ジャンク・ボンド~気になるアイツは、強すぎてランク外になったようです~

銀崎 暁樹

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第二章 4

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 ユズハは、自分の顔より大きい肉の塊にかぶり付いていた。


 屋台の軒先で、二人は向き合って座っていた。


 どうやら、飲み屋の通りに来たらしく、陽がまだ高いというのに、赤ら顔の連中が千鳥足で、往来している。そんな連中のアルコールで消毒された口からは、下品な言葉が吐き出されていた。


 「……」


 一方、その姿を呆れ顔で見つめるレッド。


 その視線に気付いたのか、ユズハが嫌そうに見返してきた。


 「何よ」


 「……別に」レッドが視線を逸らした。いや、吐き気を催した。


 ――ある意味飯テロだよ。刀と別の意味で、胃が……。


 「あ。そう。ていうか、何であんなところにいたの?」


 素っ気なく反応したユズハは、再び肉を頬貼っていた。


 「いや、別に――ちょっと万引きしに」


 また、刀が割り込んだ。


 「万引き?」


 ユズハの肉を食べる手が、ようやく止まる。


 「ち、違うよ! ただ買い物してて……。そうだ。買い物だよ。テレーゼが毒に侵されて、解毒剤が欲しかったんだ」


 レッドが必死に、自分に言い聞かせるように発した。何故か冷汗でびっしょりだ。


 ユズハが、レッドの言動に眉根を寄せながらも、反応した。


 「そう。あの娘、毒にやられちゃったんだ。大変ね」


 “大変ね”という割には、反応はやはり素っ気なかった。肉には、並々ならぬ興味があるというのに。


 「金貰って、運んできておいて。そんな言い草ないんじゃないのか?」


 「ていうかさぁ。昨日私、だいぶ糸使っちゃったのよねぇ」


 「……は?」


 レッドは気のない返事をするしかなかった。ピンと来なかったのだ。目の前の肉食女子は、何を言いたいのか?


 「あの店しか扱ってないのよ。しかも、値段が高くて高くて……」と、向かいの店を指差すユズハ。


 「……で?」


 「ねぇ。払ってよ」


 「はぁ!?」


 レッドの声が、辺りに響いた。周囲の人々が、怪訝そうに通り過ぎていく。


 「いいじゃない。だって、アンタ助けるのに使ったんだから」


 「まぁ。確かに。でも、俺金ないし……」


 「実は金になる話があるの!」


 ユズハの笑顔は、危険な臭いしかしなかった。本能が、“止めておけ!”と叫んでいた。

 それなのに、レッドは口元を引き攣らせるだけだった。もしかしたら、ユズハが言っていたことを気にしたのかもしれない。


 ――まぁ。糸を弁償しろっていわれるのも一理あるしなぁ……。


 そんなレッドの思考を読み取った刀が、呆れ声で呟いた。もちろんレッドの口を使って。


 「何で、恩を感じる必要がある? あの時、俺達に協力しなければ、コイツも死んでたんだぞ」


 “コイツ”といいながら、レッドの右人差し指が勝手にユズハを指した。


 「コ、コイツ!?」


 ユズハが、ここに来て初めて本当に反応した。顔を赤くさせながら、テーブルに勢い良く手をついて立ち上がったのだ。おかげで、残りの肉塊が地面に落ちた。


 ――何で、コイツ呼ばわりしたことに怒るんだ? 金の方はどうでも良いのかよ。


 と、レッドが心中でツッコミながら、慌てて弁解しようとする。


 「い、いや、刀が勝手に――」


 レッドが言い終わらない内に、乾いた音が辺りに響いた。右頬が痛い。目にも映らない速さでビンタが飛んできたらしい。どうやら右手で肉を持っていたため、左手が飛んできたようだ。


 ――今度は右かよ……。


 レッドの体は吹き飛び、地面とキスしていた。


 そんな彼の哀れな背中を見下しながら、ユズハは息を荒くする。


 「協力してもらっていいわね?」


 「……はい」


 レッドの声は、地面に吸い込まれた。


 ユズハが、地面に突っ伏したレッドの背中に向かって発した。その様はまるで仁王の如く、腕組みをしながら、ピクリとも動かない彼を見下していた。


 「いいわね。明後日、依頼主に会ってもらうわよ」


 一方レッドは慌てて正座をし、口の中の砂を吐き出しながら「……はい」と、答えるしかなかった。


 そんな項垂れる彼の呟きを確認するまでもなく、ユズハはまた肉を頬張りながら、その場を後にしていた。

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