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28.嫉妬

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次の土曜、トリプルデートの日になった。

「こうなる予感はしてた」

 楓が、電車に揺られながら、気まずそうに言う。
 水族館に現地集合とはしていたものの、待ち合わせの時間が同じだ。私と斉藤くんと楓は家が近所で、どうしても同じ電車になり、ホームで会ってしまった。

「私もそうなると思ってたから、大丈夫だよ。そんな気ぃ回さないで」
「俺も。むしろ他のメンツとは話したこともほとんどないし、中学も一緒の柚木さんが一緒でよかったよ」
「ありがと。私に気にせず、イチャついてくれていいから」
「いやいやいやいや、人前でとかいう趣味ないから」

 斉藤くんから何とも言えない視線を感じるけど、無視をしよう。大方、先週の堤防キスか、私の妄想か、どちらかを思い出しているんだろう。

「柚木さんは、小学校から桜と一緒なんだよね。俺は中学からだからさ、ちょっと気になる。小学校の時の桜はどんな感じだったんだ?」
「そうだなー、縄跳びのセンスが壊滅的になかったかな。なぜ縄をわざわざ飛ばなくてはならないのか分からないとか、よく言ってた気がする」
「それは新情報だな」
「昔の桜のことなら、斉藤くんより私のが知ってるもんねー」
「私の過去を暴かないで」

 そういえば先週、斉藤くんと楓がしゃべっているところを見たら嫉妬するかもと思ったんだった。

 きっと、斉藤くんは居た堪れなさそうな楓のフォローのために、この話をしたんだと思う。
 楓も、分かっててそれに乗ってる。

 全部、理解できる。
 なのに、嫉妬している。

 こんなに狭量だったのかと、自分にがっかりだ。

 斉藤くんが、桜って呼び捨てにしてるのは嬉しい。恋人です感がある。
 でも、私も楓も『斉藤くん』って呼んでるのも、辛い。同じ土俵にいるような気分になる。

 こんなどうでもいいことで、恋人ですマウントを取りたくなるなんて、どうかしてる。どうかしてるけど、私も名前呼びにしておけばよかったと猛烈に後悔している。

 今、いきなりここで名前呼び捨ては、おかしすぎだし。
 近日中に何とかしたい。

「2人は分かんないんだよ。早々に足が絡まって、一番早く体育座りして待ってなきゃいけない惨めさを。縄なんて、飛ばなくていいじゃん」
「あー、あったね。誰が一番長く飛んでられるかって」
「どこでもあるんだな。俺の小学校でもあったよ」

 斉藤くんと楓が仲良くなることのメリットを考えよう。
 そうしたら、この嫉妬も収まるかもしれない。

 例えば、楓が彼氏をほしくなった時に、斉藤くんが誰かを紹介してあげられるかもしれないとか? 斉藤くんの友達なら、おかしな人はいないはず。
 後は、私たちが深刻な喧嘩をした時に、仲裁してもらいやすいとかは、あるのかな。

「他には?」
「他ねー、あ、今より恥ずかしがりやだったかな」
「例えば?」
「振り子の実験キットを授業中に作る時に、ハサミを忘れて困ってて、言い出せずに口で切ろうとするから、私が慌てて2つ隣の席から貸しに行ったことが……」
「もういいってばー、黒歴史を掘り返さないで」

 ほっとくと、忘れていた過去を蒸し返され続けてしまいそうだ。

「せっかくの機会だし、俺は知りたい」
「知らなくていいことは、知らないでいいの」
「私も、無駄に覚えてる思い出を、披露したい」
「結構です!」
「ちぇー」

 考えがまとまる前に、かなり仲良くなってる気がする。
 楓は優しいし、気遣いもできるし、小柄で守ってあげたい感じはするのに、女らしさは全面に出さず、話しやすい。
 気安い友達同士になっちゃったら、どうしよう。私よりも一緒にいて楽しい存在になっちゃったら。

「じゃ、桜の小学生の頃の素敵エピソードの話に移ろうかな」
「お、いいね」
「もういい、もういいよ、終わろうよー」

 そんな、たわい無い話をしながら、軽い嫉妬や不安を感じつつ、水族館へと向かった。
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