リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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四章【九条ゆい】※R18含む

3 大丈夫

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その日俺たち3人は夜まで食べたり飲んだりしていた。大学の話や友だちの話、宮城さんの仕事の話。そして結局のところ俺の恋が成就するまでの話に戻ってくる。

「でもさ蒼くんからイトと最後までやったって聞いた時、俺すっげぇ責任感じたんだよね」

ハヤトさんがどちらにともなく遠慮のない言い方をして、俺は思わず烏龍茶にむせた。
なのに宮城さんは全く動揺せずに、
「明らかに俺らの影響受けてたもんね。多少俺も責任感じた」と言って冷蔵庫から出してきた新しいお酒をテーブルに並べながら続ける。
「蒼くん俺のことずっと誤解してたし」
「だよな~。さすがに俺もイトのことフォローしようと思ったんだけど聞いたの出発の時の空港だったからなぁ。蒼くん悩んでたよなぁ。」
思い出して、まるで過去の俺を助けてやりたいと言う顔でハヤトさんはしみじみとして、その言葉に宮城さんが俺の顔を見た。

初めて宮城さんと最後までした時、俺は勝手に傷ついていた。宮城さんが好奇心や軽い気持ちで応じてくれたと思ったし、自分が本当に本気で宮城さんを好きだと実感もした。しかも彼女がいたのに自分の軽薄具合いも嫌と言うほど感じた。
ハヤトさんはそんな俺を心配して、「イトは好奇心で動くようなやつじゃない」と助言してくれた。
そうだ、きっとあの時ハヤトさんは宮城さんの気持ちがわかっていたんだろう。もしかすると俺の為にじゃなくて宮城さんの為に言ったのかもしれない。

「でもハヤトさんの言葉とか存在とか結局ずっと俺を助けてくれましたよ。」
「そっか、、少しは役立てたなら良かったよ。イトは表現下手でわかりにくいけど蒼くんが正反対だからきっとお似合いだな。」
ハヤトさんは俺と宮城さんを順番に見ると目を細めて笑った。

「ハヤト、そろそろ聞いて良い?」
少し会話が途切れた時に宮城さんが言った。ハヤトさんが話題にしなかったから俺と宮城さんも話題に出さなかった。

「え?あぁ、まぁ、、ロンだったら別れたよ」
「え、、」
サッと顔を上げた宮城さんに向かって、片手をヒラヒラとふったハヤトさんが
「誤解すんなよ?あのまま上手くいかなかったとかじゃねーよ?全然イトは関係なくて、ちゃんとお互い向き合って一緒に暮らしてたし。でも結局はささいな事の積み重ねで普通にすれ違ってって、最終的にお互いに別れようかってなったんだよ。」
「ハヤトさんはそれで納得してるんですか?」
「ああ、うん。自分の気持ちに嘘は無いし、ちゃんと本音で話し合って、前向きな気持ちでお互い別れたから。引きずってもない。ちゃんと向き合えて良かったと思ってる。」

そしてハヤトさんは再来週にはこちらへ引っ越して来て、しばらくは大学を休学したままバイトをすること、来年の春に二度目の3年生として復学する予定であることを教えてくれた。

宮城さんはしばらく言葉少なにお酒を飲みながら俺とハヤトさんのバカ話を聞いていたけれど、ふと気がつくとテーブルに突っ伏して眠っていた。
ハヤトさんは「全く変わってないじゃん」と呆れながら隣の部屋のベッドへ彼を連れて行くと寝室のドアを静かにしめてリビングへと戻ってきた。

「だけどイトはすごいよな。昔は俺が世話焼いたり手伝ったりして何とか漫画と学校まわしてたのに、今は昔よりでかい仕事してしっかりプロの漫画家として立ってんだから」
「うん、ですよね。なんで俺の恋人までやってんだろって、時々思います。俺年下で包容力とか全くないし、宮城さんただでさえ忙しいのに邪魔になってるだけじゃないかって不安になります。」
「それでもイトが一緒に居たいと思う唯一の相手が蒼くんなんだからそれも凄いと思うけど?」
ハヤトさんはフォローしてくれたけど、たぶんこのモヤモヤは消えないだろう。大学を卒業して社会人にでもなれば違うんだろうけど、どうしたって今は学生の俺と社会人の宮城さんという構図になってしまう。なのに正真正銘の学生である宮城さんに俺は求め過ぎていると思う。

宮城さんはそうは言わないけど、夏休みを返上して毎日学校に行かなきゃならないのは俺のせいでもあるのだ。

「宮城さん、大丈夫かな、、」
思わず呟いた俺をハヤトさんはじっと見て
「今度はちゃんと相談のるから」
そう微笑んだ。

ハヤトさんはこの日宮城さんの仕事部屋に泊まった。俺に気をつかって別の友達の家に行くと言っていたけど、ハヤトさんは宮城さんの家族のような人だ。別に今更心配したり嫉妬したりはしたくなかった。ハヤトさんを残して次の日もバイトの俺は自宅へ帰った。


深夜、間接照明だけの柔らかな光の中でテレビを見ていたハヤトがそろそろ寝ようと思った時に隣室の扉が開いた。
「お、イト起きたんだ?」
「うん、喉渇いて。ー蒼くん帰った?」
「明日もバイトだってさ。」
「あー、そっか。」
「俺泊まるの気にしてないって言ってたけど大丈夫だと思うか?」
宮城は少しだけ考えて小さく頷いた。
「蒼くんがそういうなら大丈夫だよ。」
宮城の言葉にハヤトは「そうか」と頷いて、そのまま青白い顔の宮城を見つめる。
1年前はもっと生活をしていた気がする。もっと我儘で、自由で、楽しそうだった気がする。

「イト、生活忙しすぎるんじゃないか?おまえ疲れてるよな?」
「んー?」
宮城は冷蔵庫からお茶を出すとダイニングテーブルの椅子に座ってハヤトを見返す。
「学校とさ、仕事のバランスが難しいんだ。常に何かに追われてる」
「身体もしんどそうだけど、精神的に参ってるだろ?おまえのこと20年も見てるからわかんだよ。自覚あるか?」
「あー、、うん、まぁ正直休みたい。けど、大学あと2年だからどうにか卒業はしたい」
「、、蒼くんのことは大丈夫か?蒼くんもイトが忙しすぎること心配してたけど、、」
「、、本当はもっと一緒に居たいと思ってくれてんだよ。でもなかなか俺ゆっくり時間が作れなくて、、2人で遊びに行くとか、そういう時間がとれないから申し訳ないよ」
「イト、蒼くんの気持ちも大事だけど、無理しすぎると限界になるぞ?」
ハヤトが心配そうに言うと、宮城は少しだけ困った顔をして笑った。「大丈夫」と取り繕うように肩を窄めてみせる。
その顔にハヤトは胸が騒いだ。
宮城がそんな大人の表情をすると思わなかったからだ。
1年でこんなに変わった事を年下の恋人はわかっているんだろうか、と心配が増してしまった。

「ま、漫画家として忙しいのはピーク過ぎたかもだし、今だけだよ」

ハヤトはこの時もう少し話を聞けば良かったと後で後悔した。
忙しさがアニメ化の影響だとわかっていたから、確かにもう暫くすればピークは過ぎると思ったのだ。

けど、そうはならなかった。
大学生の宮城の仕事は更に増えることになった。アニメの続編決定と、映画化の話があがったのだ。それ以外にも誌面でのストーリーは今まで通り進んでいる。
いよいよ大学の授業に出るのがままならなくなってきた10月下旬。
状況がついに大きく変わり始めた。








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