14 / 67
第二章 6
しおりを挟む
店主に気づいた父親が、血相を変えて、さらに大袈裟に手を振り出した。まるで手旗信号だ。「もしもーし!」
だが、レッドは怒りに我を忘れ、周囲が見えていない。「な、何を!? 俺だって主体的に動けるぞ!」
この言葉の直後だった。
店主が、怒りに任せて拳を大きく振り始めたのだ。その勢いは凄まじく、レッドの背後で風音が轟音となって、周囲に響いていた。
しかしレッド達は気づかない。
いや、そうじゃないようだ。片方は気づいていた。
刀が「“主体性”だぁ? その前に、背後霊を退治したらどうなんだよ!」と発しながら、レッドの体を屈ませたのだ。
「!?」
おかげで、勢い余った店主が、レッドの頭上を飛び越えて地面に突っ込んでしまった。何だか、体が縮んだようにさえ見えた。
店主が痛みに耐えながら、「この!」と怒りに身を任せて振り返った。
だが、その勢いはすぐに消え去った。なぜなら、眼前に刀の切っ先を突き付けられていたからだ。
結局、黙るしかない店主。
刀が、レッドの口を使って「……何か?」と凄んでみた。
すると店主の表情が固まり「……いえ。なんでも」としか、言葉が出なくなっていた。まるで、借りてきた猫だ。
刀が「そうか。――なら、去れ」と発すると、店主は「は、はいぃぃぃ!」と一目散に逃げてしまった。
そんな必死な店主の背中が、小さくなるのを確認すると、レッド達はようやくその場を後にしようと足を出した。――そんな彼らの背中に、別の声が掛けられた。
「あ、ありがとうございました」
振り返ると、何度も何度も頭を下げる父親の姿があった。
一方、そんな父親の隣で、ライナスが「ペコペコして、父ちゃん情けないよ」とぼやいていた。
その言葉に、父親は諫める訳でもなく、「ハ、ハハハ……。面目ない」と、口元を綻ばせるだけだった。
それでも、少年は父親への追及を止めない。
「早くリュウランゼになって、母ちゃんの敵取ってよ。でも無理か。――父ちゃん弱いんだからっ!」
少年の容赦ない追及に、周囲が“どっ”と沸いた。砕封魔も一緒だ。
「……」
しかし、何故かレッドだけは複雑な表情を浮かべていた。眉間に皺を寄せながら、それでも口元は笑みを浮かべている。――そんな表情だ。
一方砕封魔は、少年に「確かに、こりゃあ情けねぇ父親だね。まったく」と話しかけながら、一人で笑っていた。
ライナスが口を尖らせる。「……父ちゃんなんか、いなくなれば良いのに」
この言葉に、刀が相槌を打った。「違いねぇ」
そんな一人と一振の会話を、父親が情けなく笑いながら聞いていた。「面目ない」
「…………」
けれど、レッド一人だけ拳を震わせていた。どうやら、何かに怒りを覚えているようだ。
そして、レッドの我慢がとうとう限界を迎えたらしい。さっきまで硬く握られていた拳が、少年の胸倉を掴んでいた。
「自分の親を、“いらない”だって!」
激昂するレッドの声に、周囲が突然静寂に包まれた。足を止めた通行人が、予想外の展開に眼を丸くする。
「……?」
当然ライナスも、一体今何が起きたのか分からず、同様に目を丸くするだけだった。……いや、口元が小刻みに震えだした。それどころか、目頭から水滴のようなものが溢れ、ついには頬を伝っていた。
「……!」
突然、ライナスの大きな泣き声が響きだした。
そんな少年の泣き声と、刀の「あーあ。泣かせてちまった」という恨み節が、レッドの意識を現実に引き戻した。慌てて、胸倉を掴んだ手を放してしまっていた。
おかげでライナスの体が落下し、泣き声がさらに大きくなってしまった。
『…………』
さっきまで丸くなっていた通行人の目が、白い目となってレッドに向かって突き刺さっていく。
そんな視線の集中砲火を浴びて、レッドが慌てて弁解を試みようとする。「ち、違うんです! これは――」しかし、上手く言葉が出て来ない。
それに対し父親は、「こ、こちらこそご迷惑をお掛けしました」と何度も頭を下げながら、泣きじゃくるライナスの手を引っ張り、立ち去ろうとしている。
一方少年は父親の手を振り解きながら、勢いよく駆けていった。
「こ、こらライナス。言うことを聞いてくれよぉ」
遠ざかり小さくなっていく息子の背中を、父親が追いかけようとするが、緩慢な動きのせいか、なかなか追いつけない。
そんな何処までも情けない父親に、周囲の白い目に怖気づいたレッドが声をかけた。
「あ、あのー。……お腹空いてきませんか?」
その声が聞こえたのか、足を止めたのは遠くにいたライナスの方だった。同時に、腹の虫が盛大に鳴っていた。
「大したものは、奢れませんけど。ヘへへ……」
レッドが恥ずかしそうに、はにかんだ。
そんな彼に対し、刀が呟いた。
「主体性、ね……」
だが、レッドは怒りに我を忘れ、周囲が見えていない。「な、何を!? 俺だって主体的に動けるぞ!」
この言葉の直後だった。
店主が、怒りに任せて拳を大きく振り始めたのだ。その勢いは凄まじく、レッドの背後で風音が轟音となって、周囲に響いていた。
しかしレッド達は気づかない。
いや、そうじゃないようだ。片方は気づいていた。
刀が「“主体性”だぁ? その前に、背後霊を退治したらどうなんだよ!」と発しながら、レッドの体を屈ませたのだ。
「!?」
おかげで、勢い余った店主が、レッドの頭上を飛び越えて地面に突っ込んでしまった。何だか、体が縮んだようにさえ見えた。
店主が痛みに耐えながら、「この!」と怒りに身を任せて振り返った。
だが、その勢いはすぐに消え去った。なぜなら、眼前に刀の切っ先を突き付けられていたからだ。
結局、黙るしかない店主。
刀が、レッドの口を使って「……何か?」と凄んでみた。
すると店主の表情が固まり「……いえ。なんでも」としか、言葉が出なくなっていた。まるで、借りてきた猫だ。
刀が「そうか。――なら、去れ」と発すると、店主は「は、はいぃぃぃ!」と一目散に逃げてしまった。
そんな必死な店主の背中が、小さくなるのを確認すると、レッド達はようやくその場を後にしようと足を出した。――そんな彼らの背中に、別の声が掛けられた。
「あ、ありがとうございました」
振り返ると、何度も何度も頭を下げる父親の姿があった。
一方、そんな父親の隣で、ライナスが「ペコペコして、父ちゃん情けないよ」とぼやいていた。
その言葉に、父親は諫める訳でもなく、「ハ、ハハハ……。面目ない」と、口元を綻ばせるだけだった。
それでも、少年は父親への追及を止めない。
「早くリュウランゼになって、母ちゃんの敵取ってよ。でも無理か。――父ちゃん弱いんだからっ!」
少年の容赦ない追及に、周囲が“どっ”と沸いた。砕封魔も一緒だ。
「……」
しかし、何故かレッドだけは複雑な表情を浮かべていた。眉間に皺を寄せながら、それでも口元は笑みを浮かべている。――そんな表情だ。
一方砕封魔は、少年に「確かに、こりゃあ情けねぇ父親だね。まったく」と話しかけながら、一人で笑っていた。
ライナスが口を尖らせる。「……父ちゃんなんか、いなくなれば良いのに」
この言葉に、刀が相槌を打った。「違いねぇ」
そんな一人と一振の会話を、父親が情けなく笑いながら聞いていた。「面目ない」
「…………」
けれど、レッド一人だけ拳を震わせていた。どうやら、何かに怒りを覚えているようだ。
そして、レッドの我慢がとうとう限界を迎えたらしい。さっきまで硬く握られていた拳が、少年の胸倉を掴んでいた。
「自分の親を、“いらない”だって!」
激昂するレッドの声に、周囲が突然静寂に包まれた。足を止めた通行人が、予想外の展開に眼を丸くする。
「……?」
当然ライナスも、一体今何が起きたのか分からず、同様に目を丸くするだけだった。……いや、口元が小刻みに震えだした。それどころか、目頭から水滴のようなものが溢れ、ついには頬を伝っていた。
「……!」
突然、ライナスの大きな泣き声が響きだした。
そんな少年の泣き声と、刀の「あーあ。泣かせてちまった」という恨み節が、レッドの意識を現実に引き戻した。慌てて、胸倉を掴んだ手を放してしまっていた。
おかげでライナスの体が落下し、泣き声がさらに大きくなってしまった。
『…………』
さっきまで丸くなっていた通行人の目が、白い目となってレッドに向かって突き刺さっていく。
そんな視線の集中砲火を浴びて、レッドが慌てて弁解を試みようとする。「ち、違うんです! これは――」しかし、上手く言葉が出て来ない。
それに対し父親は、「こ、こちらこそご迷惑をお掛けしました」と何度も頭を下げながら、泣きじゃくるライナスの手を引っ張り、立ち去ろうとしている。
一方少年は父親の手を振り解きながら、勢いよく駆けていった。
「こ、こらライナス。言うことを聞いてくれよぉ」
遠ざかり小さくなっていく息子の背中を、父親が追いかけようとするが、緩慢な動きのせいか、なかなか追いつけない。
そんな何処までも情けない父親に、周囲の白い目に怖気づいたレッドが声をかけた。
「あ、あのー。……お腹空いてきませんか?」
その声が聞こえたのか、足を止めたのは遠くにいたライナスの方だった。同時に、腹の虫が盛大に鳴っていた。
「大したものは、奢れませんけど。ヘへへ……」
レッドが恥ずかしそうに、はにかんだ。
そんな彼に対し、刀が呟いた。
「主体性、ね……」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ワンダラーズ 無銘放浪伝
旗戦士
ファンタジー
剣と魔法、機械が共存する世界"プロメセティア"。
創国歴という和平が保証されたこの時代に、一人の侍が銀髪の少女と共に旅を続けていた。
彼は少女と共に世界を周り、やがて世界の命運を懸けた戦いに身を投じていく。
これは、全てを捨てた男がすべてを取り戻す物語。
-小説家になろう様でも掲載させて頂きます。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる