれた川原のお兄さんはとっても和かな人だった。
「いらっしゃい。キミが和倉くんか。朋紀の兄です。こちらは彼女の愛海まなみ
「和倉誉です。はじめまして。今日はお邪魔いたします」
「会えて嬉しいよ。えーと、ほら朋紀が近くに昔の知り合いが住んでるって言ってて」
「あ、はい。高校の同級生だったんです。ちょうど国道を挟んだ反対側に住んでて、偶然再開して驚きました」

川原の兄さんとその彼女が何品かおつまみを用意してくれて、なんとなく4人で飲み始める。
お兄さんと彼女はもうすぐ結婚するそうで、このマンションを出るか、弟を追い出すか迷っていると笑って話し、美人の彼女が川原に申し訳なさそうにしていた。
お兄さんは俺に仕事のことや家族の事をそれとなく聞いてきて、気のせいかどことなく俺がどういう人間なのかを探っているふうだ。

、、気のせいか?すごく和やかな人なのに、どことなく俺警戒されてる気がする、、。
弟思いなだけかも知れない。
川原の酒が進むと、彼は度数の低い酒を飲むよう言ったり、体調を確認したりしては弟に鬱陶しがられていた。
歳の離れた兄貴に川原はとても大切にされているのがこの数時間でよく分かった。

「帰り寒いから何か上着かす。俺の部屋こっち」
帰り際に案内されて川原の部屋に初めてはいる。
「昔川原が学校休んでる時に行った事あったよね。なんかアレ思い出す。」
「あー、あったね。ほら、クローゼットから適当に選んで良いよ」
促されてクローゼットの中を覗き込む。
綺麗に整頓されていて、清潔な洗濯の香りがする。
「川原のならどれでも着れそう。これは?来て良い?」
「良いよ。和倉、、また店に行っても良い?」
「、、良いよ」
ハンガーからパーカーをとり外している俺の背中に川原の体温を感じた。
後ろから抱きしめられているのだ。
「おい?」
「お願い。少しだけ。」
耳元で呟く川原にドキドキしてしまう。
「こないだごめん。和倉にもう会えないかと思った」
「、、うん。俺もキツい言い方して悪かった」
「これ以上のことしないから、、でも気持ちは否定しないで欲しい」
その泣いているみたいな声音に胸がぎゅっと締め付けられる。
「、、わかった。」
川原の温かい体温が、俺への気持ちを伝えているようで俺はひどく切なかった。
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