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第四章 18
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急に頭に酸素が回ったレーツェルが、両腕に絡みついた村人の腕を引き千切り、素早く屈んでショーテルを手にした。
『……』
屈んだレーツェルに村人達が視線を落とした。
直後、それらの首が次々に切り落とされる。
もちろんレーツェルがやったのだ。
再び立ち上がりショーテルを構えるレーツェル。
その視界には、臆することもなく近付いてくる村人たちの姿が、映っていた。
――あと、何人だ?
数えたくても、村人の攻撃が許してくれなかった。
その攻撃は、動きこそゆっくりとしていたが、奴らには疲労という感覚がないため、間断なく襲ってくる。
じわじわと、レーツェルを追い詰めていく。
少しずつだが、ショーテルを持つ腕の力が衰えてきているのが実感できた。
呼吸も荒くなるが、どうも酸素が体に行き渡らない。
そのためか、反射速度も鈍くなっているようだ。
「おい。しっかりしろ!」という、砕封魔の言葉すら、どこか遠くで聞こえたような気がした。
――まさか。もう、限界とは……。
もう少しで、念願の敵討ちを果たせるというのに……。
「……っ!」
レーツェルが、意識を保つために唇を噛んだ。
一筋の血液が、首を伝って地面に落ちていく。
――まだ、死ねない!
レーツェルが、残りの力を振り絞って、敵に向かって跳び出そうとした時だった。
何かが聞こえたのだ。
「な、何やここは!?」
振り返ると、プルシャの出入口に見知らぬ三人組が、状況を掴めず呆気に取られていた。
いや、違う。
一人だけ見覚えがある。
レーツェルの目が、思わず大きくなり、ショーテルを落としそうになった。
今戦っていることを忘れてしまったのか、そのまま立ち尽くしてしまった。
「シェ、シェ――」
レーツェルの言葉が途切れた。
首が突然捻じ曲がり、体ごと吹き飛ばされてしまった。
村人の不意打ちを喰らってしまったのだ。
しかし、そんなことは今はどうでも良い。
「な、何で……」
全身傷だらけになったレーツェルの視界には、慄きながら周囲を忙しなく見回すシェリーの姿があった。
立ち上がることもままならなず、ただシェリーに向かって右手を伸ばすことだけが精一杯のレーツェル。
一方シェリーは、そんなレーツェルに気付いたは良いが、突然見知らぬ男に名前を呼ばれてしまったため、ただ恐怖心を増すばかりだった。
「……誰なの?」
「……」
予想外の言葉に、レーツェルの右手が力なく地面に落ちてしまった。
そんな彼の視界には、顔を青ざめさせながら、ゆっくりと自分から遠ざかるシェリーが映っていた。
――そんな。……何で、こんなことに……。
レーツェルの目から、熱いものが込み上げてきていた。――そんな彼の視線の向こうで、三人、つまり組長と若頭、そしてシェリーが敵の放つ枝によって縛り上げられてしまった。
「な、なんや、この枝は!?」
若頭が慌てふためきながら、ドスを振り回そうとするが、その腕すら枝に自由を奪われてしまった。
直後、ついさっきまで喚き散らしていた若頭たちの声が、急に途絶えた。
枝の集合体が、彼らを取り込んでしまったのだ。
「……」
そんな光景を目にしながらも、レーツェルは体を動かすことができなくなっていた。
体力が限界に近かったのもあるが、村人たちによって踏みつけられていたのだ。
踏みつけられたせいなのか、目の前の人間を助けられないせいなのか、それとも会いたくても会えないと思っていた人に冷たく扱われたせいなのか。――とにかく、全身が痛かった。
そんな彼の視界の端で、テレーゼが他の村人を次々に斬り倒していた。
軽やかに跳躍を繰り返し、まるで蝶のように舞い、日本刀を華麗に振るっていた。
その度に、敵が言葉にならない呻き声を上げながら、あるいは発する間もなく倒れていく。
そして、若頭たちを取り込んだ枝を一刀両断。――バタリと枝が倒れると同時に、中の人間たちが外へ投げ出された。
『……』
屈んだレーツェルに村人達が視線を落とした。
直後、それらの首が次々に切り落とされる。
もちろんレーツェルがやったのだ。
再び立ち上がりショーテルを構えるレーツェル。
その視界には、臆することもなく近付いてくる村人たちの姿が、映っていた。
――あと、何人だ?
数えたくても、村人の攻撃が許してくれなかった。
その攻撃は、動きこそゆっくりとしていたが、奴らには疲労という感覚がないため、間断なく襲ってくる。
じわじわと、レーツェルを追い詰めていく。
少しずつだが、ショーテルを持つ腕の力が衰えてきているのが実感できた。
呼吸も荒くなるが、どうも酸素が体に行き渡らない。
そのためか、反射速度も鈍くなっているようだ。
「おい。しっかりしろ!」という、砕封魔の言葉すら、どこか遠くで聞こえたような気がした。
――まさか。もう、限界とは……。
もう少しで、念願の敵討ちを果たせるというのに……。
「……っ!」
レーツェルが、意識を保つために唇を噛んだ。
一筋の血液が、首を伝って地面に落ちていく。
――まだ、死ねない!
レーツェルが、残りの力を振り絞って、敵に向かって跳び出そうとした時だった。
何かが聞こえたのだ。
「な、何やここは!?」
振り返ると、プルシャの出入口に見知らぬ三人組が、状況を掴めず呆気に取られていた。
いや、違う。
一人だけ見覚えがある。
レーツェルの目が、思わず大きくなり、ショーテルを落としそうになった。
今戦っていることを忘れてしまったのか、そのまま立ち尽くしてしまった。
「シェ、シェ――」
レーツェルの言葉が途切れた。
首が突然捻じ曲がり、体ごと吹き飛ばされてしまった。
村人の不意打ちを喰らってしまったのだ。
しかし、そんなことは今はどうでも良い。
「な、何で……」
全身傷だらけになったレーツェルの視界には、慄きながら周囲を忙しなく見回すシェリーの姿があった。
立ち上がることもままならなず、ただシェリーに向かって右手を伸ばすことだけが精一杯のレーツェル。
一方シェリーは、そんなレーツェルに気付いたは良いが、突然見知らぬ男に名前を呼ばれてしまったため、ただ恐怖心を増すばかりだった。
「……誰なの?」
「……」
予想外の言葉に、レーツェルの右手が力なく地面に落ちてしまった。
そんな彼の視界には、顔を青ざめさせながら、ゆっくりと自分から遠ざかるシェリーが映っていた。
――そんな。……何で、こんなことに……。
レーツェルの目から、熱いものが込み上げてきていた。――そんな彼の視線の向こうで、三人、つまり組長と若頭、そしてシェリーが敵の放つ枝によって縛り上げられてしまった。
「な、なんや、この枝は!?」
若頭が慌てふためきながら、ドスを振り回そうとするが、その腕すら枝に自由を奪われてしまった。
直後、ついさっきまで喚き散らしていた若頭たちの声が、急に途絶えた。
枝の集合体が、彼らを取り込んでしまったのだ。
「……」
そんな光景を目にしながらも、レーツェルは体を動かすことができなくなっていた。
体力が限界に近かったのもあるが、村人たちによって踏みつけられていたのだ。
踏みつけられたせいなのか、目の前の人間を助けられないせいなのか、それとも会いたくても会えないと思っていた人に冷たく扱われたせいなのか。――とにかく、全身が痛かった。
そんな彼の視界の端で、テレーゼが他の村人を次々に斬り倒していた。
軽やかに跳躍を繰り返し、まるで蝶のように舞い、日本刀を華麗に振るっていた。
その度に、敵が言葉にならない呻き声を上げながら、あるいは発する間もなく倒れていく。
そして、若頭たちを取り込んだ枝を一刀両断。――バタリと枝が倒れると同時に、中の人間たちが外へ投げ出された。
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