1 / 14
一話 青空
しおりを挟む
オレはいまだにあの光景を忘れていない。
オレにとって2度目の高2の、あの暑い夏の光景を。
「あっつ、、」
とうに1時限目が始まっている時間だ。
急ぐ気も無く重い足取りで河原を歩く。まだ朝と言える時間にも関わらず、7月のその日の気温はもう30℃はあった筈だ。
久しぶりに着た制服のシャツの襟が暑くて酷くイラつく。
ーあぁ、駄目だ。行きたくねぇ、、。
オレは小高くなった河原の道から石の階段を降りて少し背の高い草の中へ入った。
学校まで歩けばまだ20分やそこらかかる距離で、朝の登校時間が過ぎてしまえば歩く生徒の姿もない。
学校の裏手へ続くこの川は幅は狭いが深いので魚釣りをする人がよくいる。
けれどその日は運の良い事に人の姿は見えなかった。
頭上にかかる橋の影になる場所を選び、草を踏むとカバンを枕に寝転んだ。
「ちょっと休憩」
日陰に寝転んでいればほんの僅かな風を感じた。オレは目を閉じてイラつく気持ちを忘れようとした。
遠くから小さな子どもの声や時々通る車の音がする、、風で揺れる草が首や腕にカサカサとあたったが不思議と心は落ち着いてゆく。
しばらくそうして草の中に寝転がっていたが、ふと時間が気になりスマホを見ようと目を開けた。
ふと頭上に視線をやったオレはそこから目を逸らすことができなくなってしまった。
ー同じ制服、、?あいつ何してんだ?
頭上の橋の真ん中あたりでたぶん同じ制服を着ている男が、下を覗き込んで川を見ている。何か探しているのか、上半身を橋の欄干から乗り出している。
オレはその視線の先が気になって草の中に身を起こして川面を見てみたが特に何かが浮いているわけでもなさそうだ。
斜め下から見上げるオレには、そいつの白いシャツとその背後に広がる一面の青空が眩しくて表情まではハッキリとは見えなかったが、不安定に身を乗り出している姿から何故か目を逸らすことが出来ないでいた。
やがてそいつは上半身を預けていた欄干に両手をつくとまるで鉄棒のやようにピョンと飛び上がり右足をかけた。
「ーおいっ!あぶなっー、、」
咄嗟に大きな声を上げたオレの方をそいつは一瞬見た。かなりの距離なのに、こちらを見た彼と目が合った気がする。
オレは息をのんだ。心臓が跳ね上がる。
そいつは落ちたんじゃない。意図して飛び降りた、、。
オレの目に、真っ青な空と真っ白なシャツと不思議な体勢で橋から離れた身体、そして一瞬オレを見た感情の無い表情を写真のように焼き付けて、そいつは川へ落ちていった。
オレにとって2度目の高2の、あの暑い夏の光景を。
「あっつ、、」
とうに1時限目が始まっている時間だ。
急ぐ気も無く重い足取りで河原を歩く。まだ朝と言える時間にも関わらず、7月のその日の気温はもう30℃はあった筈だ。
久しぶりに着た制服のシャツの襟が暑くて酷くイラつく。
ーあぁ、駄目だ。行きたくねぇ、、。
オレは小高くなった河原の道から石の階段を降りて少し背の高い草の中へ入った。
学校まで歩けばまだ20分やそこらかかる距離で、朝の登校時間が過ぎてしまえば歩く生徒の姿もない。
学校の裏手へ続くこの川は幅は狭いが深いので魚釣りをする人がよくいる。
けれどその日は運の良い事に人の姿は見えなかった。
頭上にかかる橋の影になる場所を選び、草を踏むとカバンを枕に寝転んだ。
「ちょっと休憩」
日陰に寝転んでいればほんの僅かな風を感じた。オレは目を閉じてイラつく気持ちを忘れようとした。
遠くから小さな子どもの声や時々通る車の音がする、、風で揺れる草が首や腕にカサカサとあたったが不思議と心は落ち着いてゆく。
しばらくそうして草の中に寝転がっていたが、ふと時間が気になりスマホを見ようと目を開けた。
ふと頭上に視線をやったオレはそこから目を逸らすことができなくなってしまった。
ー同じ制服、、?あいつ何してんだ?
