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第三章 10
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一方ユズハは、既に退室していた。
だから、レッド達の会話も聞いていなかった。
それも、他の連中が食事に手を付けないのを、これ幸いと、残りの食事を瞬く間に平らげてから、だ。
――味は、まぁまぁね。
ユズハの表情が少し明るくなったが、すぐに沈んでいく。同時に、腹の虫が騒いでいる。
――腹の虫飼っておくのも、楽じゃないわね。
「……」
――私じゃないのよ。腹の虫が、“お腹空いた”って言うのよ?
一体、誰に言い訳しているのか。
廊下を当てもなく彷徨い、いくつかの扉を開けていく。
まずは隣の部屋からだ。
そこはもぬけの殻だった。いや、少し違う。照明がなかったので、目が慣れるまで時間が掛かったのだ。
たしかに室内には、家具類は一切ない。それどころか二、三人がやっと入れる広さで、窓一つすらない。
いや、そんな狭い一室の壁から光が漏れている。
窓かとも思ったが、この方角だと、そうではない。
「……」
ユズハが恐る恐る四角い光を覗き込んだ。
「――そんな」
思わず声が漏れた。
やはり、窓ではないようだ。そのガラスの向こうで、レッドが喋っている姿が見えたのだ。
マジックミラーだ。
隣の部屋の動向を監視するために、備え付けられたらしい。
一体誰が、覗いていたというのか。
もちろん、過去に取り付けた可能性だってある。
だからといって、決して良い趣味ではない。
だが良く見ると、古臭い壁の割に、ガラスの取り付け部分が新しい。どうやら最近取り付けられたようだ。
まるで、自分達が来るのを知っているようだった。
もしそれが本当なら、ブラウンの話すら、真実味が薄れてしまう。
――早く、レッド達に教えないと!
その時だった。後頭部に鈍い痛みを覚えたのだ。
「!」
壁に顔面を強打し、意識が落ちてしまう。――その直前、視線を動かした。
「ブ……」
――ブラウン。何で……。
視界に入ったのは、彼女の後ろで不敵な笑みを浮かべるブラウンだった。
そして、ユズハの意識が途切れてしまった。
*
「――で、これからどうする?」
レッドがベッドに座り、砕封魔に話しかけた。
「これから、ねぇ」
「もう、俺は何を信じたら良いか分からないよ。彼女の言っていることも二転三転しているし……」
「ふん。女の涙も目薬だったし。なぁ?」
「……」
レッドが視線を逸らした。
「今更、何言ってやがる。結局、自分でついていきた癖によぉ」
「ち、違う。あれはだなぁ――」
しどろもどろになるレッドの言葉を、砕封魔が遮った。
「それにしても、あの二人帰ってこねぇな」
「何処かで食べ物でも探しているんじゃないのか?」
レッドの言葉に、砕封魔が溜息を吐いた。
「……お前と一緒にするな。――それより、おかしくねぇか」
「何がだよ」
「この部屋見ても気付かねぇのか?」
「立派な部屋だと思うがな」
「そう。立派なのに、家具がねぇ。まぁ。床に跡が残ってるから、昔は置いてあったんだろうが……。それが、何かの理由で外された。特にあの鏡が置いてある壁――そこには、多分大きな箪笥か何かが置いてあったんだろう」
「なるほど、箪笥を片付けてまで鏡を設置する方が変か? だが、それだけでは理由にはならないぞ。ただ単に、飽きっぽい家主で、頻繁に模様替えしてただけかもしれないだろ」
「確かに、そうかもしれねぇ。だが――」
直後、テレーゼの右手が動き、刀を鏡に投げつけた。突き刺さった鏡が、大きな音を響かせながら、破片を撒き散らした。
「これは……?」
鏡があった空間を覗き込む。さっき、ユズハが入り込んだ部屋だ。
「マジックミラーだよ」
「誰かが覗いていたって言うのか」
「そうみてぇだな」
「それじゃあ。あの二人も危ない!?」
「あれ? あの嬢ちゃん達のこと嫌いじゃなかったの?」
「からかっている場合か!」
レッドが慌ててドアノブを回すも、固くて動かない。鍵が掛かっているらしい。
その直後、天井から何本もの鉄の棒が床に向かって突き刺さっていく。窓にも格子が降りて来た。
今度は四方の壁から、何本もの鉄棒が飛び出して来た。
これで瞬く間に、四方に鉄格子が出来上がり、立派な牢獄の完成だ。
「な、何だぁ!?」
突然現れた鉄格子に、驚いたレッドが床に転がった。
「随分、手の込んだことしてくれるじゃねぇか」
一方、砕封魔は割れた鏡――隣の部屋で、転がっている。
「嬉しがっている場合か!」
レッドがツッコんでいると、今度は天井から複数の人間が飛び降りて来た。
全員黒尽くめだ。この間の、エルザの兄の“そっくりな”バグと同じ格好だ。
「からくりの多い部屋だね。まったく」
「何、呑気なことを言っているんだ! お前だって手が出ないじゃないか!」
レッドの言葉に偽りはない。
現に、刀の持たないテレーゼは、まるで人形のように立っているだけだったからだ。
結局、彼女は砕封魔の操り人形に過ぎない――。
そんな二人のやり取りを無視し、レッドやテレーゼに黒尽くめ達が近づいていく。
レッドがテレーゼの足元に掴まり、恐怖に身を震わせている。
目を瞑り、今まで信じていなかった神に助けを求めていた……。
だから、レッド達の会話も聞いていなかった。
それも、他の連中が食事に手を付けないのを、これ幸いと、残りの食事を瞬く間に平らげてから、だ。
――味は、まぁまぁね。
ユズハの表情が少し明るくなったが、すぐに沈んでいく。同時に、腹の虫が騒いでいる。
――腹の虫飼っておくのも、楽じゃないわね。
「……」
――私じゃないのよ。腹の虫が、“お腹空いた”って言うのよ?
一体、誰に言い訳しているのか。
廊下を当てもなく彷徨い、いくつかの扉を開けていく。
まずは隣の部屋からだ。
そこはもぬけの殻だった。いや、少し違う。照明がなかったので、目が慣れるまで時間が掛かったのだ。
たしかに室内には、家具類は一切ない。それどころか二、三人がやっと入れる広さで、窓一つすらない。
いや、そんな狭い一室の壁から光が漏れている。
窓かとも思ったが、この方角だと、そうではない。
「……」
ユズハが恐る恐る四角い光を覗き込んだ。
「――そんな」
思わず声が漏れた。
やはり、窓ではないようだ。そのガラスの向こうで、レッドが喋っている姿が見えたのだ。
マジックミラーだ。
隣の部屋の動向を監視するために、備え付けられたらしい。
一体誰が、覗いていたというのか。
もちろん、過去に取り付けた可能性だってある。
だからといって、決して良い趣味ではない。
だが良く見ると、古臭い壁の割に、ガラスの取り付け部分が新しい。どうやら最近取り付けられたようだ。
まるで、自分達が来るのを知っているようだった。
もしそれが本当なら、ブラウンの話すら、真実味が薄れてしまう。
――早く、レッド達に教えないと!
その時だった。後頭部に鈍い痛みを覚えたのだ。
「!」
壁に顔面を強打し、意識が落ちてしまう。――その直前、視線を動かした。
「ブ……」
――ブラウン。何で……。
視界に入ったのは、彼女の後ろで不敵な笑みを浮かべるブラウンだった。
そして、ユズハの意識が途切れてしまった。
*
「――で、これからどうする?」
レッドがベッドに座り、砕封魔に話しかけた。
「これから、ねぇ」
「もう、俺は何を信じたら良いか分からないよ。彼女の言っていることも二転三転しているし……」
「ふん。女の涙も目薬だったし。なぁ?」
「……」
レッドが視線を逸らした。
「今更、何言ってやがる。結局、自分でついていきた癖によぉ」
「ち、違う。あれはだなぁ――」
しどろもどろになるレッドの言葉を、砕封魔が遮った。
「それにしても、あの二人帰ってこねぇな」
「何処かで食べ物でも探しているんじゃないのか?」
レッドの言葉に、砕封魔が溜息を吐いた。
「……お前と一緒にするな。――それより、おかしくねぇか」
「何がだよ」
「この部屋見ても気付かねぇのか?」
「立派な部屋だと思うがな」
「そう。立派なのに、家具がねぇ。まぁ。床に跡が残ってるから、昔は置いてあったんだろうが……。それが、何かの理由で外された。特にあの鏡が置いてある壁――そこには、多分大きな箪笥か何かが置いてあったんだろう」
「なるほど、箪笥を片付けてまで鏡を設置する方が変か? だが、それだけでは理由にはならないぞ。ただ単に、飽きっぽい家主で、頻繁に模様替えしてただけかもしれないだろ」
「確かに、そうかもしれねぇ。だが――」
直後、テレーゼの右手が動き、刀を鏡に投げつけた。突き刺さった鏡が、大きな音を響かせながら、破片を撒き散らした。
「これは……?」
鏡があった空間を覗き込む。さっき、ユズハが入り込んだ部屋だ。
「マジックミラーだよ」
「誰かが覗いていたって言うのか」
「そうみてぇだな」
「それじゃあ。あの二人も危ない!?」
「あれ? あの嬢ちゃん達のこと嫌いじゃなかったの?」
「からかっている場合か!」
レッドが慌ててドアノブを回すも、固くて動かない。鍵が掛かっているらしい。
その直後、天井から何本もの鉄の棒が床に向かって突き刺さっていく。窓にも格子が降りて来た。
今度は四方の壁から、何本もの鉄棒が飛び出して来た。
これで瞬く間に、四方に鉄格子が出来上がり、立派な牢獄の完成だ。
「な、何だぁ!?」
突然現れた鉄格子に、驚いたレッドが床に転がった。
「随分、手の込んだことしてくれるじゃねぇか」
一方、砕封魔は割れた鏡――隣の部屋で、転がっている。
「嬉しがっている場合か!」
レッドがツッコんでいると、今度は天井から複数の人間が飛び降りて来た。
全員黒尽くめだ。この間の、エルザの兄の“そっくりな”バグと同じ格好だ。
「からくりの多い部屋だね。まったく」
「何、呑気なことを言っているんだ! お前だって手が出ないじゃないか!」
レッドの言葉に偽りはない。
現に、刀の持たないテレーゼは、まるで人形のように立っているだけだったからだ。
結局、彼女は砕封魔の操り人形に過ぎない――。
そんな二人のやり取りを無視し、レッドやテレーゼに黒尽くめ達が近づいていく。
レッドがテレーゼの足元に掴まり、恐怖に身を震わせている。
目を瞑り、今まで信じていなかった神に助けを求めていた……。
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