私が忘れた100年偏愛〜これは転生じゃなくて成仏のお話〜

ふじのはら

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第二話 【名前】

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ココに来てからの事実上の世話係は七宝だった。
零も七宝がいない時には色々してくれたけど私が質問攻めにするのが面倒くさいのか本当に忙しいのか、ふらっと部屋に来てふらっと帰って行くだけだ。誰も居ない間は私は吸い込まれるように眠りについた。

既に私が此処へ来て、いや、私が死んでその時間が動き出してから3日が経った。この窓もないただ白い部屋の中で自分が何者かわからないあやふやな状態であることにも少し慣れた気がする。

「理解できた?」
まあるい輪が4個に区切られていて、区切られた所には“現世”“成仏”“天界”“審判”とそれぞれ書かれている。
これが輪廻転生。
「うーん、七宝とか零は“天界”にずっといるってこと?」
「違う違う。審判で下される転生先が更に別れていて、殆どの人は人間としてまた現世に行くけど、一定数の人は天上に転生するの。だから僕や零は人間じゃない。今は朔希サキも違うけどね。」
七宝は金色の髪をサラサラと揺らして首を振ると私にわかりやすいように一生懸命説明してくれる。

「ーで、私の存在は現世と成仏の間にあるってことだよね?」
「そう!だから此処で眠っている間は朔希の魂が現世に漂ってて変な夢を見てるみたいになるんだよ。本当は眠ってるんじゃなくて、魂が居場所を失って迷子になってる。」
「なにそれ、、私めちゃくちゃ可哀想じゃん。」
現実味は無いけど、言葉だけ聞くと私って可哀想すぎ、、。死んでも迷子だなんて。

「うん、ごめんね。」
七宝が白い手で頭を撫でてくれる。
「私を落としちゃったのは七宝だけど悪いのは零だよ。」
「ハハッ零は今日探しに行ってくれてるよ。大丈夫。零は有能だから。」
「零自分では“禁忌をおかした落ちこぼれ”って言ってたよ?」
何でだろう?他の羅網を知らないけれど、あんなに綺麗で上品で洗練されてて、アレで落ちこぼれってどういう世界なんだろう。

「あー、それはね、うん、僕からは言えないかな。でも零がそう言うならその通りかも。」
七宝は人差し指で形の良い鼻をポリポリとかいて困った顔をする。一人称を“僕”という七宝は正確にはまだ性別がないのだという。とてもしっかりしているように見えるけど、見た目はどう見てもまだ12、3歳くらい。
中性的なフランス人形みたいに可愛い顔をしていて、零とは違って感情もクルクルとかわるのが愛らしい。
少し困った残念そうな表情がとっても可愛くて、今度は私が手を伸ばして七宝の頭を撫でた。


「ずいぶん仲良くなったんですね。」
音もなく入ってきて、私たちの前に透明なビー玉のような物を置く零
「零!!見つけたんですね!!」
「もちろん。私の本気にかかればね。」
「朔希!コレ、あなたの名前だよ!!覗いて見て!!」
「え、コレが、、?」
恐る恐るその透明な球に手を伸ばすと、触れる寸前に零の手が私の腕を掴んで
「待って下さい朔希」
「?」
「覗くのは夜ベッドに入ってからにした方が良いです。たぶん魂が現世に戻ってしまうので、すぐにこちらへ帰ってこられるとは限りませんよ。」
「!な、なんか怖い、、。」
「でも朔希、名前も記憶も取り戻せるんだよ!?」

七宝はそう言うけれど、何だか怖い。私はどういう人間だったの?どうやって死んだの?家族や、愛していた人たちを遺して死んでしまったんじゃないの?
思い出すと言うことは、自分の過去として実感してしまうこと、、

「零、あなたの言う通り、寝る時にする。ーだから零、その時私と一緒に居て欲しい、、」
私の懇願する言葉に、見上げた零は一瞬目を見開く。正面の七宝がハッとして零を見上げた。けれど一瞬の後には零は何でもないと言う表情に戻っていて、いつも通りの微笑で頷いた。
「ええ、朔希がそう望むなら。」


明かりの落ちた暗い部屋。
ベッドに入った私の祈るような両手の中にある小さな球。
「大丈夫ですよ。それは元々あなたが持っていたものなんですから。」
そっと私の手に重ねられた零の手のひらは優しくて温かい。
ベッドの横に腰掛けて、私を見下ろす零の表情が照明のせいか少し優しく感じた。
いや、私が緊張と不安でいっぱいだからそう見えるのかもしれない。

こくりと頷いた私は、微かに震える手でガラス玉のような物を覗き込んだ。
そして吸い込まれるように体を残して現世に彷徨いでていく。

目を閉じて眠る私の髪の毛に細い指を通して、頬を慈しむように撫でる。
「どうか、思い出して。朔希。ーオレのこと、、」
零は微笑をたたえずに切なげに呟いたのだった。
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