30 / 52
18.突然の連絡
しおりを挟む
日曜日。
朝から、朝食と昼食以外の時間ずっとテスト勉強をし続け、そろそろ疲れたなと3時を示す時計を見ながら伸びをした時だった。
ケーブルを差したままのスマホが、机の上でブルっと震えた。
通知を見ると、斉藤くんからのメッセージだ。
『今、数分でいいんだけど、空いてない?』
電話したいって意味かな。
私の声が聞きたいとか?
我ながら、頭がハッピーになりすぎてる気がする。
『どうしたの?』
そう送ると、すぐに返信がきた。
『今、桜ちゃんの家の側にいるんだけど。渡したいものがあって』
文字を見た瞬間に固まる。
家の側!?
って、どこ!
ガラガラと部屋の窓を開けて目の前の通りを覗き込むと、道路を挟んだ向こう側に、彼が佇んでこちらを見ていた。
今行くと叫びたかったけれど、親に気づかれてしまう。
あわあわした後、手をオッケーの形にすると、すぐにメッセージを送った。
『待ってて!』
早く会いたくて、字数は短めにした。スマホと家の鍵だけ鞄に入れて、階段を降り、まずはリビングに向かう。
キッチンから、トントンと包丁の音がした。お母さんが、夕飯の下ごしらえをしているんだろう。
緩やかにカールした髪を1つに束ねた、年よりもちょっとだけ若く見えるお母さんに近寄る。
「お母さーん。勉強の小休憩に、散歩に行ってくるね」
慌てている様子を微塵も見せず、さりげなくを装いながらそう言うと「え?」と不思議そうな声が返ってきた。何か、おかしな態度だったかなと思いながら、話を続ける。
「根詰めすぎて、疲れちゃったから」
お母さんは、眉をひそめながら「待って」と言って包丁を置き、手を洗ってこちらに来ると、私の肩に手を置いた。
何か失敗したのかと大きく動揺して、目が泳ぐ。
「な、な、何、お母さん」
お母さんは大きく顔を振って、こう言った。
「確かに、根を詰めすぎているのかもね。着替えてから行ってらっしゃい」
私、ジャージだ!!!
しかも、ピンクジャージ!
さっき、この恰好で斉藤くんとアイコンタクトしちゃったよ!
「あ、はは。うん、着替えてから気分かえてくるね」
「そうしなさい。行ってらっしゃい」
大丈夫かなという視線を感じながらもう一度自室へ戻ると、急いで可愛い系の普段着に着替えてサンダルを履き、通りに出た。
「ごめん、遅くなって」
玄関からは走って道路を渡り、すぐに彼に謝った。
「いや、こっちこそごめん」
申し訳なさそうに彼が言う。手に持っている紙袋が、私に渡したいものだろうか。
「せっかくだし、公園に行こうよ。もうちょっと一緒にいたいし」
「あー、ごめんな。2日連続はさすがにと思って、渡すだけと思ってたんだけど」
「気にしないで。私は嬉しいよ、私のこと考えてくれたってことでしょ?」
そう言うと、斉藤くんはなぜか目をつむって口元に手をやると、「あぁー……」と呟くと、「そうだな」と言って歩き始めた。
並んでいる団地の中に入っていくので、おそらくその中央付近にあるこじんまりとした小さな公園に移動するんだろう。
行くのは、小学生以来かもしれない。
紙袋の中身はなんだろう。
渡してくれると分かっていても、気になる。
そもそも何で、何かくれる気になったのかな。
あ! 分かった!
夢の中で私、妄想を見せるお返しに何をしてくれるのかなって言っちゃったからだ、きっと。
それで、何かしないとと思ってくれたんだ。よりにもよって、テスト前のこの時期に。
相手への思いやりを持てば大丈夫なんて思っておきながら、変に気遣わせちゃったんだ。
嬉しいのに、ズズンと罪悪感がのしかかる。
「私、のせいだよね。私があんなこと言ったから、何かしないとって思ってくれたんだよね」
「ん、え? あー、ああ。いや、関係ないよ。いや、関係なくはなかったのかな。いや、どうだろう」
何とも煮え切らない返事が返ってきた。
「ごめん。私、あんまり考えずにしゃべっちゃうから、あーゆーの気にしなくていいよ? 重荷になりたくないし」
「いや、したくてしてるんだから、いいんだよ。着いたし、座ろ」
小さすぎる公園は、錆びついてキィキィ鳴るブランコと鉄棒、すべり台とベンチしかない。少し歩けばもっと大きな公園があるせいか、この日は誰もいなかった。
ペンキの剥げたベンチに座ると、斉藤くんがすぐに紙袋を開けた。
「よかったら、食べて。作ったから」
中身は、カップケーキだった。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「うわぁ!」
つい、感嘆の声をあげる。
美味しそうなのもあるけれど、私のために手間暇をかけてくれたのが分かったからだ。
もしかして、もしかして。
私、実はかなり好かれてるいるんじゃない?
