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#6 ケンカ
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川原が突然東京に行くと言ったのは秋も近づいた頃だ。
いつものように家庭教師のバイトを終えて夕方店にやってきたあいつは、いつも座るテーブルに陣取って、ポテトをのんびり食べていた。
花火の日の諸々の出来事は2人の間の話題に上ることは無かった。単なる酔っ払いの戯れだったと、川原は無かった事にしたのかも知れない。だから俺たちの関係性も特に変わることなく普通に友だちとして会っている。
ただ俺の記憶に生々しく残ったのは言うまでもなく、、どうしたって川原を意識してしまうし、あいつとしたことを思い出せば体に甘い疼きを感じて自分を慰める日々だった。
「もしもし、夕葉?久しぶり!うん、、えっ!?ホント!?」
川原が電話で話しだした相手はどうやら女の子のようだ。店内に客がいなく、聞こうと思わなくても嬉しそうな川原の声が聞こえてくる。
「え!来週!?そっか!うん、会いたい。そっち行こうかな?うん、うん、本当?泊めてくれるの?」
、、は?泊まる?女の子の家に?っつーか、川原どこに行くんだ?
ひとしきり相手の所へ行く相談をしてから電話を切ると俺を振りかえって、
「和倉、俺来週から東京行ってくるわ!」
そう嬉しそうに言った。
「東京?って、川原住んでた所?」
「そうそう。入院中にすげー仲良くしてた友達がさ、退院するんだって!」
「え、あー、そうなんだ?、、いつ戻ってくんの?」
「まだ決めてないけど1週間くらい居ようかな。」
「ふぅん。、、向こうにそんな仲良い友だちいたんだな。」
川原は俺の方を見ずに楽しそうにスマホを操作している。誰かとメッセージをやりとりしているらしい。
「入院中にさぁ、夜中抜け出して会ったりしたんだよね。んで夕葉に電話したり、、あ、夕葉ってのはその時の俺の彼女でさ」
、、は!?
「え、彼女?あれ?川原こないだ童貞って、、」
「おいっ!昼間っからでかい声で言うなよ!!」
狭い店内には俺と川原しかいないから誰かに聞かれることは無いけれど、赤い顔をした川原に遮ぎられて俺は笑いながら謝った。
「いや、ごめん。高校の時全然彼女作る気ないみたいに言ってたし、、いや、何年経ってるんだって話だよな、、悪い、なんか川原に彼女いたことにびびった」
「彼女って言っても、、俺入院してたから、その、、院内でしか会ってないし、、最後まではなくて、、」
どんどん声が小さくなっていく。
「ああ!だから童貞?」
「おいぃっ!言うなって!!」
「ぅははは、ごめんって」
「あれ、、その元カノに会うんだろ、、?それってワンチャンあるんじゃないの?」
「ん?、、あーそっか、、。うん、あったりして」
「っ!」
咄嗟に何か言おうと口を開いた。でも言葉は何も出てこなかった。
そんな俺を川原はじっと見て「もしかして和倉寂しい?」と真顔で言う。
「何でだよ。たかだか1週間で、、ー」
「違う違う。俺が女の子としちゃったら」
「え、、?」
じっとこちらを見ている川原の視線から俺も目が離せない。
「なに、、どう言う意味、、?」
俺の問いに一瞬だけ川原はムッとした顔をして、すっと席を立った。
「ま、良いや。帰るね。東京行く前に一回会いに来る」
「お、おう。」
そのまま川原は出て行って、俺はポツンと取り残された。
川原が「女の子とシたら寂しい?」と聞いてきたことも、東京で彼女がいたことも、もしかするとその子と最後までするかも知れないことも、俺の心の中にどろりと固まって沈んでいった。
川原が、、女の子を抱く?
酔っ払って俺を好きだと言って、俺と恋愛をしたいと言った川原が、、?
