捨てたいキミ、拾いたい僕。

ふじのはら

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二話 水面

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「悪い、、」
飲み込んだ水を吐いてゲホゲホと苦しそうな顔をしながらそいつは言った。
オレの差し出した腕につかまり陸へ上がってきたのだ。
「バランス崩した」
「いや、でもあんたさ、ー」
まだ苦しげな荒い息をする彼に、次の言葉が出ずにオレは沈黙した。

制服も何もかもずぶ濡れで黒い髪からポタポタと水滴が落ちている。さっきまで寝転がっていた草の上まで上がらせてオレはどかっとその場に尻をついた。
何度か深呼吸をして、自分の鼓動を聞く。濡れた服が気持ち悪かったが、気温が高かったせいか寒くはなかった。

「悪い、、人が助けに来るとか想定外だった、、はぁ、、やば、、俺何してんだろ、、」
肩で大きく息をしながら申し訳なさそうに目を伏せた彼は顔面蒼白で、自分の意思で飛び込んだ事を肯定している言葉にも気が付いていないようだ。

「なぁ、大丈夫?ー、、じゃなくない?」
「ー、、、あー、こんな全身濡れててどうやって帰るっつー話だよな」
ハハハと形だけ笑った口元が震えているように見える。
「じゃなくてさ。いや、それもそうなんだけど、、何かあんた大丈夫には見えないんだけど、、」
「んー、、いや、バランス崩しただけだって、、。暑さに弱いんだよ。ー」
「おい?」
「これどうやって帰ろ、、あ、ごめんな。あんたも濡れて」
「おいって!」
「この気温だからそのうち乾くかな、、こんなんじゃ帰れねーし、、、、帰れねーよな、、、」
適当に口を動かしていた彼の言葉がふいに途切れて、黙ったまま俯いた顎の先から雫がパタ、パタと草の上へ落ちていく。俯いていて目元は見えないが唇を固く引き結んでいる。

やがて彼はその場に腰掛けると伸ばした両腕の間に顔を埋め、「ごめ、、少し、放置してくんない、、」掠れた声でそう言った。

彼は暫く顔を伏せたまま肩を震わせていた。
オレは少し離れてぼんやりと川面を眺めて座っていることしか出来なかった。
こんな時にかける言葉なんか持ち合わせてはいなかったのだ。

オレは真っ青な空と、陽に反射してキラキラ光る水面を見つめながら、そいつの小さな嗚咽と自分自身の鼓動を聞いていた。


それが、オレ川原 朋紀かわはら ともきと、和倉 誉わくら ほまれが初めて出会った日だった。
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