44 / 67
第三章 17
しおりを挟む 目を覚ました時、医務室のベッドの上だった。発情Ωの女客を連れてきた時の記憶がすぐに蘇った。
先生の姿が霞んで見える。
「……た? ……うぶ?」
先生が何かを言っているみたいだけど、まだ頭がぼんやりして聞き取れない。
そういえば、俺はなんでこんなところにいるんだ?
今日は確か、パーティー会場の助っ人で働いてて……。
そうだ! リアム様に発情して、ジェイクが助けてくれたんだった!!
ジェイクはあれからどうなったんだろう。パーティーは無事終わったのだろうか。
はぁ。明日は料理長に怒られるんだろうな。
怒られて終わりならまだいい。次に住み込みで働かせてもらえるところがすぐに見つかればいいんだけど……。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
医務室の先生の声がようやくはっきりと聞こえた。
先生は初老くらいの女性だが、小柄で大人しそうな見た目とは裏腹に、活発で身のこなしが軽い。しかも力も強い。
俺が連れてきた女性も腕を力付くで固定して抑制剤の注射を打っていた。
きっと俺のことも一人でさっさと治療したのだろう。
「あの、俺どのくらい寝てたんですか?」
「そうね、一晩ぐっすり寝たってところじゃない?」
「え? もう朝なんですか?」
「そうよ。何か急ぎの用事でも?」
「早く厨房に行かないと!! 料理長に怒られる!!」
慌ててベッドから飛び降り、飛び出そうとすると、床に足をついた流れで膝の力が抜けそのままへたり込んだ。
「あらあら、急に動いちゃダメよ! ほら、横になって!!」
自分よりも小柄な先生に体を支えてもらってベッドに戻る。
「昨日のホールが忙しすぎて倒れたってことにしてあるから。私からも3日ほど休まないといけないって話つけてるから。仕事の心配はしなくていいわよ」
ぐいぐいと俺の体をベッドに押さえつけながら先生が言った。
「あの、ありがとう」
休めるのはありがたいが、これは料理長に俺がΩってバレたんだよな。
自業自得とは言え、ショックは大きい。
「あの、三日間ってここで寝れるってこと?」
「ああ、まぁベッドが足りなくなることはないからいいわよ。でも自分の部屋の方がリラックスできるんじゃないの?」
「いや、でももう……」
自分の部屋なんて残ってるのか……。
βしか従業員になれないというルールがあるこのホテルで、Ωとバレてしまえばおしまいだ。
せめてこのまま誰にも会わずに……。
「別に、あなたがΩなんて言ってないわよ」
「えっ? なんで? だって、このホテルは……」
「まあね、それはそうなんだけど。昨日あなたのヒートを知らせてくれた従業員に頼まれたのよ。Ωっていうことは誰にも言わないでくださいって」
「ジェイクが……」
あんなことをしてしまったのに。どこまで優しいやつなんだ!!
熱くなった目頭を腕で拭う。
また会えたらお礼を言おう。まあ、会えることなんてないかもしれないけどな。
先生に甘えて、本当に三日間を医務室で寝て過ごした。
先生は抑制剤を持たせてくれた。一番軽い、副作用もほとんどないやつだから、毎日飲みなさいって笑顔で怒られた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
過去作にもオメガバース作品があります。
『転生したら淫紋が刻まれていたΩの俺~運命の番は闇堕ち王子~』
『家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた優美なαが出会い愛を知る』
こちらも是非お楽しみください。
先生の姿が霞んで見える。
「……た? ……うぶ?」
先生が何かを言っているみたいだけど、まだ頭がぼんやりして聞き取れない。
そういえば、俺はなんでこんなところにいるんだ?
今日は確か、パーティー会場の助っ人で働いてて……。
そうだ! リアム様に発情して、ジェイクが助けてくれたんだった!!
ジェイクはあれからどうなったんだろう。パーティーは無事終わったのだろうか。
はぁ。明日は料理長に怒られるんだろうな。
怒られて終わりならまだいい。次に住み込みで働かせてもらえるところがすぐに見つかればいいんだけど……。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
医務室の先生の声がようやくはっきりと聞こえた。
先生は初老くらいの女性だが、小柄で大人しそうな見た目とは裏腹に、活発で身のこなしが軽い。しかも力も強い。
俺が連れてきた女性も腕を力付くで固定して抑制剤の注射を打っていた。
きっと俺のことも一人でさっさと治療したのだろう。
「あの、俺どのくらい寝てたんですか?」
「そうね、一晩ぐっすり寝たってところじゃない?」
「え? もう朝なんですか?」
「そうよ。何か急ぎの用事でも?」
「早く厨房に行かないと!! 料理長に怒られる!!」
慌ててベッドから飛び降り、飛び出そうとすると、床に足をついた流れで膝の力が抜けそのままへたり込んだ。
「あらあら、急に動いちゃダメよ! ほら、横になって!!」
自分よりも小柄な先生に体を支えてもらってベッドに戻る。
「昨日のホールが忙しすぎて倒れたってことにしてあるから。私からも3日ほど休まないといけないって話つけてるから。仕事の心配はしなくていいわよ」
ぐいぐいと俺の体をベッドに押さえつけながら先生が言った。
「あの、ありがとう」
休めるのはありがたいが、これは料理長に俺がΩってバレたんだよな。
自業自得とは言え、ショックは大きい。
「あの、三日間ってここで寝れるってこと?」
「ああ、まぁベッドが足りなくなることはないからいいわよ。でも自分の部屋の方がリラックスできるんじゃないの?」
「いや、でももう……」
自分の部屋なんて残ってるのか……。
βしか従業員になれないというルールがあるこのホテルで、Ωとバレてしまえばおしまいだ。
せめてこのまま誰にも会わずに……。
「別に、あなたがΩなんて言ってないわよ」
「えっ? なんで? だって、このホテルは……」
「まあね、それはそうなんだけど。昨日あなたのヒートを知らせてくれた従業員に頼まれたのよ。Ωっていうことは誰にも言わないでくださいって」
「ジェイクが……」
あんなことをしてしまったのに。どこまで優しいやつなんだ!!
熱くなった目頭を腕で拭う。
また会えたらお礼を言おう。まあ、会えることなんてないかもしれないけどな。
先生に甘えて、本当に三日間を医務室で寝て過ごした。
先生は抑制剤を持たせてくれた。一番軽い、副作用もほとんどないやつだから、毎日飲みなさいって笑顔で怒られた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
過去作にもオメガバース作品があります。
『転生したら淫紋が刻まれていたΩの俺~運命の番は闇堕ち王子~』
『家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた優美なαが出会い愛を知る』
こちらも是非お楽しみください。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる