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18.突然の連絡

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 日曜日。
 朝から、朝食と昼食以外の時間ずっとテスト勉強をし続け、そろそろ疲れたなと3時を示す時計を見ながら伸びをした時だった。
 ケーブルを差したままのスマホが、机の上でブルっと震えた。

 通知を見ると、斉藤くんからのメッセージだ。

『今、数分でいいんだけど、空いてない?』

 電話したいって意味かな。
 私の声が聞きたいとか?
 我ながら、頭がハッピーになりすぎてる気がする。

『どうしたの?』

 そう送ると、すぐに返信がきた。

『今、桜ちゃんの家の側にいるんだけど。渡したいものがあって』

 文字を見た瞬間に固まる。
 家の側!?
 って、どこ!

 ガラガラと部屋の窓を開けて目の前の通りを覗き込むと、道路を挟んだ向こう側に、彼が佇んでこちらを見ていた。

 今行くと叫びたかったけれど、親に気づかれてしまう。
 あわあわした後、手をオッケーの形にすると、すぐにメッセージを送った。

『待ってて!』

 早く会いたくて、字数は短めにした。スマホと家の鍵だけ鞄に入れて、階段を降り、まずはリビングに向かう。

 キッチンから、トントンと包丁の音がした。お母さんが、夕飯の下ごしらえをしているんだろう。
 緩やかにカールした髪を1つに束ねた、年よりもちょっとだけ若く見えるお母さんに近寄る。

「お母さーん。勉強の小休憩に、散歩に行ってくるね」

 慌てている様子を微塵も見せず、さりげなくを装いながらそう言うと「え?」と不思議そうな声が返ってきた。何か、おかしな態度だったかなと思いながら、話を続ける。

「根詰めすぎて、疲れちゃったから」

 お母さんは、眉をひそめながら「待って」と言って包丁を置き、手を洗ってこちらに来ると、私の肩に手を置いた。
 何か失敗したのかと大きく動揺して、目が泳ぐ。

「な、な、何、お母さん」

 お母さんは大きく顔を振って、こう言った。

「確かに、根を詰めすぎているのかもね。着替えてから行ってらっしゃい」

 私、ジャージだ!!!
 しかも、ピンクジャージ!

 さっき、この恰好で斉藤くんとアイコンタクトしちゃったよ!

「あ、はは。うん、着替えてから気分かえてくるね」
「そうしなさい。行ってらっしゃい」

 大丈夫かなという視線を感じながらもう一度自室へ戻ると、急いで可愛い系の普段着に着替えてサンダルを履き、通りに出た。

「ごめん、遅くなって」

 玄関からは走って道路を渡り、すぐに彼に謝った。

「いや、こっちこそごめん」

 申し訳なさそうに彼が言う。手に持っている紙袋が、私に渡したいものだろうか。

「せっかくだし、公園に行こうよ。もうちょっと一緒にいたいし」
「あー、ごめんな。2日連続はさすがにと思って、渡すだけと思ってたんだけど」
「気にしないで。私は嬉しいよ、私のこと考えてくれたってことでしょ?」

 そう言うと、斉藤くんはなぜか目をつむって口元に手をやると、「あぁー……」と呟くと、「そうだな」と言って歩き始めた。

 並んでいる団地の中に入っていくので、おそらくその中央付近にあるこじんまりとした小さな公園に移動するんだろう。
 行くのは、小学生以来かもしれない。

 紙袋の中身はなんだろう。
 渡してくれると分かっていても、気になる。
 そもそも何で、何かくれる気になったのかな。

 あ! 分かった!
 夢の中で私、妄想を見せるお返しに何をしてくれるのかなって言っちゃったからだ、きっと。
 それで、何かしないとと思ってくれたんだ。よりにもよって、テスト前のこの時期に。

 相手への思いやりを持てば大丈夫なんて思っておきながら、変に気遣わせちゃったんだ。

 嬉しいのに、ズズンと罪悪感がのしかかる。

「私、のせいだよね。私があんなこと言ったから、何かしないとって思ってくれたんだよね」
「ん、え? あー、ああ。いや、関係ないよ。いや、関係なくはなかったのかな。いや、どうだろう」

 何とも煮え切らない返事が返ってきた。

「ごめん。私、あんまり考えずにしゃべっちゃうから、あーゆーの気にしなくていいよ? 重荷になりたくないし」
「いや、したくてしてるんだから、いいんだよ。着いたし、座ろ」

 小さすぎる公園は、錆びついてキィキィ鳴るブランコと鉄棒、すべり台とベンチしかない。少し歩けばもっと大きな公園があるせいか、この日は誰もいなかった。

 ペンキの剥げたベンチに座ると、斉藤くんがすぐに紙袋を開けた。

「よかったら、食べて。作ったから」

 中身は、カップケーキだった。
 ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「うわぁ!」

 つい、感嘆の声をあげる。
 美味しそうなのもあるけれど、私のために手間暇をかけてくれたのが分かったからだ。

 もしかして、もしかして。
 私、実はかなり好かれてるいるんじゃない?

 嬉しくて、泣いちゃいそうだ。
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