捨てたいキミ、拾いたい僕。

ふじのはら

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十一話 男

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秋。
今年の夏も例年にたがわず酷い暑さで、川辺の草地で密かに過ごすことが多かったオレに、家族も教師も何も言わなかった。いや、家族は“人目に着くところに居てくれ”と和倉と同じことを言っていたか、、。

その和倉とも川辺では何度か会った。それは去年と同じで全く偶然のこと。別に友だちというほど楽しく過ごした事も無く、少し話したりそれぞれが音楽を聴いたり昼寝をしたり、同じ場所と時間を共有したにすぎない。

けれどその日は少し違った。
初めてオレと和倉以外にその場所に他人が介入したのだ。

涼しい風が吹いてて、そろそろ家に帰ろうかと考えながらも水面をぼんやり眺めていた時だ。背中を向けている小高いサイクリングロードの方から言い争う声が聞こえて、それは乱暴に草を踏む足音と共に近づいて来た。

「っついて来るな!」
「じゃあ止まれよ。話しあんだよほまれ!」
「話なんかねーよ。終わってんだよ」
「オレは終わってない。この1年何度連絡したと思ってる?」
「やっめろ離せ。っっ!触んな!」

振り返ったオレの少し先で和倉が誰か知らない男と揉めていた。彼らからは草の中にいるオレが見えていないようで、まさか見られているとは思っていなかっただろう。
相手の男が和倉の腕を掴んで至近距離で睨むとそのまま乱暴にキスをした。

ー、、キスを?どうして?

「やめっ、、触んな」
「なぁ、もうここ誰かに触らした?誰かとやった?」

ー、、あ、なんか聞いちゃいけない気がする、、いや、それとも助けた方が良いのか?いや、でも本気で逃げようと思えば殴るなり出来るよな?

しばらく身動きが取れなくてじっとしていたのに、2人はあろうことかオレのいる方へやってきた。
そりゃそうだろう、和倉の目的地はここなんだから。

逃げる様にオレのいる場所へ踏み込んだ和倉を追って、その男が和倉を背後から掴む。そのまま和倉を抱きしめたが、和倉はオレを見ていた。
「っ!!川、原、、、」

「ぅわ、マジ?」
オレに気がついて男は和倉からパッと離れてオレと和倉を交互に睨む。
「あーあぁ。そういう事?誉、もう相手いんだ?しかもこんな外でやってんの?」
怒りのこもった目で嘲り笑う人は、歳上に見えた。目つきは悪いが背が高くて端正な顔立ちをしている。
「先輩、帰れよ」
「つめてーな。あ、そうだ、オレは別に3人でもー、」
「帰れよっ!頼むからっ!!」
「っ、、」
和倉に“先輩”と呼ばれたその男はじっと和倉を睨んだあと、あからさまな舌打ちをして「また連絡する」と言い捨てて帰って行った。

「川原、、ごめん、、今の誰にも、ー」
「まぁ立ってないで座んなよ。」 
「、、、」
「別に和倉が秘密にしたい事なんだったら誰にも言わないけど。」
「、、、、頼む」
「了解」
暫く気まずそうに突っ立っていた和倉はやがて少しオレから距離をとって座った。
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