上 下
9 / 29

第八話 天与された鎮守府将軍哉

しおりを挟む

千坂ちさかあおい

ついに多賀城市長とまみえるときがきた。
 緊張と少しの期待が交わり、落ち着かない。

「アオ君大丈夫ですか……?」
「うん、大丈夫じゃないかも」
 俺の様子を見かねて凪《なぎ》が話しかけてくれた。
 よく緊張しなさそうとか言われるが、それは全くの見当違いだ。
 俺は普通に緊張する。何回も場数を踏んで、慣れているからある程度の緊張は隠すことができるってだけ。
 だが今回は隠せていない。
 ということはある程度の緊張ではない――ということだ。

「ふーーー」
 息を勢いよく噴き出す。
 こういうときは自分より落ち着かなさそうな人を見ると落ち着くからな。
 鈴望あたりはそわそわしてるんじゃないか。
 そう思い、鈴望れみのほうを見てみると

「ナツー、市長ってイケメンかな?」
「え、写真か何かで見たことあるでしょ」
「ない」
「あなた、多賀城市民だよね? 市長の顔くらい覚えてなきゃいかんくない?」
「いやー市政だよりとか広報とかに載ってたりするんだろうけどさ、私そういうの見ないからさー」

 ダメだ。鈴望れみはねじが外れている

「たとえイケメンだとしても鈴望には関係ないだろ」
「わかってないなーナツは。イケメンは見てるだけでも、その場にいるだけでもいいんだよ。場が和み、目の保養になるんだよ」
「それは少しわかるな。美少女がいればそれだけでやる気でる」
「それじゃあナツは年がら年中やる気出っ放しじゃん」

 鈴望は少し間を置き、胸を張りながら続ける。

「私という超絶美少女の幼なじみがいつもそばにいるからね」
「超絶美少女は自分でそんなこと言わないんだよ」
 

「会長」

 今度は紫水しすいが声をかけてくれる。
「今日は顔合わせみたいもので、こちらから何かを提案するということはほとんどないんですからそんな緊張する必要はないかと。むしろ堂々としていていいと思います」

 全く頼もしい後輩だな。
 執行部に入ってくれたこととても感謝してる。
 俺は紫水の両肩を掴んだ。

「紫水を任命してよかったよ」
「え、なんですか急に」

 紫水の言う通りである。高校生と言っても依頼された側。
 必要以上にこちらが萎縮する必要はない。
 礼節は保ちながらも気になるところは言っていかなければならない。

「紫水の言う通りだ。ありがと」

 ここでもう一度深呼吸をして雑念を払う。よし準備は整った。
 紫水は言った。

 ――こちらから提案することはないと。

 実はある。だから俺はこんなにも緊張しているのである。

 俺たちは扉が開くのを待つ。
 会議室は静寂に包まれる。そんな静寂を破るように廊下に足音が響く。
 そして、ドアが開く。
「失礼します」

 身長は170センチくらいだろうか決して大きくはないが、圧倒的な存在感を放っており、とても大きく見える。髪は7対3でぴっちりと分けられており、紺のスーツを身にまとっている。やはり自治体の首長になる人物ともなると何かオーラのようなものがでている気がする。

 執行部6人は一斉に立ち上がる。
「今日は急な申し出にも関わらず時間を取ってくれて本当にありがとう」

 浅山あさやま市長は頭を深々と下げる。
 俺はそれに合わせるように

「こちらこそお忙しいなか私たちに時間を割いていただきありがとうございます」
 今度はこちらが頭を下げる。
「とりあえず座ろうか」

 執行部6人と玲先生は横一列に座り、多賀城市長と多賀城市役所の総務部地域コミュニティ課の課長は俺たちと向き合って座るような形になる。

「まずは自己紹介をしようかな。多賀城市長の浅山あさやまみなとです。今年で42歳になる。そして私はここ多宰府高校のOBなんだよ。改めてこれからよろしく」

 声がよく通る。一字一句がはっきりと聞こえてくる。
 こちらも自己紹介をする。
「多宰府高校生徒会執行部です。自分は生徒会長の千坂碧です。右から時雨しぐれ紫水しすい水無月みなづきなぎ白菫しろすみれ鈴望れみ白藍しらあい捺希なつきからもも汐璃しおりです。よろしくお願いいたします」

 挨拶が終わり、俺たちは座る。


「それじゃあ早速本題に入ろうか」

 寄り道なしに本題に入る。
「確認をしておくけど、今年のあやめ祭りの運営に多宰府高校生徒会執行部は協力してくれる。ということで間違いないかな」

 言っている言葉に威圧感は微塵もないのに、この人が発すると不思議と圧迫される。こちらの心の臓を底から動かすような。
 俺にはこの人に確認をしないといけないことがある。この圧迫感に負けないように息を吐きだし、気持ちを整える。

「はい、協力をさせていただきます。その前に浅山市長に確認をしておきたいことがあります」
「何かな」

 会議室が静寂に包まれ、温度も急に下がったかのように凍り付く。
 室内にいる全員がこれから俺が何を言うのかを察知したかのように。

「浅山市長が私たちのような高校生に運営協力を依頼した理由が知りたいです。失礼を承知でお聞きします。あなたの政治的パフォーマンスに私たちを利用したいというわけでしょうか」

 執行部のメンバーは度肝を抜かれたような顔をしている。そうだろうね。千坂碧がこんな挙動に出るなんて想像できないだろう。紫水ごめん。俺はこれを言わなきゃいけないから緊張してたんだよ。
 でも自分で自分に驚いた。自分の声がこんなにも鮮明に通ることに

「千坂君。面白いことを聞くね」
「正直に答えていただきたいです」

 浅山湊。宮城県多賀城市出身で多賀城市議会議員、宮城県議会議員を経て、一昨年多賀城市長に40歳という若さで初当選し、今年で就任3年目となる。
 地元出身であることやその政策から地元愛が感じられ、その爽やかなルックスや行動力で老若男女問わず支持を受けている。その政策の特徴は「若い力」のフル活用。積極的に若い世代と討論会や意見交換会などを開き、そしてSNSを活かしてその声に直に触れている。

 俺の予想が正しければ、市長はまっすぐぶつかってくる人物が好きなはずである。
 討論会や意見交換会の公開されている議事録を見たところ市長が好意的にそして食いついているのは自分の考えをまっすぐに述べている意見に対してだった。
 正直に答えてほしいといったがこれは半分嘘だ。
 嘘というよりどうでもいい。
 この問いをした意味はこれから運営協力をしていくなかでできるだけ対等にあつかってもらえるように、「高校生だから」と舐められないようにするための楔である。
 こちらがどんな提案をしてもすべて「高校生だから」という言葉で否定されかねない。
 どちらにしろこんな強気な発言ができるのは否定的な見方をされるより好意的な見方をされるという確信があるからだ。

「うん。その心意気とても気に入った。それに免じて正直に答えましょうか」
 俺は思わず生唾を飲み込む。いくら確信があっても怖いものは怖い。
 浅山市長はゆっくりと語り始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

萬倶楽部のお話(仮)

きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。 それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。 そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。 そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。

First Light ー ファーストライト

ふじさわ とみや
青春
鹿児島県の女子高生・山科愛は、曾祖父・重太郎の遺品の中から一枚の風景画を見つけた。 残雪を抱く高嶺を見晴るかす北国らしき山里の風景。その絵に魅かれた愛は、絵が描かれた場所を知りたいと思い、調べはじめる。 そして、かつて曾祖父が終戦直後に代用教員を務めていた街で、その絵は岩手県出身の特攻隊員・中屋敷哲が、出撃の前に曽祖父に渡したものであることを知った。 翌年、東京の大学に進学した愛は、入会した天文同好会で岩手県出身の男子学生・北条哲と出会い、絵に描かれた山が、遠野市から見上げた早池峰山であるらしいことを知る。 二人は種山ヶ原での夏合宿あと遠野を訪問。しかし、確たる場所は見つけられなかった。 やがて新学期。学園祭後に起きたある事件のあと、北条は同好会を退会。一時疎遠になる二人だったが、愛は、自身の中に北条に対する特別な感情があることに気付く。 また、女性カメラマン・川村小夜が撮った遠野の写真集を書店で偶然手にした愛は、遠野郷に対して「これから出合う過去のような、出合ったことがある未来のような」不思議な感覚を抱きはじめた。 「私は、この絵に、遠野に、どうしてこんなに魅かれるの?」 翌春、遠野へ向かおうとした愛は、東京駅で、岩手に帰省する北条と偶然再会する。 愛の遠野行きに同行を申し出る北条。愛と北条は、遠野駅で待ち合わせた小夜とともに「絵の場所探し」を再開する。 中屋敷哲と重太郎。七十年前に交錯した二人の思い。 そして、たどり着いた〝絵が描かれた場所〟で、愛は、曾祖父らの思いの先に、自分自身が立っていたことを知る――。 ※ この話は「カクヨム」様のサイトにも投稿しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

信仰の国のアリス

初田ハツ
青春
記憶を失った女の子と、失われた記憶の期間に友達になったと名乗る女の子。 これは女の子たちの冒険の話であり、愛の話であり、とある町の話。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

眩魏(くらぎ)!一楽章

たらしゅー放送局
青春
大阪城を観光していた眩魏(くらぎ)は、クラシックギターの路頭ライブをするホームレスの演奏を聞き、感動する。 そして、学校の部活にクラシックギター部があることを知り入部するも、、、 ドキドキワクワクちょっぴり青春!アンサンブル系学園ドラマ!

処理中です...