頭上の橋の真ん中あたりでたぶん同じ制服を着ている男が、下を覗き込んで川を見ている。何か探しているのか、上半身を橋の欄干から乗り出している。
オレはその視線の先が気になって草の中に身を起こして川面を見てみたが特に何かが浮いているわけでもなさそうだ。
斜め下から見上げるオレには、そいつの白いシャツとその背後に広がる一面の青空が眩しくて表情まではハッキリとは見えなかったが、不安定に身を乗り出している姿から何故か目を逸らすことが出来ないでいた。
やがてそいつは上半身を預けていた欄干に両手をつくとまるで鉄棒のやようにピョンと飛び上がり右足をかけた。
「ーおいっ!あぶなっー、、」
咄嗟に大きな声を上げたオレの方をそいつは一瞬見た。かなりの距離なのに、こちらを見た彼と目が合った気がする。
オレは息をのんだ。心臓が跳ね上がる。
そいつは落ちたんじゃない。意図して飛び降りた、、。
オレの目に、真っ青な空と真っ白なシャツと不思議な体勢で橋から離れた身体、そして一瞬オレを見た感情の無い表情を写真のように焼き付けて、そいつは川へ落ちていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
やくびょう神とおせっかい天使
倉希あさし
青春
一希児雄(はじめきじお)名義で執筆。疫病神と呼ばれた少女・神崎りこは、誰も不幸に見舞われないよう独り寂しく過ごしていた。ある日、同じクラスの少女・明星アイリがりこに話しかけてきた。アイリに不幸が訪れないよう避け続けるりこだったが…。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

鍵の海で踊る兎
裏耕記
青春
君の演奏を聴いたから、僕の人生は変わった。でもそれは嬉しい変化だった。
普通の高校生活。
始まりは予定通りだった。
ちょっとしたキッカケ。ちょっとした勇気。
ほんの些細なキッカケは僕の人生を変えていく。
どこにでもある出来事に偶然出会えた物語。
高一になってからピアノなんて。
自分の中から否定する声が聞こえる。
それを上回るくらいに挑戦したい気持ちが溢れている。
彼女の演奏を聴いてしまったから。
この衝動を無視することなんて出来るはずもなかった。
平衡ゴーストジュブナイル――この手紙を君が読むとき、私はこの世界にいないけれど
クナリ
青春
生きていたいと願うべきだと分かっている。
でも心からそう思える瞬間が、生きているうちに、何度あるだろう。
五月女奏は、不登校の高校生。
彼はある日、幽体離脱のように、自分の「幽霊」を体の外に出せるようになった。
ただし、幽霊がいけるのは自分のいる世界ではなく、それとよく似た並行世界。
そして並行世界では、彼の幽霊は、けが人や病人に触れることで、そのけがや病気を吸い取ることができた。
自分の世界ではなくても、人を癒すことには意味があると信じて「治療」を続ける奏だったが、ある雨の日、彼は自分の世界で、誰かの「幽霊」らしきものを見る。
その「幽霊」の本体は、奏の幽霊がいける並行世界に暮らす、ある女子高生だった。
名前は、水葉由良。
彼らは幽霊を「ゴースト」と呼ぶことにして、お互いの世界の病院で人々を治し続ける。
いくつかの共通点と、いくつかの違いを感じながら。
次第に交流を深めていく奏と由良だったが、それによって奏は、由良の身に何が起きていたのかを知る。
二つの世界に住む二人の交流と決断を描いた、現代ファンタジーです。

燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる