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31-1.夢1夢の終わり

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 気がつくと、ふわりふわりと魚のシルエットが漂う、優しい青の光が揺らめく不思議な空間に、立っていた。

「斉藤くん」

 少し離れたところに佇む彼に、声をかける。
 服装も、お互い今日のままだ。

「今日は、ずいぶんと抽象的な夢だね」
「うん、今日は疲れてすぐに寝ちゃったから」
「そっか。イメージが定まらずに寝ると、こんな感じになるんだね」

 魚の光るシルエットに触れると、ふわっと周囲に溶けるように消えてなくなる。

 今日は、土曜日の夜だから、週に1度の夢で会う日だ。
 前回の夢は、美味しいお菓子もあって、アリスモチーフの風景も可愛かったことを思い出す。

「そういえば、残りのラムネ交換しない? 斉藤くんの夢の中の方が、私、好きだな」

 前回思ったことを、お願いしてみる。そうすれば、妄想の内容に気を遣う必要もない。

「しないよ。減ったとはいえ、まだたまに悪夢も見る。そんな夢に引きこみたくないし」
「そっか」

 悪夢が減ったのは、私の影響だったら嬉しいな。
 なんて。
 どうなのかな。

「それに、前回招待する側に立って分かったんだ。招待してもらう側だと、絶対怖い夢を見ないで済む安心感があるんだなって。桜ちゃんが待ってると思うと、安心して寝られるんだ」
「そんなこと言われたら、招待するしかないなぁ」
「でしょ」

 私は怖い夢なんて、ほとんど見ない。
 小さい頃、なまはげに日本刀を持って追いかけられる夢を見たことがあって、その恐怖は何年か経った今でも覚えている。
 だから、私の手で少しでも阻止できるなら、そうしたい。

「悪夢減ってきたのは、よかったね」
「ああ、愛の力かな」

 斉藤くんは冗談めかして笑うと、私をぎゅっと抱きしめた。

「まだ悪夢を見る時があるのなら、私の愛が足りないのかな」

 私も、ぎゅっと抱き返す。
 同時に、私の後ろに大きなベッドを出現させ、脱がせやすいように後ろチャックのワンピースに服も変えた。
 夢に合わせて、水の中を小さな魚が泳いでいる柄にした。

「愛を、もっと俺にくれるって?」

 さっきとは違う服と、私の背後を見ながら、くすりと笑ってキスをする。

 最初は優しく、輪郭を辿るような柔らかいキスをして、見つめあった。
 彼の瞳に、私が映っている。
 物欲しそうな顔をしていて、恥ずかしくて顔を伏せた。

「どうした?」

 くっと顎を持ち上げられる。

「自分が斉藤くんの瞳に映ってて、恥ずかしくなった」
「これから、もっと恥ずかしいことをするのに?」
「斉藤くんって、言葉攻めする人だったんだ」
「桜ちゃんの妄想を参考にさせてもらいました」
「ぐっ」

 ぐうの音も出ない。
 反論できない私を確認するように優しく頬をなで、今度は深いキスを交わす。

 舌がからみ、口の中の敏感なところを舐められ、背中にぶるるっと快感が走った。

 私だけが感じているとしたら、フェアじゃない。

 荒い呼吸のままに、何度も開いた口の向きを変えながら、私も挑戦的に舌で攻める。

 襲いたいって、思って。
 脱がせたいって、思って。
 愛もエロスもごっちゃになって、私の全部を欲しがって。

「……っ、脱がせていい?」
「いいよ」

 今日は、自分から裸にはならない。
 求められてるって、感じたい。

 チャックを下ろす音が聞こえる。
 緊張感が高まる。

 バサリとワンピースが1枚の布のように落ちた。
 綺麗な水色だから、足元に水たまりが広がっているようだ。

 前で留めている白い紐ブラを、ゆるりとほどかれ、それも下に落ちる。

 一度軽くキスをして、腰を支えられるようにしながら、後ろのベッドに座り、そのまま絡まるようにして倒れこんだ。

 ベッドのすみっこすぎて落ちそうなので、えいっとベッドを大きくする。

「便利だね」
「うん、便利すぎて、現実でもできるような錯覚に陥りそう」

 上から私を見下ろす斉藤くんは、新鮮だ。

 もう一度、深く深くキスをしながら、抱き合う。
 斉藤くんの手が、何もまとっていない胸に触れ、柔らかく包むような揉み方に、身体の芯から熱くなっていく。

「ね、斉藤くんも脱いで? 私だけじゃ、恥ずかしいよ」
「魔法は使わないんだ?」
「そこは、雰囲気重視で」
「雰囲気、か。難しいな」

 斉藤くんが、1枚1枚服を脱いでいく。いつもは服で隠れている肌と肌が触れ合うのは初めてだ。
 ドキドキしながら、脱ぎ終わるのを待つ。

 ボクサーパンツ1枚になった彼が、もう一度、私の上に来ると「好きだよ」と言い、私も同じ言葉を交わしながら抱きあった。

「今日は最後まで、夢が覚めずにできるかな」

 何となくそう言った私に、彼は気まずそうな顔で、さらさらと私の頭をなでた。

「夢で最後までは、しないよ」

 期待を打ち砕くような言葉に、ショックを受ける。

「しない、の?」

 掠れた声で、そう聞いた。
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