嬉しくて、泣いちゃいそうだ。
朝から、朝食と昼食以外の時間ずっとテスト勉強をし続け、そろそろ疲れたなと3時を示す時計を見ながら伸びをした時だった。
ケーブルを差したままのスマホが、机の上でブルっと震えた。
通知を見ると、斉藤くんからのメッセージだ。
『今、数分でいいんだけど、空いてない?』
電話したいって意味かな。
私の声が聞きたいとか?
我ながら、頭がハッピーになりすぎてる気がする。
『どうしたの?』
そう送ると、すぐに返信がきた。
『今、桜ちゃんの家の側にいるんだけど。渡したいものがあって』
文字を見た瞬間に固まる。
家の側!?
って、どこ!
ガラガラと部屋の窓を開けて目の前の通りを覗き込むと、道路を挟んだ向こう側に、彼が佇んでこちらを見ていた。
今行くと叫びたかったけれど、親に気づかれてしまう。
あわあわした後、手をオッケーの形にすると、すぐにメッセージを送った。
『待ってて!』
早く会いたくて、字数は短めにした。スマホと家の鍵だけ鞄に入れて、階段を降り、まずはリビングに向かう。
キッチンから、トントンと包丁の音がした。お母さんが、夕飯の下ごしらえをしているんだろう。
緩やかにカールした髪を1つに束ねた、年よりもちょっとだけ若く見えるお母さんに近寄る。
「お母さーん。勉強の小休憩に、散歩に行ってくるね」
慌てている様子を微塵も見せず、さりげなくを装いながらそう言うと「え?」と不思議そうな声が返ってきた。何か、おかしな態度だったかなと思いながら、話を続ける。
「根詰めすぎて、疲れちゃったから」
お母さんは、眉をひそめながら「待って」と言って包丁を置き、手を洗ってこちらに来ると、私の肩に手を置いた。
何か失敗したのかと大きく動揺して、目が泳ぐ。
「な、な、何、お母さん」
お母さんは大きく顔を振って、こう言った。
「確かに、根を詰めすぎているのかもね。着替えてから行ってらっしゃい」
私、ジャージだ!!!
しかも、ピンクジャージ!
さっき、この恰好で斉藤くんとアイコンタクトしちゃったよ!
「あ、はは。うん、着替えてから気分かえてくるね」
「そうしなさい。行ってらっしゃい」
大丈夫かなという視線を感じながらもう一度自室へ戻ると、急いで可愛い系の普段着に着替えてサンダルを履き、通りに出た。
「ごめん、遅くなって」
玄関からは走って道路を渡り、すぐに彼に謝った。
「いや、こっちこそごめん」
申し訳なさそうに彼が言う。手に持っている紙袋が、私に渡したいものだろうか。
「せっかくだし、公園に行こうよ。もうちょっと一緒にいたいし」
「あー、ごめんな。2日連続はさすがにと思って、渡すだけと思ってたんだけど」
「気にしないで。私は嬉しいよ、私のこと考えてくれたってことでしょ?」
そう言うと、斉藤くんはなぜか目をつむって口元に手をやると、「あぁー……」と呟くと、「そうだな」と言って歩き始めた。
並んでいる団地の中に入っていくので、おそらくその中央付近にあるこじんまりとした小さな公園に移動するんだろう。
行くのは、小学生以来かもしれない。
紙袋の中身はなんだろう。
渡してくれると分かっていても、気になる。
そもそも何で、何かくれる気になったのかな。
あ! 分かった!
夢の中で私、妄想を見せるお返しに何をしてくれるのかなって言っちゃったからだ、きっと。
それで、何かしないとと思ってくれたんだ。よりにもよって、テスト前のこの時期に。
相手への思いやりを持てば大丈夫なんて思っておきながら、変に気遣わせちゃったんだ。
嬉しいのに、ズズンと罪悪感がのしかかる。
「私、のせいだよね。私があんなこと言ったから、何かしないとって思ってくれたんだよね」
「ん、え? あー、ああ。いや、関係ないよ。いや、関係なくはなかったのかな。いや、どうだろう」
何とも煮え切らない返事が返ってきた。
「ごめん。私、あんまり考えずにしゃべっちゃうから、あーゆーの気にしなくていいよ? 重荷になりたくないし」
「いや、したくてしてるんだから、いいんだよ。着いたし、座ろ」
小さすぎる公園は、錆びついてキィキィ鳴るブランコと鉄棒、すべり台とベンチしかない。少し歩けばもっと大きな公園があるせいか、この日は誰もいなかった。
ペンキの剥げたベンチに座ると、斉藤くんがすぐに紙袋を開けた。
「よかったら、食べて。作ったから」
中身は、カップケーキだった。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「うわぁ!」
つい、感嘆の声をあげる。
美味しそうなのもあるけれど、私のために手間暇をかけてくれたのが分かったからだ。
もしかして、もしかして。
私、実はかなり好かれてるいるんじゃない?
嬉しくて、泣いちゃいそうだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる