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第四章 17
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『……』
レーツェルとユズハがプルシャの中に入ると、村人のバグ化やまるで自我が芽生えたかのように動いている枝たちの異様な雰囲気に、一瞬言葉を失っていた。
しかし、そんな村人たちでさえ、何かに気を取られるように一様に上を見上げていたので、自然とその視線につられて上を見ると、二人はさらに驚きを隠せなかった。
『!』
一人の女性が、枝によって吊るし上げられていたのだ。
ユズハが思わず、大きな声を上げてしまった。
「テレーゼ!? 何でここに?」
その声が辺りに波及すると、村人たちの視線が一瞬にして二人に集中してしまった。
じわじわと二人に迫りくる村人たち。
「気をつけろ! コイツらみんなバグだ!」という砕封魔の忠告は、もう二人の耳には届かなかった。
息を呑みながらゆっくりと後退るユズハの前方で、レーツェルがショーテルを抜刀し切先を村人たちに向けて構え出した。
「いやっ!」
しかし、彼の背後から聞こえてきたユズハの悲鳴が、集中力を鈍らせる結果となってしまった。
慌てて振り返ると、ユズハが死角から現れた村人の伸びる手足によって全身を羽交い絞めにされていたのだ。
レーツェルが、その村人の手足を斬ろうと駆け出したが、両足が何かに払われて無様に転がってしまった。
足元に目を転じると、別の村人の両手が彼の足を掴んでいたのだ。
「くっ!」
悔し紛れに喉を鳴らしながら、刃先をその手に向かって滑り込ませ――切断。
直後、村人の呻き声を背負いながら、再びユズハに向かって駆け出した。
その速度は凄まじく、何しろ、自我が消えた村人が目を丸くするほどだった。
一瞬にして目的地に到達していた。
刹那、村人の手足を切り払う。ついでに首も斬り落とした。
「下がっていろ!」と振り返りもせずに、ユズハに告げると、構えながら迫りくる村人の数を数えだした。
――五〇人はいない、か……。
と、視線を左右に振っていると、何かが聞こえ、急に跳躍した。
どうやら、低空飛行しながら足払いをする手足の風音に気付いたようだ。
跳躍しながらそれを確認すると、重力に引っ張られ始めると同時にショーテルを、その村人に向けた。
直後、村人の脳天に突き刺さり、切先がその勢いのまま地面まで到達――村人が縦に真っ二つに割れてしまった。
息吐く暇なく、屈んだ状態のまま、間合いに集まっていた村人の膝頭を一周しながら斬りつけた。
『……』
時間差で、村人たちがバランスを崩しながら転がっていく。――その頭部を、踏みつけるか、ショーテルで切断していく。
――まずは、一〇人か。
そんな“仲間”の屍を、何の感慨もなく踏みつけながら、なおも迫りくる村人たち。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
そんな敵を目にしながら、レーツェルの息が上がっていく。
やる気があるのに、体が付いてこない。
普段なら、もう少し動けるが、さっきの村の中での戦闘に加え、ユズハにも気を配りながら動くには、限界がある。
――“手”が足りない……。
その時だった。
何処からか声がしたのだ。
「おい。こっちだ!」
声のする方へ視線を彷徨わせると、なんと地面に転がっている日本刀から聞こえてくるではないか。
「説明してる暇はねぇ! とりあえず、“俺”を戦闘に加えろ!」
「……」
一瞬、得体の知れない者に対しての不信感が脳内を埋め尽くし、躊躇してしまうレーツェルに対し、砕封魔が語気を強めた。
「早くしろ!」
そんな日本刀の言葉は、なぜかレーツェルを信用させるほどの力を持っていた。
その間も、なおも迫り来る村人たちの壁を飛び越え、日本刀を手にしたのだ。――と認識する暇もなく、刀を握っていた左手が勝手に動き出す。
「!」
「左側は、俺に任せろ!」
理屈がどうなっているのか分からないが、勝手に動く左手に戸惑いを隠せなかったが、今はそんな状況ではない。
四方から近付いてくる村人に対し、両腕が左右に水平方向へ滑り込んでいく。
『!』
同時に、左右一体ずつの村人が、言葉にならないうめき声を上げ、絶命する。
その勢いのまま、レーツェルのそれぞれの腕が、目にも留まらない速さで振られていく。
あまりにも見えない速度のために、ユズハや村人でさえ、レーツェルが攻撃を仕掛けていることに実感が湧いていなかった。
ただ、両腕が“消えた”ように見えただけだった――。
しかし、歩みを進めてくる村人が、確実に絶命し地面に倒れていく様を見せつけられてしまえば、さすがに恐怖を覚えざるを得なかった。
もっとも、村人に感情があれば、の話だが……。
レーツェルが前方にいる三人に向かって、ショーテルを素早く三連続の刺突。
それぞれの胴体に大きな風穴が開くと共に、無言で倒れていく。
それと同時に、背後で何かが倒れる音が、連続で聞こえた。
左腕が勝手に後方へ向いていた。
「まずは、二人!」
どうやら喋る日本刀が、背後にいた村人を始末したらしい。
そんな砕封魔の“報告”を耳にしながら、レーツェルが、前方にいる村人に向かって攻撃を仕掛けようと――できなかった。
「!?」
レーツェルの目が、弾かれたように見開かれた。
何と前に駆け出そうと右足を踏み込み上半身を前のめりにしたが、突然左腕が後方に向かって動き出したのだ。
「馬鹿野郎! そっちじゃねぇ!」
砕封魔だ。
どうやら、後方の敵を始末しようとしたらしいが、レーツェルと意思を異にしたために、動きがバラバラになってしまったようだ。
「こっちが先だ」
レーツェルの言葉の裏に、苛立ちが見え隠れしていた。
直後、やはり前方に駆け出そうとする。
しかし、左腕が邪魔をする。
「だから、そっちじゃねぇって!」
一人と一振りが揉めていると、地面から突然飛び出してきた鋭い枝が、レーツェルの下顎を目指して飛翔してきた。
気付くのに、ワンテンポ遅れてしまった。
レーツェルは首を反らせるだけで精一杯だった。
しかし、それだけでは、まだ枝をかわすには不充分だった。
刹那、ショーテルの刀身を、その軌道上に向かって振り下ろした。
これで、なんとか枝を切り払うことが出来る。――と思ったが、何故か刀身が軌道上から、ズレてしまった。
――またか!
左腕が勝手に動いていたのだ。
おかげで、右腕が揺れてしまい、ショーテルもそれに追随――“敵”を防ぐことも出来ず、レーツェルの下顎に枝の先が迫ってきていた。
「くっ!」
レーツェルが、右足で枝を無理矢理蹴り上げた。
おかげで、その軌道がズレて、寸でのところで回避する。
ただし、右頬を掠めてしまったため、切り傷が一線入ってしまったが……。
「おい。いい加減に――」
勝手に暴れる砕封魔を注意しようとするレーツェルの言葉が、突然遮られてしまった。
死角から現れた村人によって、首を絞められてしまったのだ。
時間差で、別々の村人が、それぞれ手足を取り押さえてしまった。
つまり、下顎を狙った枝は囮――。
そんなことを今更気付いても遅い。
村人の強い締め付ける力が思ったより強く、ショーテルが地面に落ちてしまった。
絶体絶命か……。
「……」
レーツェルが、諦めの境地に達したのか、無言で目をつむり全身の力を抜いてしまった。
その時だった。
「上にいる女に向かって、“俺”を投げるんだ!」
砕封魔だ。
「……」
「早く!」
レーツェルが、言われたとおりに日本刀を投げようとしたが、もはやそんな力は残されていなかった。
刀が、空しく地面に転がった。
いや、違う。
突然、地面に転がったはずの日本刀が、何と頭上のテレーゼに向かって飛んでいったのだ。
良く見ると、刀に白くて長いものが巻き付いている。
糸だ。
まるで、意思を持っているかのように、刀に巻き付き、テレーゼの右手に向かって飛んでいったのだ。
物陰に隠れていたユズハの仕業だ。
直後、テレーゼが砕封魔を受け取った。
「てめーら、覚悟は出来てんだろうなぁ!」
砕封魔はそう言いながら、刀を勢い良く振ると、まずはテレーゼを縛り上げていた枝を切り払う。
同時に落下しながら、切先を一人の村人の頭頂部をめがけて――突き刺した。
