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20-3.夢1痴漢列車
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気付くとそこは、電車の中だった。
向かいには、制服姿の斉藤くん。
私も、制服だ。
他に人はいない。ラムネの効果で、相手以外の人はいなくなるのかもしれない。
「今日も会えたね、斉藤くん」
私は座席から立ち上がると、彼の真横に座った。
「そうだな。あのラムネに恐怖を感じてきたよ」
「うん。私も最近、食べるのに少し勇気がいる」
「だよな」
私は何となく手を前に突き出すと、電車の外の風景を変化させた。
「おっ、今日は宇宙か」
「そう。適当に銀河系を出現させてみた。宇宙デートも素敵でしょ?」
宇宙の中を曲がりくねった線路が縦横無尽に走っている。ロマンチックな宇宙列車をイメージしたものの、遊園地の3Dアトラクションに近くなってしまった気がする。
「何かが足りない気がする。何か、斉藤くん出してほしいものある?」
「いきなり聞かれてもなぁ。花火とか?」
「花火! 宇宙に花火!」
斬新だ。早速、打ち上げてみよう。
バーンバーンと、色とりどりの花火をそこかしこに咲かせる。
オーソドックスな形、花の形、星の形、いちごの形に、りんごの形、ゴーヤはどうだろう?
「趣旨が分かんねー」
「ちょっと趣味に走りすぎちゃったかも」
2人でのんびりゆったりと座席に座りながら、宇宙を眺め続ける。
まったりとした時間だ。
何かが足りない気がする。
何かが、物足りない。
むしろこの雰囲気、老後みたいだ。
「本物の斉藤くんだよね」
「ああ、本物だ」
「証明してみて」
「どうやって」
何か足りない気がする。
でもそれが何か、分からない。
「本物にしかないホクロとか?」
「照合できるの、明日になるだろ」
「それは、確かに」
何だろう。
いつもの斉藤くんと、態度が少しだけ違うのかな。
そもそも、何が違うんだろ。
しばらく綺麗な景色を見ながら考えて、やっと気がついた。
「あー! 今日、妄想見せてって言われてない! 見せてほしがる素振りもない。絶対おかしいよ。本物じゃないでしょ。ラムネ飲まないで寝ちゃって、あなた、私の想像の中の斉藤くんでしょ」
「えぇー、それが基準なの? 俺は、本物だって、本物」
「じゃぁ、なんで妄想見せてって言わないの」
我ながら、言いがかりにも程がある。昨日、これっきりもう見せないと言ったのは自分だ。反省して、もうやめようと思ったのかもしれないのに、問い詰めるなんて、わがまますぎる。
分かっているのに、関心を持たれないことを寂しく思ってしまう。
理由を聞きたくなってしまう。
嫌われたくないのに、鬱陶しい女の子になっている気がする。
「見たいって言って、見せてくれるなら言うけど」
「そ、それは見せないけど」
「だろ?」
平然と言う斉藤くんに、私が一人相撲でもしている気分になる。
「でも、なんかおかしいもん」
じわりと涙が滲む。
こんな訳の分からないことで泣きたくないのに、困らせるだけって分かっているのに、心臓をぎゅっと掴まれたように苦しい。
我ながら情緒不安定すぎる。
でも、求められていない感じがして、落ち着けない。
「おかしいって言われても、ちょ、泣くなよ。困ったな」
ぎゅっと抱きしめられた。
よかった、まだ好かれてはいるみたいだ。
「なんか、おかしいんだもん。関心持たれてないみたいに感じる」
はぁーっと溜息が頭に降ってきた。
「ご、ごめん。面倒だって思ってるよね。今日はお互いラムネ食べ忘れてたってことで、なかったことにする?」
いちいち面倒な女だな、と自分に突っ込みたい。正直、自分が男なら飛び蹴りでも食らわせたい気分だ。
「いいや。俺のつまらない葛藤みたいなのが伝わっちゃったってことかな」
「葛藤?」
「昨日、クラスでの妄想見せてくれただろ?」
「あ、うん、まぁ」
はっきり言葉にされると、返事がしにくい。
「架空の人物とはいえさ、いつも見てる風景での映像で頭に入ってきたから、後からちょっと微妙な気分になったっていうか」
「あぁ、浮気されたみたいな?」
確かに私も、妄想だったとしても他の女の子とイチャイチャしてる斉藤くんは見たくない。
あれ? でも今まで大丈夫だったってことは、どういうこと?
本当に好きになったのは昨日ってこと?
「今までのは現実感がなかったからよかったけど、昨日のはちょっと、クラスで思い出しそうだなって、ふと思って。今日もいつもの電車だろ? 通学中、思い出す自信がある」
「? 駄目なの? 私、よく学校でも軽く妄想してるけど」
「えぇ……」
少しの間、黙ったまま見つめられる。
もしかして、引かれてる?
「か、軽くだよ。今日の夜の妄想はどうしようかなーっとか」
「はー、ぼんやりしてることが多い夢見がちな女の子に見えるのに、その実がエロ妄想をいつも膨らませているだけだったとは」
「えー! エロい夢の中の私を先に好きになったみたいなこと言っておきながら、そんな引きながら言う!?」
「ぐ。痛いとこ突くな」
苦々しい顔をしつつ、彼は言った。
「男はね、勃つんだよ」
向かいには、制服姿の斉藤くん。
私も、制服だ。
他に人はいない。ラムネの効果で、相手以外の人はいなくなるのかもしれない。
「今日も会えたね、斉藤くん」
私は座席から立ち上がると、彼の真横に座った。
「そうだな。あのラムネに恐怖を感じてきたよ」
「うん。私も最近、食べるのに少し勇気がいる」
「だよな」
私は何となく手を前に突き出すと、電車の外の風景を変化させた。
「おっ、今日は宇宙か」
「そう。適当に銀河系を出現させてみた。宇宙デートも素敵でしょ?」
宇宙の中を曲がりくねった線路が縦横無尽に走っている。ロマンチックな宇宙列車をイメージしたものの、遊園地の3Dアトラクションに近くなってしまった気がする。
「何かが足りない気がする。何か、斉藤くん出してほしいものある?」
「いきなり聞かれてもなぁ。花火とか?」
「花火! 宇宙に花火!」
斬新だ。早速、打ち上げてみよう。
バーンバーンと、色とりどりの花火をそこかしこに咲かせる。
オーソドックスな形、花の形、星の形、いちごの形に、りんごの形、ゴーヤはどうだろう?
「趣旨が分かんねー」
「ちょっと趣味に走りすぎちゃったかも」
2人でのんびりゆったりと座席に座りながら、宇宙を眺め続ける。
まったりとした時間だ。
何かが足りない気がする。
何かが、物足りない。
むしろこの雰囲気、老後みたいだ。
「本物の斉藤くんだよね」
「ああ、本物だ」
「証明してみて」
「どうやって」
何か足りない気がする。
でもそれが何か、分からない。
「本物にしかないホクロとか?」
「照合できるの、明日になるだろ」
「それは、確かに」
何だろう。
いつもの斉藤くんと、態度が少しだけ違うのかな。
そもそも、何が違うんだろ。
しばらく綺麗な景色を見ながら考えて、やっと気がついた。
「あー! 今日、妄想見せてって言われてない! 見せてほしがる素振りもない。絶対おかしいよ。本物じゃないでしょ。ラムネ飲まないで寝ちゃって、あなた、私の想像の中の斉藤くんでしょ」
「えぇー、それが基準なの? 俺は、本物だって、本物」
「じゃぁ、なんで妄想見せてって言わないの」
我ながら、言いがかりにも程がある。昨日、これっきりもう見せないと言ったのは自分だ。反省して、もうやめようと思ったのかもしれないのに、問い詰めるなんて、わがまますぎる。
分かっているのに、関心を持たれないことを寂しく思ってしまう。
理由を聞きたくなってしまう。
嫌われたくないのに、鬱陶しい女の子になっている気がする。
「見たいって言って、見せてくれるなら言うけど」
「そ、それは見せないけど」
「だろ?」
平然と言う斉藤くんに、私が一人相撲でもしている気分になる。
「でも、なんかおかしいもん」
じわりと涙が滲む。
こんな訳の分からないことで泣きたくないのに、困らせるだけって分かっているのに、心臓をぎゅっと掴まれたように苦しい。
我ながら情緒不安定すぎる。
でも、求められていない感じがして、落ち着けない。
「おかしいって言われても、ちょ、泣くなよ。困ったな」
ぎゅっと抱きしめられた。
よかった、まだ好かれてはいるみたいだ。
「なんか、おかしいんだもん。関心持たれてないみたいに感じる」
はぁーっと溜息が頭に降ってきた。
「ご、ごめん。面倒だって思ってるよね。今日はお互いラムネ食べ忘れてたってことで、なかったことにする?」
いちいち面倒な女だな、と自分に突っ込みたい。正直、自分が男なら飛び蹴りでも食らわせたい気分だ。
「いいや。俺のつまらない葛藤みたいなのが伝わっちゃったってことかな」
「葛藤?」
「昨日、クラスでの妄想見せてくれただろ?」
「あ、うん、まぁ」
はっきり言葉にされると、返事がしにくい。
「架空の人物とはいえさ、いつも見てる風景での映像で頭に入ってきたから、後からちょっと微妙な気分になったっていうか」
「あぁ、浮気されたみたいな?」
確かに私も、妄想だったとしても他の女の子とイチャイチャしてる斉藤くんは見たくない。
あれ? でも今まで大丈夫だったってことは、どういうこと?
本当に好きになったのは昨日ってこと?
「今までのは現実感がなかったからよかったけど、昨日のはちょっと、クラスで思い出しそうだなって、ふと思って。今日もいつもの電車だろ? 通学中、思い出す自信がある」
「? 駄目なの? 私、よく学校でも軽く妄想してるけど」
「えぇ……」
少しの間、黙ったまま見つめられる。
もしかして、引かれてる?
「か、軽くだよ。今日の夜の妄想はどうしようかなーっとか」
「はー、ぼんやりしてることが多い夢見がちな女の子に見えるのに、その実がエロ妄想をいつも膨らませているだけだったとは」
「えー! エロい夢の中の私を先に好きになったみたいなこと言っておきながら、そんな引きながら言う!?」
「ぐ。痛いとこ突くな」
苦々しい顔をしつつ、彼は言った。
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