その日の夜、俺は屋上の椅子に座ってぼんやり夜空を眺めていた。
「あれ?誉じゃん。」
「歩、今日休みなの?」
「そ。なんかここで偶然会うの久々ー、、って、ワイン飲んでんだ?」
「もう無いけどなー」
「一本あけたの?誉にしては珍しいね」
横にどかっと座る歩の顔を見る。
色白の整った顔にゆるいパーマのかかった金髪。今起きたようなボサボサの格好なのに、顔が良いせいかどこかお洒落に見えるから不思議だ。しかもなんだか良い香りがする。
「なに?見つめてくんじゃん。ヤリたいの?」
「バカかよ。死ねよ。」
「ぅっっわ、機嫌わる、、なんだよ、、あ、川原朋紀くん、元気?」
「、、、」
「え、川原くん絡みで不機嫌なんだ?」
「、、っるさ、、」
「あれ以来来てないの?あの花火見に来た日」
「、、あの日うちに泊まったよ。ー、、歩のせいで地獄だった」
俺の言葉にキョトンとする歩に事の顛末をざっくりと話してやった。
「へぇ~川原くんやるねえ。やっぱり和倉の事おとしにきてるでしょ。」
「実際好きって言われた、、けど酔ってる時だったから覚えてないっぽい。抜きあったのだって人の気も知らないで何も無かったみたいに平然としてる」
「ふぅん。んで今頃不機嫌なのは何なの?」
歩は俺が手に持っていたワイングラスを取り上げて、ほんの少し残っていたワインを飲み干した。
「もうすぐ元カノのいる東京に行くんだと。初めてやっちゃうかもーとかって。」
言ってるそばからイラついてきた。
「別に良いじゃん」
「こないだ男の俺を好きとか言ったくせに、女とヤるんだぞ?」
「バイなんじゃないの?別に好きじゃなくても出来るんだから、、」
、、ますます川原のイメージとかけ離れて、俺は更にイラついた。
そんな俺を不思議そうに歩は見て、「え?誉って、、川原くんが好きなの?」
そう言った。
「は、、?なんでそうなる?俺はただ、、」
、、ただ何だ?何でイラつく?こんなふうな酒の飲み方をしたのは何が原因だ?
「だってそれ、ようするにヤキモチだよね?」
「ちがっ!、、ただ、さんざん振り回されたから自由すぎるあいつにムカついてんだよ!人の気も知らないで、、」
「誉?正直に言ってみな。ー、川原くんに、、抱かれたいって思ってない?」
その言葉に、俺は歩の胸ぐらに掴みかかった。
「おまえいい加減にっ、、」
歩は俺に掴まれたまま、両手を顔の横に広げて無抵抗だと意思表示しながら瞳をギュッと瞑っていた。
その顔を見て乱暴に歩を突き放す。
「悪い、戻るわ」
そう言い捨てて、俺は自分の部屋へ戻った。
歩に出会ったのは3年前、あいつの働くワインバーに俺が偶然飲みに通っていたのが始まりだった。
ある日バーで知り合った男の客と話ながら飲んでるうちに俺は酔い潰れて、その男に露地裏に連れ込まれた。そいつに襲われて抵抗して揉めに揉めているところを歩が警察を呼んで助けてくれたのだ。
歩は自分がゲイだといって、確か酔い潰れてる俺に「寂しいならオレとやる?」と聞いてきた。
そんな歩を、、俺は殴ったのだ。
そこから何だかんだで仲良くなった。歩は相手に不自由なくいろいろな男と寝るようなタイプだった。
だけど本気で俺とやろうとはしなかった。今では家族みたいなもんで、お互いにそういう目で見ることもない。
高校の頃の話も、俺の経験も、女の子では満足出来ないことも歩には話した。
そして、俺は2度と男とやらないということも、、。
川原から連絡が来て金曜日から東京へ行くと知らせてきた。
俺はもともと家で酒を飲むほうだけど、川原のせいで毎日酔うまで飲むことが増えた気がする。
その水曜日の夜も俺は酔っていた。
10時を回った頃、突然家に川原が訪ねて来た。
「入って良い?」
「、、どーぞ」
突然来た川原をリビングへ通して、テーブルの上の酎ハイの缶を片付ける。ワインのボトルにまだ半分入っているが、川原にワインを飲ませるのは躊躇われてそのままキッチンに片付けてしまった。
「どしたん?急に、、店に来りゃ良いのに」
「うーん、和倉と2人で会いたくて。」
「またそんな事言う、、」
俺はどさりとソファに寝そべる。
「和倉がそんな酔ってんの初めて見たかも。平気?」
「何しにきたの?」
「、、こないだ和倉の様子変だったから、、」
「別に変じゃない」
「変だった」
意外と頑固な川原がソファの横に腕を組んで立っている。
「川原、花火の日の、、花火見ながら言ったの、何だったの、、?」
「和倉のこと好きだって言ったんだよ」
即答されてかなり驚いた。
、、覚えていたんだ、、。
「キスは?何だったの」
「、、好きだってウソじゃないって言いたくて、、」
「、、なんかおまえ、分かってない、、」
俺は寝そべったまま、腕を顔の上に置いていて川原を見ずに続けた。
「何が?和倉こないだもそういうふうに言ってたけど、そんなんじゃ分かりようもないよ」
「川原が、万が一俺を好きだとして、、」
「だから好きだってば」
「俺、男と付き合う気はない、、」
「、、男が対象って言ってなかった?対象だけど誰かにしぼって付き合う気はないってこと?」
「、、違う。男と関係持ちたくない。だから川原とはこないだのでギリアウト。」
「なんだよそれ」
川原が明らかにイラついたのがわかった。
「和倉、なんでそんな頑ななの?俺はさ、相手が誰であっても自分に嘘つきたく無いんだよ。せっかく命を貰ったんだ。正直に生きたい」
そう言いながら川原は俺の横にしゃがんで、俺の腕をそっとつかんだ。
顔を隠していた腕が避けられて、川原の寂しそうな瞳が見えた。
川原はそのまま俺にキスをした。
ゆっくりと俺の唇を割り、歯列を割って、口の中に彼の温かい舌が侵入した。
「んん、、」
川原の濡れて温かい舌が、俺の舌をそっとなぞって軽く吸い上げて、くちゅ、と卑猥な音をたてる。
酔った頭に川原から求められるキスはそのまま俺の中心に熱を集め始めて、寝た体勢で腕を押さえられてる俺はそれを誤魔化すことが出来なかった。
「和倉、、もしかして、、?」
「やめろっ!触んな!」
川原が俺の中心のモノに伸ばした手を、俺は咄嗟に振り払った。
「川原、勘弁してよ。、、おまえ本当に分かってないって!、、おまえさ、男同士ってどうやるか知ってるか?おまえ俺に、、俺のケツに自分のモノ挿れられんのかよ、、?そんなことされてよがる俺を見て欲情出来んのかよ!?それともそういうの無しで好きとか言ってんのかよ!?」
酔っているせいだ、、。
何故か涙が出てくる。
自分の一番嫌いな部分を言葉にするだけで泣けてくるのに、こいつの前でさらけ出せるわけがない、、。
「和倉、何で泣くの、、」
「帰れよ。」
「和倉」
「帰れよ。もうここに来るな。お前は東京で女でも抱けよ!」
「っっ、、」
川原は何も言わなかった。俺が川原の言葉や存在を拒んだからだ。
少しの間立ち尽くした川原はやがて静かに部屋を出て行った。
川原のキスに反応するこの体を、この世から消してしまいたいと久しぶりに思ってしまう。
いままでそんなふうに思った時、俺を助けてくれたのは川原の存在だった。なのに、、今は川原の存在が俺に現実を突きつけてくるのだった。
いつものように家庭教師のバイトを終えて夕方店にやってきたあいつは、いつも座るテーブルに陣取って、ポテトをのんびり食べていた。
花火の日の諸々の出来事は2人の間の話題に上ることは無かった。単なる酔っ払いの戯れだったと、川原は無かった事にしたのかも知れない。だから俺たちの関係性も特に変わることなく普通に友だちとして会っている。
ただ俺の記憶に生々しく残ったのは言うまでもなく、、どうしたって川原を意識してしまうし、あいつとしたことを思い出せば体に甘い疼きを感じて自分を慰める日々だった。
「もしもし、夕葉?久しぶり!うん、、えっ!?ホント!?」
川原が電話で話しだした相手はどうやら女の子のようだ。店内に客がいなく、聞こうと思わなくても嬉しそうな川原の声が聞こえてくる。
「え!来週!?そっか!うん、会いたい。そっち行こうかな?うん、うん、本当?泊めてくれるの?」
、、は?泊まる?女の子の家に?っつーか、川原どこに行くんだ?
ひとしきり相手の所へ行く相談をしてから電話を切ると俺を振りかえって、
「和倉、俺来週から東京行ってくるわ!」
そう嬉しそうに言った。
「東京?って、川原住んでた所?」
「そうそう。入院中にすげー仲良くしてた友達がさ、退院するんだって!」
「え、あー、そうなんだ?、、いつ戻ってくんの?」
「まだ決めてないけど1週間くらい居ようかな。」
「ふぅん。、、向こうにそんな仲良い友だちいたんだな。」
川原は俺の方を見ずに楽しそうにスマホを操作している。誰かとメッセージをやりとりしているらしい。
「入院中にさぁ、夜中抜け出して会ったりしたんだよね。んで夕葉に電話したり、、あ、夕葉ってのはその時の俺の彼女でさ」
、、は!?
「え、彼女?あれ?川原こないだ童貞って、、」
「おいっ!昼間っからでかい声で言うなよ!!」
狭い店内には俺と川原しかいないから誰かに聞かれることは無いけれど、赤い顔をした川原に遮ぎられて俺は笑いながら謝った。
「いや、ごめん。高校の時全然彼女作る気ないみたいに言ってたし、、いや、何年経ってるんだって話だよな、、悪い、なんか川原に彼女いたことにびびった」
「彼女って言っても、、俺入院してたから、その、、院内でしか会ってないし、、最後まではなくて、、」
どんどん声が小さくなっていく。
「ああ!だから童貞?」
「おいぃっ!言うなって!!」
「ぅははは、ごめんって」
「あれ、、その元カノに会うんだろ、、?それってワンチャンあるんじゃないの?」
「ん?、、あーそっか、、。うん、あったりして」
「っ!」
咄嗟に何か言おうと口を開いた。でも言葉は何も出てこなかった。
そんな俺を川原はじっと見て「もしかして和倉寂しい?」と真顔で言う。
「何でだよ。たかだか1週間で、、ー」
「違う違う。俺が女の子としちゃったら」
「え、、?」
じっとこちらを見ている川原の視線から俺も目が離せない。
「なに、、どう言う意味、、?」
俺の問いに一瞬だけ川原はムッとした顔をして、すっと席を立った。
「ま、良いや。帰るね。東京行く前に一回会いに来る」
「お、おう。」
そのまま川原は出て行って、俺はポツンと取り残された。
川原が「女の子とシたら寂しい?」と聞いてきたことも、東京で彼女がいたことも、もしかするとその子と最後までするかも知れないことも、俺の心の中にどろりと固まって沈んでいった。
川原が、、女の子を抱く?
酔っ払って俺を好きだと言って、俺と恋愛をしたいと言った川原が、、?
その日の夜、俺は屋上の椅子に座ってぼんやり夜空を眺めていた。
「あれ?誉じゃん。」
「歩、今日休みなの?」
「そ。なんかここで偶然会うの久々ー、、って、ワイン飲んでんだ?」
「もう無いけどなー」
「一本あけたの?誉にしては珍しいね」
横にどかっと座る歩の顔を見る。
色白の整った顔にゆるいパーマのかかった金髪。今起きたようなボサボサの格好なのに、顔が良いせいかどこかお洒落に見えるから不思議だ。しかもなんだか良い香りがする。
「なに?見つめてくんじゃん。ヤリたいの?」
「バカかよ。死ねよ。」
「ぅっっわ、機嫌わる、、なんだよ、、あ、川原朋紀くん、元気?」
「、、、」
「え、川原くん絡みで不機嫌なんだ?」
「、、っるさ、、」
「あれ以来来てないの?あの花火見に来た日」
「、、あの日うちに泊まったよ。ー、、歩のせいで地獄だった」
俺の言葉にキョトンとする歩に事の顛末をざっくりと話してやった。
「へぇ~川原くんやるねえ。やっぱり和倉の事おとしにきてるでしょ。」
「実際好きって言われた、、けど酔ってる時だったから覚えてないっぽい。抜きあったのだって人の気も知らないで何も無かったみたいに平然としてる」
「ふぅん。んで今頃不機嫌なのは何なの?」
歩は俺が手に持っていたワイングラスを取り上げて、ほんの少し残っていたワインを飲み干した。
「もうすぐ元カノのいる東京に行くんだと。初めてやっちゃうかもーとかって。」
言ってるそばからイラついてきた。
「別に良いじゃん」
「こないだ男の俺を好きとか言ったくせに、女とヤるんだぞ?」
「バイなんじゃないの?別に好きじゃなくても出来るんだから、、」
、、ますます川原のイメージとかけ離れて、俺は更にイラついた。
そんな俺を不思議そうに歩は見て、「え?誉って、、川原くんが好きなの?」
そう言った。
「は、、?なんでそうなる?俺はただ、、」
、、ただ何だ?何でイラつく?こんなふうな酒の飲み方をしたのは何が原因だ?
「だってそれ、ようするにヤキモチだよね?」
「ちがっ!、、ただ、さんざん振り回されたから自由すぎるあいつにムカついてんだよ!人の気も知らないで、、」
「誉?正直に言ってみな。ー、川原くんに、、抱かれたいって思ってない?」
その言葉に、俺は歩の胸ぐらに掴みかかった。
「おまえいい加減にっ、、」
歩は俺に掴まれたまま、両手を顔の横に広げて無抵抗だと意思表示しながら瞳をギュッと瞑っていた。
その顔を見て乱暴に歩を突き放す。
「悪い、戻るわ」
そう言い捨てて、俺は自分の部屋へ戻った。
歩に出会ったのは3年前、あいつの働くワインバーに俺が偶然飲みに通っていたのが始まりだった。
ある日バーで知り合った男の客と話ながら飲んでるうちに俺は酔い潰れて、その男に露地裏に連れ込まれた。そいつに襲われて抵抗して揉めに揉めているところを歩が警察を呼んで助けてくれたのだ。
歩は自分がゲイだといって、確か酔い潰れてる俺に「寂しいならオレとやる?」と聞いてきた。
そんな歩を、、俺は殴ったのだ。
そこから何だかんだで仲良くなった。歩は相手に不自由なくいろいろな男と寝るようなタイプだった。
だけど本気で俺とやろうとはしなかった。今では家族みたいなもんで、お互いにそういう目で見ることもない。
高校の頃の話も、俺の経験も、女の子では満足出来ないことも歩には話した。
そして、俺は2度と男とやらないということも、、。
川原から連絡が来て金曜日から東京へ行くと知らせてきた。
俺はもともと家で酒を飲むほうだけど、川原のせいで毎日酔うまで飲むことが増えた気がする。
その水曜日の夜も俺は酔っていた。
10時を回った頃、突然家に川原が訪ねて来た。
「入って良い?」
「、、どーぞ」
突然来た川原をリビングへ通して、テーブルの上の酎ハイの缶を片付ける。ワインのボトルにまだ半分入っているが、川原にワインを飲ませるのは躊躇われてそのままキッチンに片付けてしまった。
「どしたん?急に、、店に来りゃ良いのに」
「うーん、和倉と2人で会いたくて。」
「またそんな事言う、、」
俺はどさりとソファに寝そべる。
「和倉がそんな酔ってんの初めて見たかも。平気?」
「何しにきたの?」
「、、こないだ和倉の様子変だったから、、」
「別に変じゃない」
「変だった」
意外と頑固な川原がソファの横に腕を組んで立っている。
「川原、花火の日の、、花火見ながら言ったの、何だったの、、?」
「和倉のこと好きだって言ったんだよ」
即答されてかなり驚いた。
、、覚えていたんだ、、。
「キスは?何だったの」
「、、好きだってウソじゃないって言いたくて、、」
「、、なんかおまえ、分かってない、、」
俺は寝そべったまま、腕を顔の上に置いていて川原を見ずに続けた。
「何が?和倉こないだもそういうふうに言ってたけど、そんなんじゃ分かりようもないよ」
「川原が、万が一俺を好きだとして、、」
「だから好きだってば」
「俺、男と付き合う気はない、、」
「、、男が対象って言ってなかった?対象だけど誰かにしぼって付き合う気はないってこと?」
「、、違う。男と関係持ちたくない。だから川原とはこないだのでギリアウト。」
「なんだよそれ」
川原が明らかにイラついたのがわかった。
「和倉、なんでそんな頑ななの?俺はさ、相手が誰であっても自分に嘘つきたく無いんだよ。せっかく命を貰ったんだ。正直に生きたい」
そう言いながら川原は俺の横にしゃがんで、俺の腕をそっとつかんだ。
顔を隠していた腕が避けられて、川原の寂しそうな瞳が見えた。
川原はそのまま俺にキスをした。
ゆっくりと俺の唇を割り、歯列を割って、口の中に彼の温かい舌が侵入した。
「んん、、」
川原の濡れて温かい舌が、俺の舌をそっとなぞって軽く吸い上げて、くちゅ、と卑猥な音をたてる。
酔った頭に川原から求められるキスはそのまま俺の中心に熱を集め始めて、寝た体勢で腕を押さえられてる俺はそれを誤魔化すことが出来なかった。
「和倉、、もしかして、、?」
「やめろっ!触んな!」
川原が俺の中心のモノに伸ばした手を、俺は咄嗟に振り払った。
「川原、勘弁してよ。、、おまえ本当に分かってないって!、、おまえさ、男同士ってどうやるか知ってるか?おまえ俺に、、俺のケツに自分のモノ挿れられんのかよ、、?そんなことされてよがる俺を見て欲情出来んのかよ!?それともそういうの無しで好きとか言ってんのかよ!?」
酔っているせいだ、、。
何故か涙が出てくる。
自分の一番嫌いな部分を言葉にするだけで泣けてくるのに、こいつの前でさらけ出せるわけがない、、。
「和倉、何で泣くの、、」
「帰れよ。」
「和倉」
「帰れよ。もうここに来るな。お前は東京で女でも抱けよ!」
「っっ、、」
川原は何も言わなかった。俺が川原の言葉や存在を拒んだからだ。
少しの間立ち尽くした川原はやがて静かに部屋を出て行った。
川原のキスに反応するこの体を、この世から消してしまいたいと久しぶりに思ってしまう。
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