ジャンク・ボンド~気になるアイツは、強すぎてランク外になったようです~

銀崎 暁樹

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第二章 8

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 「……ここです」


 レッドは、父親に振り回された腕の痛みに顔を歪ませていた。


 そんなレッドは、例の親子を連れて、“ホウセンカ”という看板の掲げられた建物の前に立っていた。


 協会の建物だ。


 といっても、あまりにも粗末な代物だった。高い塀の内側にあるという安心感が、材料費をケチった理由らしい。


 おかげで、建物は木や蔓、バグの骨で形作られていた。


 隙間だらけの扉が、そっと触れるだけで、簡単に開いた。


 なかに入ると、正面の奥に受付が見えた。右側に視界を転じると、ランクに応じた依頼の掲示板があり、そこに様々な人種が群がっていた。


 逆の左側には階段があり、そこを指差しながらレッドが、「上は酒場で、皆さんが情報交換の場と活用しています」と、親子に説明していた。


 『…………』


 あまりの盛況ぶりに、呆然とする親子。――果たして、そんな彼らの耳に自身の説明が届いているのか、レッドは疑問だったが、とりあえず受付に向かった。


 受付には、不機嫌なのか、それともそういう顔なのか、仏頂面の中年男性が座っていた。


 どうやら不機嫌らしく、頬杖をつきながら、もう片方の指でカタカタと台を叩いていた。


 レッドが恐る恐る「あ、あのー」と話しかける。


 受付の視線が、ギロリとゆっくりと動いた。


 「……はい」


 鋭い眼光に気後れしながらも、レッドが続けた。


 「あのー。この方がリュウランゼになりたいと……」


 「どの方?」


 「だ、だから、この方。――あれ?」


 レッドが慌てて辺りを見回した。


 さっきまで後ろについて来ていたはずの親子が、何処にもいないのだ。


 いや……いた。


 良く見ると、血気盛んな筋骨隆々の集団に、揉みくちゃにされていたのだ。


 「め、面目な――」言葉すらも揉みくちゃにされている。――たった今、手だけが見えた。


 その手を掴み、人込みという嵐のなかから、レッドが父親を救助した。少年は、人の隙間を掻い潜り、自力で脱出していた。


 「何しているんですか!」


 受付が、膝に手をつきながら肩で呼吸している父親に、白い目を向けた。「……この人?」


 「はい。そうです!」


 父親の代わりに、レッドが答えた。


 「ハ、ハハハ……。面目ないです」


 「……え? “めんぼ、くない”さん?」


 「違う! ていうか、わざとでしょ!」


 今度はレッドの息が荒くなる。


 「そんなに怒らないの。寿命縮むよ? この商売、ただでさえ危ないんだからぁ」


 「何で急に口尖らせてんの。可愛くないよ!」


 レッドが思いっきり台を叩いた。


 「そんなにいじめないでよ。いじめて良いのは、バグだけ」と言いながら、受付が申込用紙を差し出した。


 レッドが、「何それ、協会の標語じゃないのよね? ていうか何キャラ?」とブツブツ言いながら、用紙を受け取り、父親に渡した。


 紙をもらった父親が、いそいそと記入して受付に提出する。


 その紙を眺めながら、受付が「ええっと。“アイザック”さんね。――それで、得物は?」と聞き返した。


 何故か急にアイザックが、しどろもどろになる。「それが、その……」


 どうやらアイザックの態度が、気に障ったらしい。受付の声が急に大きくなる。


 「アンタも、私をイジメるんですか!」


 昂った感情に任せて台を叩いた。


 「私はこの仕事に就いて四十年! 人に笑われないように仕事をして来たつもりでした。それなのに……」


 今度は、大袈裟な身振りで泣き真似を始めた。


 そこへレッドが、「四十年? 若いですねぇ。今何歳なんですか」と、素朴に疑問を述べた。


 「――今年ちょうど四十歳」


 何処かで、誰かの頭を殴る音がした。


 頭にたんこぶを生やした受付が、真顔で「――で、得物は?」と聞いて来た。


 アイザックが観念したように、「……これです」と一本の棒を台の上に置いた。


 「これは?」


 アイザックが恥ずかしそうに答えた。「木刀……です」


 受付の目がみるみる吊り上がっていく。「やっぱり、私をイジメて楽しんでいるんですね! あれから四十年――」


 また、誰かが殴られている。


 たんこぶが増えた受付が、真顔で「……分かりました。一応テストしてみましょう」と承諾した。


 *


 テストは主にバグを始末する能力――つまり“反射神経”と“攻撃力”。


 それと、過酷な環境でも生き残れる能力――“精神力”と“サバイバル能力”の四種類を試すものだ。


 「どうぞ。こちらへ」


 レッド達は、受付の台の後ろに案内された。


 なかは、思ったより広かった。少なくとも、長屋のレッドの部屋より数倍広かった。


 そんな空間に、人間の二、三倍はあろうかという人影が、彼らの視界を遮っていた。


 良く見ると、金属で出来ているのか、鈍い光を帯び、その背中からは無数のスチームパイプが床下に伸びていた。


 そして何故か胸にネームプレートが……。


 「“南極28号”?」呆れ顔のレッドが読み上げる。


 そんな彼を後目に、受付が目を輝かせながら嬉々として説明する。


 「そうです! これが、私が夜寝ないで昼寝して造った、究極のテストマシーン!」


 「……いや、夜寝ろよ。ていうか、アンタが造ったの? ていうか夜寝てないから、不機嫌だったの!?」


 レッドのツッコみを無視し、受付がテストの説明を始めた。


 「このマシンでテストするのは、反射神経と攻撃力です。マシンの攻撃を避けながら、頭、胸、肩、腕、足――の何処かに、自身の得意な方法で攻撃してください。ダメージで、その箇所の色が変化します。その色で攻撃力を判断します」


 「何色になると合格なんですか?」


 「まず、ダメージが少ないと変化ありません。その後、青、黄、赤へと変化します。そして、黄と赤が、次のテストに進めます」


 父アイザックが「わ、分かりました」と木刀を持つ手を硬くした。

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