おかげで、レーツェルの首を絞めていた村人が、絶命。
地面に転がった。
レーツェルとユズハがプルシャの中に入ると、村人のバグ化やまるで自我が芽生えたかのように動いている枝たちの異様な雰囲気に、一瞬言葉を失っていた。
しかし、そんな村人たちでさえ、何かに気を取られるように一様に上を見上げていたので、自然とその視線につられて上を見ると、二人はさらに驚きを隠せなかった。
『!』
一人の女性が、枝によって吊るし上げられていたのだ。
ユズハが思わず、大きな声を上げてしまった。
「テレーゼ!? 何でここに?」
その声が辺りに波及すると、村人たちの視線が一瞬にして二人に集中してしまった。
じわじわと二人に迫りくる村人たち。
「気をつけろ! コイツらみんなバグだ!」という砕封魔の忠告は、もう二人の耳には届かなかった。
息を呑みながらゆっくりと後退るユズハの前方で、レーツェルがショーテルを抜刀し切先を村人たちに向けて構え出した。
「いやっ!」
しかし、彼の背後から聞こえてきたユズハの悲鳴が、集中力を鈍らせる結果となってしまった。
慌てて振り返ると、ユズハが死角から現れた村人の伸びる手足によって全身を羽交い絞めにされていたのだ。
レーツェルが、その村人の手足を斬ろうと駆け出したが、両足が何かに払われて無様に転がってしまった。
足元に目を転じると、別の村人の両手が彼の足を掴んでいたのだ。
「くっ!」
悔し紛れに喉を鳴らしながら、刃先をその手に向かって滑り込ませ――切断。
直後、村人の呻き声を背負いながら、再びユズハに向かって駆け出した。
その速度は凄まじく、何しろ、自我が消えた村人が目を丸くするほどだった。
一瞬にして目的地に到達していた。
刹那、村人の手足を切り払う。ついでに首も斬り落とした。
「下がっていろ!」と振り返りもせずに、ユズハに告げると、構えながら迫りくる村人の数を数えだした。
――五〇人はいない、か……。
と、視線を左右に振っていると、何かが聞こえ、急に跳躍した。
どうやら、低空飛行しながら足払いをする手足の風音に気付いたようだ。
跳躍しながらそれを確認すると、重力に引っ張られ始めると同時にショーテルを、その村人に向けた。
直後、村人の脳天に突き刺さり、切先がその勢いのまま地面まで到達――村人が縦に真っ二つに割れてしまった。
息吐く暇なく、屈んだ状態のまま、間合いに集まっていた村人の膝頭を一周しながら斬りつけた。
『……』
時間差で、村人たちがバランスを崩しながら転がっていく。――その頭部を、踏みつけるか、ショーテルで切断していく。
――まずは、一〇人か。
そんな“仲間”の屍を、何の感慨もなく踏みつけながら、なおも迫りくる村人たち。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
そんな敵を目にしながら、レーツェルの息が上がっていく。
やる気があるのに、体が付いてこない。
普段なら、もう少し動けるが、さっきの村の中での戦闘に加え、ユズハにも気を配りながら動くには、限界がある。
――“手”が足りない……。
その時だった。
何処からか声がしたのだ。
「おい。こっちだ!」
声のする方へ視線を彷徨わせると、なんと地面に転がっている日本刀から聞こえてくるではないか。
「説明してる暇はねぇ! とりあえず、“俺”を戦闘に加えろ!」
「……」
一瞬、得体の知れない者に対しての不信感が脳内を埋め尽くし、躊躇してしまうレーツェルに対し、砕封魔が語気を強めた。
「早くしろ!」
そんな日本刀の言葉は、なぜかレーツェルを信用させるほどの力を持っていた。
その間も、なおも迫り来る村人たちの壁を飛び越え、日本刀を手にしたのだ。――と認識する暇もなく、刀を握っていた左手が勝手に動き出す。
「!」
「左側は、俺に任せろ!」
理屈がどうなっているのか分からないが、勝手に動く左手に戸惑いを隠せなかったが、今はそんな状況ではない。
四方から近付いてくる村人に対し、両腕が左右に水平方向へ滑り込んでいく。
『!』
同時に、左右一体ずつの村人が、言葉にならないうめき声を上げ、絶命する。
その勢いのまま、レーツェルのそれぞれの腕が、目にも留まらない速さで振られていく。
あまりにも見えない速度のために、ユズハや村人でさえ、レーツェルが攻撃を仕掛けていることに実感が湧いていなかった。
ただ、両腕が“消えた”ように見えただけだった――。
しかし、歩みを進めてくる村人が、確実に絶命し地面に倒れていく様を見せつけられてしまえば、さすがに恐怖を覚えざるを得なかった。
もっとも、村人に感情があれば、の話だが……。
レーツェルが前方にいる三人に向かって、ショーテルを素早く三連続の刺突。
それぞれの胴体に大きな風穴が開くと共に、無言で倒れていく。
それと同時に、背後で何かが倒れる音が、連続で聞こえた。
左腕が勝手に後方へ向いていた。
「まずは、二人!」
どうやら喋る日本刀が、背後にいた村人を始末したらしい。
そんな砕封魔の“報告”を耳にしながら、レーツェルが、前方にいる村人に向かって攻撃を仕掛けようと――できなかった。
「!?」
レーツェルの目が、弾かれたように見開かれた。
何と前に駆け出そうと右足を踏み込み上半身を前のめりにしたが、突然左腕が後方に向かって動き出したのだ。
「馬鹿野郎! そっちじゃねぇ!」
砕封魔だ。
どうやら、後方の敵を始末しようとしたらしいが、レーツェルと意思を異にしたために、動きがバラバラになってしまったようだ。
「こっちが先だ」
レーツェルの言葉の裏に、苛立ちが見え隠れしていた。
直後、やはり前方に駆け出そうとする。
しかし、左腕が邪魔をする。
「だから、そっちじゃねぇって!」
一人と一振りが揉めていると、地面から突然飛び出してきた鋭い枝が、レーツェルの下顎を目指して飛翔してきた。
気付くのに、ワンテンポ遅れてしまった。
レーツェルは首を反らせるだけで精一杯だった。
しかし、それだけでは、まだ枝をかわすには不充分だった。
刹那、ショーテルの刀身を、その軌道上に向かって振り下ろした。
これで、なんとか枝を切り払うことが出来る。――と思ったが、何故か刀身が軌道上から、ズレてしまった。
――またか!
左腕が勝手に動いていたのだ。
おかげで、右腕が揺れてしまい、ショーテルもそれに追随――“敵”を防ぐことも出来ず、レーツェルの下顎に枝の先が迫ってきていた。
「くっ!」
レーツェルが、右足で枝を無理矢理蹴り上げた。
おかげで、その軌道がズレて、寸でのところで回避する。
ただし、右頬を掠めてしまったため、切り傷が一線入ってしまったが……。
「おい。いい加減に――」
勝手に暴れる砕封魔を注意しようとするレーツェルの言葉が、突然遮られてしまった。
死角から現れた村人によって、首を絞められてしまったのだ。
時間差で、別々の村人が、それぞれ手足を取り押さえてしまった。
つまり、下顎を狙った枝は囮――。
そんなことを今更気付いても遅い。
村人の強い締め付ける力が思ったより強く、ショーテルが地面に落ちてしまった。
絶体絶命か……。
「……」
レーツェルが、諦めの境地に達したのか、無言で目をつむり全身の力を抜いてしまった。
その時だった。
「上にいる女に向かって、“俺”を投げるんだ!」
砕封魔だ。
「……」
「早く!」
レーツェルが、言われたとおりに日本刀を投げようとしたが、もはやそんな力は残されていなかった。
刀が、空しく地面に転がった。
いや、違う。
突然、地面に転がったはずの日本刀が、何と頭上のテレーゼに向かって飛んでいったのだ。
良く見ると、刀に白くて長いものが巻き付いている。
糸だ。
まるで、意思を持っているかのように、刀に巻き付き、テレーゼの右手に向かって飛んでいったのだ。
物陰に隠れていたユズハの仕業だ。
直後、テレーゼが砕封魔を受け取った。
「てめーら、覚悟は出来てんだろうなぁ!」
砕封魔はそう言いながら、刀を勢い良く振ると、まずはテレーゼを縛り上げていた枝を切り払う。
同時に落下しながら、切先を一人の村人の頭頂部をめがけて――突き刺した。
おかげで、レーツェルの首を絞めていた村人が、絶命。
地面に転がった。
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